上 下
2 / 8

2話 軟禁状態 その1

しおりを挟む

『絶対に婚約破棄はしないからな! お前は自室で反省していろ!』


 ジオス様に怒鳴られた私は、そのまま私はクレイブン公爵家の屋敷の割り当てられた部屋に閉じ込められた。廊下などへの出入りは比較的自由に出来るけれど、軟禁状態では? と思える状態だった。


「信じられない……ジオス様、こんなことまでするなんて……」


 私はこれでもヴィンセント家の侯爵令嬢という立場になる。爵位を持っているわけではないから、本当に偉いかと言われると微妙な立ち位置だけれど、ヴィンセント家自体はそれなりの権威を持っている。流石にクレイブン公爵家には勝てないけれど……。

「ねえ、アルカ。私は外に出ることも許されていないのかしら?」

「申し訳ありません、レオナ様。ジオス様には外に出さないように言われております」

「では、私が外の風を浴びたいと言っても、庭の散歩も出来ないということね?」

「使用人という立場上、レオナ様を外に出すわけには……申し訳ありません」

「まあ、仕方ないわよね」


 アルカは年齢が近いこともあって、クレイブン家の使用人だけど私の理解者でもある。彼女には何度も愚痴を聞いてもらっていた。そんな彼女でも、クレイブン公爵家に仕えている以上、私のお願いよりもジオス様の命令が優先されるのは当然なわけで。

「まいったわね……ヴィンセント家の屋敷に帰ることも出来ないじゃない」

「本来、そんなことは許されないのですが……」

「確かにね」


 これがクレイブン公爵家の力なのかな……元々、1カ月以上自宅には帰っていなかったけれど、今は異常事態になっている気がする。

「はあ……お父様達に現状を伝えることも難しいということね。ジオス様は最低だわ……」

「そうですね……レオナ様はこの屋敷に軟禁状態ですので、難しいと思います」

「そうよね……」

 あれ? アルカの言い方が含みがあるように感じた。私は思わず、彼女を見上げる。アルカはとても怪しい笑みを浮かべていた。すごく可愛かったけれど、同時に寒気がするような笑顔だ。

「例えば、私が出掛けることは可能ですので……うふふ」

「アルカ……大丈夫なの?」

「信じていただけませんか?」

「いえ、信じているわ。ただし、無理のない範囲でお願いね。あなたに迷惑を掛けることは本意ではないから……」

「ありがとうございます、レオナ様」


 アルカは深々と頭を下げた。手紙を出すということも考えたけれど、ジオス様に見つかってしまう確率が高いだろう。そういう意味では、アルカに直接依頼する方がはるかに安全と言えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした

ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。 彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。 しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。 悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。 その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・

【完結】捨てられ正妃は思い出す。

なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」    そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。  人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。  正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。  人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。  再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。  デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。  確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。 ––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––  他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。  前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。  彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。  

婚約者に嫌われた伯爵令嬢は努力を怠らなかった

有川カナデ
恋愛
オリヴィア・ブレイジャー伯爵令嬢は、未来の公爵夫人を夢見て日々努力を重ねていた。その努力の方向が若干捻れていた頃、最愛の婚約者の口から拒絶の言葉を聞く。 何もかもが無駄だったと嘆く彼女の前に現れた、平民のルーカス。彼の助言のもと、彼女は変わる決意をする。 諸々ご都合主義、気軽に読んでください。数話で完結予定です。

婚約者とその幼なじみの距離感の近さに慣れてしまっていましたが、婚約解消することになって本当に良かったです

珠宮さくら
恋愛
アナスターシャは婚約者とその幼なじみの距離感に何か言う気も失せてしまっていた。そんな二人によってアナスターシャの婚約が解消されることになったのだが……。 ※全4話。

私を運命の相手とプロポーズしておきながら、可哀そうな幼馴染の方が大切なのですね! 幼馴染と幸せにお過ごしください

迷い人
恋愛
王国の特殊爵位『フラワーズ』を頂いたその日。 アシャール王国でも美貌と名高いディディエ・オラール様から婚姻の申し込みを受けた。 断るに断れない状況での婚姻の申し込み。 仕事の邪魔はしないと言う約束のもと、私はその婚姻の申し出を承諾する。 優しい人。 貞節と名高い人。 一目惚れだと、運命の相手だと、彼は言った。 細やかな気遣いと、距離を保った愛情表現。 私も愛しております。 そう告げようとした日、彼は私にこうつげたのです。 「子を事故で亡くした幼馴染が、心をすり減らして戻ってきたんだ。 私はしばらく彼女についていてあげたい」 そう言って私の物を、つぎつぎ幼馴染に与えていく。 優しかったアナタは幻ですか? どうぞ、幼馴染とお幸せに、請求書はそちらに回しておきます。

公爵令嬢は愛に生きたい

拓海のり
恋愛
公爵令嬢シビラは王太子エルンストの婚約者であった。しかし学園に男爵家の養女アメリアが編入して来てエルンストの興味はアメリアに移る。 一万字位の短編です。他サイトにも投稿しています。

王女ですが、冤罪で婚約破棄を迫られています

杉本凪咲
恋愛
婚約破棄させてもらう。 パーティー会場でそう告げたのは、私の愛する彼。 どうやら、私が彼の浮気相手をいじめていたらしい。 しかし、本当にそんなことを言っていいのかしら。 私はこの国の王女だというのに……。

【完結】婚約解消、致しましょう。

❄️冬は つとめて
恋愛
政略的婚約を、二人は解消する。

処理中です...