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5話
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「レミュラ! 婚約破棄だと……!?」
「まあっ! そんな……!」
「申し訳ありません、お父様、お母様。私の不手際でございます……」
私はその夜、帰って来た両親にもソアラ姉さまと同じく、事の顛末を話していた。二人はソアラ姉さまとは違って、信じられない、といったオーバーリアクションをしている。この二人のしぐさを見ていると……姉さまがいかに冷静だったかが良く分かるわね。流石は姉さま……。
「本当に、申し訳ありませんでした……本当に……」
「馬鹿を言うな。レミュラが悪いことなどあるものか!」
「そうですよ、レミュラ。あなたが謝罪することなんて、まったくないんだからね?」
「お父様、お母様……」
二人の温かい言葉に私はまた涙を溢れさせてしまった……こんなに泣いたのは何時以来だろうか? もう、とっくに忘れてしまったわね。
「ふふ」
ソアラ姉さまも私の傍らで微笑んでくれている。
「3か月前の祝辞……あの時の宴の高揚感が、水の泡になってしまいました……」
「そうだな……まったく、カーティス公爵は何を考えているのだ? こんなこと、決して許されるはずはない!」
「ええ、まったくですわ!」
お父様もお母様も激怒している様子だった。私は家族に恵まれている……本当にそれだけは間違いない。溢れてくる涙はまだ止められないけど、この涙は決して嫌なものではなかった。
「お父様、お母様……レミュラを今度、舞踏会に連れて行こうかと思っております。彼女にも息抜きが必要でしょうし」
「宮殿で開かれる舞踏会のことか? ソアラ」
「左様でございます」
「なるほどなるほど。確かに、レミュラにとっては良い刺激になるかもしれんな。レミュラも大丈夫であれば、行ってきなさい」
「はい、お父様。緊張しますが参加したいと考えています」
「大丈夫よ、レミュラ。私が付いているんだから」
と、言いながらソアラ姉さまは、その美しい顔を私にくっつけて来た。とても安心はできるんだけど、少しだけスキンシップが激しいような……?
それにしても舞踏会か……どうなるんだろう……。まあ、姉さまと一緒であれば何も問題は起こらないと思うけれど。
-------------------------
マークスタイン王国の中心地である王都バレック。そのちょうど中央付近にサンピエス宮殿は存在していた。王族の方々の屋敷になる。かなりの規模であり、議会の審議室もサンピエス宮殿内に設けられている程だ。
私は今、その正門前にソアラ姉さまと一緒に来ていた。ものすごく緊張してしまう……いくら伯爵令嬢の身分とはいえ、サンピエス宮殿には簡単に入ることは出来ないのだから。その部分からして、ソアラ姉さまとの格の違いを感じてしまう。
「そんなに緊張しなくても大丈夫よ、レミュラ」
「そ、そう言われましても……姉さま……」
「私が付いているでしょう?」
「は、はい……ありがとうございます……」
ソアラ姉さまが居なければ、私は今頃、回れ右をして帰ってしまうところだ。今回の舞踏会は通常のそれとは格式が違うのだから。マークスタイン王国では舞踏会やパーティーと呼ばれる催し物のレベルが細かく設定されている。
それが貴族間での競争? を生むからとのことで、昔ながらの伝統を現在でも継承しているらしい。
「今回の舞踏会のレベルは5ですよね? 姉さま」
「そうね……つまりは最高レベルの舞踏会ということかしら。そこに参加できるのだから、もう少し堂々としていれば良いのよ?」
「が、頑張ります……!」
「ふふふ、頑張ってねレミュラ」
ソアラ姉さまに恥をかかせるわけにはいかない……妹はこのレベルか、と王族や大貴族の方々に思われたら迷惑になってしまうからだ。私はなんとか気を引き締め直した。よし、大丈夫!
