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2話

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 私はその後、どうやって自分が屋敷に帰ったか思い出せなかった。普通に考えれば、護衛達に連れられて、御者の操作する馬車で帰ったのは明白だったけれど。思い出せない。


「レミュラ様……大丈夫でございますか?」

「え、ええ……大丈夫……大丈夫よ……」


 シェルブールの屋敷のメイド達は私を気遣ってくれていた。嬉しかったけれど、悲しみがそれ以上に押し寄せて来たから、上手く感謝を表現できなかった。とても悪いことをしてしまったわね……。そのまま、私は自分の部屋へと入った。


 メイドの一人であるライザは紅茶を淹れてくれたけれど、正直な話、喉を通らなかった。


「申し訳ありません、レミュラ様……出過ぎた真似をしてしまいました……」

「いえ、大丈夫よ……! 気にしないで! 後で必ず飲んでおくから……!!」

「さ、左様でございますか……ありがとうございます……!」


 紅茶を淹れてくれたライザは笑ってくれていた。彼女には詳細は語っていないけれど、ある程度は察してくれているようね……はあ、なんだか本当に鬱になるわ。


 ほんの2時間前の出来事……今でも信じられないことだ。ボイド様とイレーヌの醜い笑い声がすぐに思い出されてしまう……。


「……ボイド様、いえ……様なんて本当は付けたくないけどね」

「レミュラ様、心中お察し致します……」

「どうもありがとう……」


 私はなんとか力強く、紅茶を淹れてくれたメイドに笑顔を向けた。そういえば、お父様やお母様の姿を見てないような……留守なのかしら?


「ところでライザ、お父様やお母様はいらっしゃらないの?」

「ジーク様とシャネラ様は少し用事で出掛けておられます」

「そうなんだ……ありがとう」


 お父様やお母様がいらっしゃらなかったのは良かったのかもしれない。3か月前のシェルブール家でのお祭り騒ぎ……婚約が決まったことによる祝福が、ただのまやかしになってしまったことを話したくはなかったから。お父様やお母様の落胆する様子は見たくない。

 ただし、いつまでも黙っていることは出来ないのだけれど……。


「ただ、レミュラ様……その、なんというか……」

「どうしたの、ライザ?」


 ライザはなんだか言いにくそうにしている。なんだか嫌な予感がするわ……どうしたのかしら?


「その……ソアラ様が来ていらっしゃいます……」

「えっ……?」


 私は悲しみに暮れていたはずだけれど、ソアラ姉さまの名前を聞いた瞬間、身体に雷が走ったような感覚に襲われた。いえ、もちろんこれはどちらかと言うと嬉しさの方なんだけれど……ええと……。

「レミュラ、居るの?」

「ね、姉さま……!?」

「ひっ……!?」


 ノックと共に聞こえて来るのはまさしくソアラ姉さまの声だった。メイドのライザもびっくりしている。まさか、このタイミングで姉さまが現れるなんて……とても優しい姉さまのご登場というわけだ。


 少し優し過ぎるのが逆に怖かったりするのだけれど……。
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