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1話 お互い合意の元の婚約解消
しおりを挟む「私と婚約解消をしてもらいたい、ウェリア」
「ロア様……やはり、その道しかないのでしょうか」
私は婚約者であるロア・アルガイト伯爵令息と別れ話をしていた。私の名前はウェリア・シンプソン 17歳。地位は伯爵家になりロア様とは1年前に婚約をした相手だ。婚約の理由は同じ伯爵家で地盤を強化出来ればとか、お互いが収めている土地の収入を共有出来たりとかあったのだけれど、ここに来て別れ話が出てしまった。
「この1年間、お前とはそれなりに仲良くやってきたつもりだ……しかし、元が政略的なものだったからか、性格の不一致を埋めることはできなかったな」
「ロア様……」
私はどちらかと言うと緩い貴族と言われている。それに比べてロア様はやや潔癖という印象かしら。その辺りの性格の違いがあり、一緒に居ることが難しくなってしまった。ロア様は他人が使った物は消毒しないと使えないようだし……その辺りは私は苦手だった。
私も汚いのを好むわけではないけれど、男性が座っていたソファに座れないとか、そういう潔癖症は持ち合わせていない。
「婚約解消といこうか、ウェリア」
「はい……非常に残念ですが、ロア様」
「残念なのは私も同じだよ」
私達はお互いに話し合って、合意の元で婚約解消を決めた。その様子はロアの屋敷に仕える使用人達も見ている。残念ではあるけれど、こればかりは仕方ないのかもしれないわね。
「互いが合意の元での婚約解消だから、慰謝料の発生はしない。それで構わないね?」
「はい、ロア様。私はそれで構いません」
一方的な婚約破棄であれば多額の慰謝料が発生するところだけど、今回の場合はそれには該当しなかった。どの程度の頻度かは分からないけれど、シスマ―ル王国内でも婚約解消はあると聞くしね。
婚約破棄になると珍しいと思うけれど。
「非常に残念なことだが……これで、しばらくはお別れになるな」
「はい、ロア様。お元気で……」
「ああ、ウェリアこそ元気でな。今度会う時は誰かが主催しているパーティ会場といったところか」
「そうですね、その可能性は高そうです」
「お互いに他人同士になってしまうが、良ければ声を掛けてくれ」
「はい、そうさせていただきますね」
残念なお別れではあるけれど、私はある種の達成感を感じていた。お互いに禍根が残ることはないはずだし、非常に理想的な別れ方と言えるだろう。お別れそのものは残念なことだけれど。
私はその後、ロア様に頭を下げて彼の屋敷から出て行った。悲しみがないわけではないけれど、涙が出る程ではない。この時の私はこれから起きる信じられない事態を予想出来てはいなかった……。
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