「それに、紹介したい方が居るしね」
「姉さま……?」
なんだか、ソアラ姉さまが怪しく笑っていたように見えたけど、言葉は聞き取れなかった。
「まあっ! そんな……!」
「申し訳ありません、お父様、お母様。私の不手際でございます……」
私はその夜、帰って来た両親にもソアラ姉さまと同じく、事の顛末を話していた。二人はソアラ姉さまとは違って、信じられない、といったオーバーリアクションをしている。この二人のしぐさを見ていると……姉さまがいかに冷静だったかが良く分かるわね。流石は姉さま……。
「本当に、申し訳ありませんでした……本当に……」
「馬鹿を言うな。レミュラが悪いことなどあるものか!」
「そうですよ、レミュラ。あなたが謝罪することなんて、まったくないんだからね?」
「お父様、お母様……」
二人の温かい言葉に私はまた涙を溢れさせてしまった……こんなに泣いたのは何時以来だろうか? もう、とっくに忘れてしまったわね。
「ふふ」
ソアラ姉さまも私の傍らで微笑んでくれている。
「3か月前の祝辞……あの時の宴の高揚感が、水の泡になってしまいました……」
「そうだな……まったく、カーティス公爵は何を考えているのだ? こんなこと、決して許されるはずはない!」
「ええ、まったくですわ!」
お父様もお母様も激怒している様子だった。私は家族に恵まれている……本当にそれだけは間違いない。溢れてくる涙はまだ止められないけど、この涙は決して嫌なものではなかった。
「お父様、お母様……レミュラを今度、舞踏会に連れて行こうかと思っております。彼女にも息抜きが必要でしょうし」
「宮殿で開かれる舞踏会のことか? ソアラ」
「左様でございます」
「なるほどなるほど。確かに、レミュラにとっては良い刺激になるかもしれんな。レミュラも大丈夫であれば、行ってきなさい」
「はい、お父様。緊張しますが参加したいと考えています」
「大丈夫よ、レミュラ。私が付いているんだから」
と、言いながらソアラ姉さまは、その美しい顔を私にくっつけて来た。とても安心はできるんだけど、少しだけスキンシップが激しいような……?
それにしても舞踏会か……どうなるんだろう……。まあ、姉さまと一緒であれば何も問題は起こらないと思うけれど。
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マークスタイン王国の中心地である王都バレック。そのちょうど中央付近にサンピエス宮殿は存在していた。王族の方々の屋敷になる。かなりの規模であり、議会の審議室もサンピエス宮殿内に設けられている程だ。
私は今、その正門前にソアラ姉さまと一緒に来ていた。ものすごく緊張してしまう……いくら伯爵令嬢の身分とはいえ、サンピエス宮殿には簡単に入ることは出来ないのだから。その部分からして、ソアラ姉さまとの格の違いを感じてしまう。
「そんなに緊張しなくても大丈夫よ、レミュラ」
「そ、そう言われましても……姉さま……」
「私が付いているでしょう?」
「は、はい……ありがとうございます……」
ソアラ姉さまが居なければ、私は今頃、回れ右をして帰ってしまうところだ。今回の舞踏会は通常のそれとは格式が違うのだから。マークスタイン王国では舞踏会やパーティーと呼ばれる催し物のレベルが細かく設定されている。
それが貴族間での競争? を生むからとのことで、昔ながらの伝統を現在でも継承しているらしい。
「今回の舞踏会のレベルは5ですよね? 姉さま」
「そうね……つまりは最高レベルの舞踏会ということかしら。そこに参加できるのだから、もう少し堂々としていれば良いのよ?」
「が、頑張ります……!」
「ふふふ、頑張ってねレミュラ」
ソアラ姉さまに恥をかかせるわけにはいかない……妹はこのレベルか、と王族や大貴族の方々に思われたら迷惑になってしまうからだ。私はなんとか気を引き締め直した。よし、大丈夫!
「それに、紹介したい方が居るしね」
「姉さま……?」
なんだか、ソアラ姉さまが怪しく笑っていたように見えたけど、言葉は聞き取れなかった。
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