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3話

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「シンディ―、紅茶ありがとう」

「いえ、エルザ様。とんでもないことでございますわ。貴方様はヴァイス・フーリッジ侯爵の婚約者なのですから。なんなりとご命令くださいませ」

「なんなりとね……」


 シンディ―はとても丁寧に接してくれている。それだけに、本当に彼女の身体が心配になってしまった。見えない部分は痣だらけになっていないかとか……現在の見えている部分だけを取れば、特に大きな傷跡があるようにはみえないけれど。それでも心配なことには変わらなかった。

「入っても大丈夫か? エルザよ」

「ヴァイス様でございますか?」

「その通りだ」

「は、はい! 大丈夫です!」


 先ほどは同行されなかったけれど、用事が済んだのか、ヴァイス様が訪ねて来たようだ。私は緊張してすぐに立ち上がった。それと同時にヴァイス様が扉を開けて中へと入って来る。

「あ……ヴァイス様! 本日はええと、その晴天ですね!」

「うむ、そうだな。晴天だな」


 最初の挨拶もままならない。ヴァイス様とこうして対面で過ごすのが慣れていない証拠だった。まあ、変態だと噂されているヴァイス様と会えば誰でもこうなってしまうとは思うけれど。ヴァイス様は私に近づき、そのままソファに座った。

「エルザも座ればどうだ? 立ちながらの話というのも面倒だろう?」

「か、畏まりました……それでは座ります」


 ヴァイス様の許可をいただいて私は対面のソファに座った。しばらく無言の時間が出来てしまう……彼は一体、何の用意でここを訪れたのだろうか? 単に私と会話をするためだけではないだろう。そうなると……今後のこと? つまりは……。


「あの、ヴァイス様。私に何か用件がございましたでしょうか?」

「用件か。そうだな……まあ、用件と言えばその通りかもしれんな」

「……」


 駄目だ、とても緊張してしまう。ヴァイス様が次に何を言うのか……本当に怖いからだ。次の時には「自分の言う通りに動く人形になれ」と言われても驚かないかもしれない。それくらい覚悟が決まっているというか、緊張しているからだ。私はヴァイス様の次の言葉を待った。シンディ―はヴァイス様にも紅茶を用意している。


「この屋敷には今まで、何人かの街娘などが訪れている。それは噂で聞いているのではないか?」

「えっ、あ……はい。確かに聞いています」

「そうか。私に対しての噂も気持ちの良いものではなかっただろう? 極度の変態だとか……色々、囁かれていたのではないか? その連れて来られた連中も酷い目に遭っているとか」

「うっ……それは……」


 まさかヴァイス様からその手の噂話が聞けるとは思わなかった。私は嘘を吐いても仕方ないと感じたので、そのまま頷くことにする。

「くくく、そうだったか。なるほどな」


 不気味? な笑いだろうか? 思っていたほどの不気味さは感じないけれど、確かにヴァイス様は笑っていたのだった。

「ではまず、エルザよりも前に連れて来られた者達の近況を見せてやろう。付いて来るがいい」

「ええっ! 前に連れて来られた人の近況ですか……!?」

「その通りだ。来るんだ、エルザ」

「は、はい……」


 なんだか見るのが怖いんだけれど……いよいよ、ヴァイス様の本性が垣間見れたと言ったところかしら?
 
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