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7話
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私達とラッド様はレストランの中も視察することにした。内部はほとんど完成されていて、かなりの広さを誇っている。教会の近くで辺鄙なところだから、お客さんが来るか心配だったけれど、これなら教会の行きかえりに繁盛するかもしれない。
レストラン「エンデバー」……オープンは1週間後となっていた。つまりはほぼ、完成形を見ていることになる。シェフや従業員も完璧に用意されているはずだ。そうじゃないと、1週間後にオープンなんて不可能だから。だからこれは、視察というよりも最終チェック……いえ、最後の観察みたいなものね。
クレア姉さまもラッド様も完成していることは分かっていたわけだ。で、私はイレギュラーで参加したわけだけれど。姉さまの態度やラッド様の様子が気になってしまった。色々と含みがあるように感じたから。
「このコーヒー美味しいですね」
「うむ、そうだな。なかなかの味だ。宮殿でもこの味は出せないかもしれない」
「本当に美味しいです……」
私達はなぜかレストラン内でコーヒーをいただいていた。いえ、本当に美味しいコーヒーなんだけれど……これも視察の一部なのかしら?
「姉さま、これも視察の内なんですか?」
「もちろんよ、シンディ。視察にはレストランの食事の出来なども含まれているのよ」
「なるほど……」
まあ、これは姉さまなりの冗談なのだろう。1週間後にオープンなのに、食事や飲み物の出来が悪いなんて考えられないし。視察はあくまでも外観の部分に限られているはずだ。このコーヒーの時間は余暇の時間とでも呼べばいいのか……。
それに、この懐かしい雰囲気はなんだろうか? 多分、気のせいではないと思うんだけれど……。
「シンディ嬢、退屈かな?」
「えっ? あ、いえ! そんなことありません! 申し訳ございません!」
ラッド様から急に話しかけられた。私はどうやら退屈な表情をしていたらしい……そんなつもりはなかったけれど、大変な失態だ。
「いや、全然気にしなくていいよ。別に責めているわけじゃないし」
「あ、そうですか……?」
「シンディ、緊張し過ぎよ? もっと楽にしたらいいのに」
「姉さまが緊張しなさすぎなんですよ!」
「まあ、そうかもしれないわね」
クレア姉さまはさっきよりも緊張していないように見える。ラッド様を前にしてどういうことだろうか? ラッド様はクレア姉さまのことを忘れかけていたみたいだし、そこまで親しい関係ではないように見えるんだけれど。
「エンデバー……いよいよ、オープンするんだな。感慨深いよ」
「ラッド様の夢なんでしたっけ?」
「そうだな。子供の頃の儚い夢……そう言うと綺麗に聞こえるかな? 実際にはエゴなのかもしれないけどさ」
「そんなことありませんよ。きっと思いは通じていると思います」
「そうかな。それならいいんだが」
「……」
二人が何の話をしているか分からなかった。でも、本当に懐かしい思いが巡ってしまう。エンデバー……このレストランにも親しみが生まれそうだ。幼少の頃の……彼の名前なんだし。
「シンディはどう? このレストランを見て、何か感じない?」
「そうですね……懐かしい思いが芽生えています。教会に近いからなのかもしれませんけれど」
「教会か……私も子供の頃はよく通っていたよ」
「えっ? そうだったんですか?」
「まあね」
ラッド様があの教会に行っていたなんて……なんだろう? 不思議な感じがしてしまう。もしかしたらすれ違っていた? 彼とは今回、初めて会うはずだけれど。
「昔は……エンデバーと名乗っていた時もあったからね」
「えっ……?」
私の時が一瞬、止まった気がした。今、ラッド様はなんて言ったの……?
レストラン「エンデバー」……オープンは1週間後となっていた。つまりはほぼ、完成形を見ていることになる。シェフや従業員も完璧に用意されているはずだ。そうじゃないと、1週間後にオープンなんて不可能だから。だからこれは、視察というよりも最終チェック……いえ、最後の観察みたいなものね。
クレア姉さまもラッド様も完成していることは分かっていたわけだ。で、私はイレギュラーで参加したわけだけれど。姉さまの態度やラッド様の様子が気になってしまった。色々と含みがあるように感じたから。
「このコーヒー美味しいですね」
「うむ、そうだな。なかなかの味だ。宮殿でもこの味は出せないかもしれない」
「本当に美味しいです……」
私達はなぜかレストラン内でコーヒーをいただいていた。いえ、本当に美味しいコーヒーなんだけれど……これも視察の一部なのかしら?
「姉さま、これも視察の内なんですか?」
「もちろんよ、シンディ。視察にはレストランの食事の出来なども含まれているのよ」
「なるほど……」
まあ、これは姉さまなりの冗談なのだろう。1週間後にオープンなのに、食事や飲み物の出来が悪いなんて考えられないし。視察はあくまでも外観の部分に限られているはずだ。このコーヒーの時間は余暇の時間とでも呼べばいいのか……。
それに、この懐かしい雰囲気はなんだろうか? 多分、気のせいではないと思うんだけれど……。
「シンディ嬢、退屈かな?」
「えっ? あ、いえ! そんなことありません! 申し訳ございません!」
ラッド様から急に話しかけられた。私はどうやら退屈な表情をしていたらしい……そんなつもりはなかったけれど、大変な失態だ。
「いや、全然気にしなくていいよ。別に責めているわけじゃないし」
「あ、そうですか……?」
「シンディ、緊張し過ぎよ? もっと楽にしたらいいのに」
「姉さまが緊張しなさすぎなんですよ!」
「まあ、そうかもしれないわね」
クレア姉さまはさっきよりも緊張していないように見える。ラッド様を前にしてどういうことだろうか? ラッド様はクレア姉さまのことを忘れかけていたみたいだし、そこまで親しい関係ではないように見えるんだけれど。
「エンデバー……いよいよ、オープンするんだな。感慨深いよ」
「ラッド様の夢なんでしたっけ?」
「そうだな。子供の頃の儚い夢……そう言うと綺麗に聞こえるかな? 実際にはエゴなのかもしれないけどさ」
「そんなことありませんよ。きっと思いは通じていると思います」
「そうかな。それならいいんだが」
「……」
二人が何の話をしているか分からなかった。でも、本当に懐かしい思いが巡ってしまう。エンデバー……このレストランにも親しみが生まれそうだ。幼少の頃の……彼の名前なんだし。
「シンディはどう? このレストランを見て、何か感じない?」
「そうですね……懐かしい思いが芽生えています。教会に近いからなのかもしれませんけれど」
「教会か……私も子供の頃はよく通っていたよ」
「えっ? そうだったんですか?」
「まあね」
ラッド様があの教会に行っていたなんて……なんだろう? 不思議な感じがしてしまう。もしかしたらすれ違っていた? 彼とは今回、初めて会うはずだけれど。
「昔は……エンデバーと名乗っていた時もあったからね」
「えっ……?」
私の時が一瞬、止まった気がした。今、ラッド様はなんて言ったの……?
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