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111話 ラブピース その3

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「次の方、どうぞ」
「はいっ」

 悟は番号札と呼ばれた順番が合っていることを確認し、男の前に座った。先ほどまで、女性と話していた男だ。

「本日は仕事をお探しということでよろしいですか?」
「ええ、てっとり早く稼ぎたいんで、稼げる仕事を斡旋してもらえないすか?」
「なるほど、稼げる仕事ですね。少々お待ちを」

 悟は少し不遜な態度で男と接した。髪の毛をツーブロックにしている男は特に気にしている素振りはないが。そして、幾つかの書類を提示する。

「単純な配達の仕事から、店の接客、あとは……採掘場の作業員もありますね」
「給料は作業員が一番高いっすね」
「体力仕事ですから。仕事もアーカーシャの東、賢者の森近くになります」
「……賢者の森?」



 悟はふと疑問が浮かんだ。あの一帯は広大な森林地帯だ。岩陰などに洞窟はあるかもしれないが、金鉱などがあるとは聞いたことがない。それに、エミルの父親などが働いている鉱山は南の海岸付近にあるはず。悟は実際にエミルの父親の話は知らないでいたが、鉱山地帯の場所に違和感を覚えた。


「作業員の仕事であれば、現地集合となります。こちらが集合場所を記した地図になります。よろしければお越しください」
「ありがとうございます。一度、考えてみますよ」

 悟は男に礼を言うと、そのまま立ち上がりモントーレと合流した。予想以上に早く終わったことにモントーレ自身も驚いている。

「どうだ? 見極められたのか?」
「いえ……ですが、表面的過ぎる言葉には辟易しましたよ。俺が言えたことでもないですけど。こういう地図も貰いましたし、一旦出ましょうか」
「ああ」

 悟とモントーレの二人はそのまま、テルパドールハウスを出ることにした。本日の偵察は終了ということだ。悟は調査要員でもあるので、顔を覚えられるのも不味い。悟自身、そういった考えで、すぐに席を外したのだ。


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 その日の夜は「フェアリーブースト」にとっても新情報を得た結果となった。テルパドールハウスから出た悟は剣術道場へと帰還し、剣術の稽古を再開。そして、夜になって寄宿舎「オムドリア」に戻って来たのだ。

「賢者の森の採掘仕事……か」

 悟がラブピースより紹介された採掘場は、賢者の森の近くにあるとなっていた。賢者の森はアーカーシャの東、10キロほど先に存在している。フランケンドッグなどを含め、レベル30程度のモンスターが現れる危険地帯だ。稀にレベル110のグリーンドラゴンやレベル99のミノタウロスの存在も確認されている。

「悟、ラブピースの拠点にいきなり行くなんて……」
「いや、モントーレさんと休憩がてら……まあ、その時にこの地図を受け取りましたし」

 談話室で彼らは集まっている。ラムネは、悟を心配しており、その表情は憂いを帯びていた。ここに無事に帰れたのは運が良いと思っているのだ。実際に向かった悟としては、表面上は愛想よくする必要がある為、あそこで襲われることはないと確信はしていたが。

「賢者の森の近くに採掘場なんてあったか?」
「いや、ないな。南の鉱山地帯なら作業員も多いが。」
「おいおい、てことは指定の場所に集まった連中は見事に誘拐されちまうってことか? おいおい、マジかよ」

 ラブピースの得意な手口にレンガートも頭を抱えていた。それ以外にも、街中でも誘拐事件は起こっているのだ。事態は深刻になっていると言えた。

「ジラークさんからも忠告は受けていたが……ラブピースは本当に危険な集団だな」
「収入源のはっきりしない団体……実際は、裏組織「ローガン」と繋がっているなんてね。最近はボスが殺されて、アインザーっていう人がトップになったみたいだけど」
「ああ、俺達と同じ歳くらいらしいな。そんな奴が治める組織全体でラブピースはその一部でしかない。ラブピースくらいは簡単に制圧できないとな」

 ヘルグは言葉とは裏腹に表情は強張っている。彼の言葉は正しく、ラブピースは複数国家に存在する「ローガン」傘下の組織の1つでしかない。

 春人たちSランク冒険者は、アインザーを始めとしたトップクラスの裏組織の連中と戦うことを想定するなら、ラブピース程度は始末できなければ、今後アーカーシャの平和を守ることもできなくなるだろう。

 ヘルグ達も現状に満足などしていない。アーカーシャのエースとまでは行かなくとも、頼れるチームとして名を刻みたいとは考えているのだ。


「賢者の森付近に、ラブピースの実行部隊のアジトがあるのかもな。行ってみるか?」
「そうね、偵察という意味合いでは悪くないと思うわ」
「悟はどうだよ? 行きてぇか?」

 悟を除く3人は意見は一致している。返答が遅れている彼に、レンガートは質問した。少し遅れた形で彼も答える。

「そうですね。俺も行きますよ、ちょっと怖いですけど……」

 一人、レベルで劣る悟はどうしても恐怖を拭えなかった。しかし、一人ではとれも行けない場所ではあるが、頼りになる先輩方も一緒なのだ。彼の中でヘルグ達の存在はそれだけ大きなものとなっていた。

「決まりだな。あとは……」

「たかが、Cランク冒険者のお前らが賢者の森とかやめとけよ」
「ん? あんたら……」

 ふと耳に入って来た男の声にヘルグは振り返った。特に聞き慣れた声というわけではない。しかし、反射的に振り返っていたのだ。そこに居たのは……。

「アレク……」
「よう、ヘルグ。久しぶり」

 悟としては初めて見る人物、同じ専属員として活動しているBランク冒険者「イリュージョニスト」のメンバーがそこに居たのだ。

 イリュージョニストは3人組の男のメンバーであり、全員ヘルグと同年代の同期である。結成自体はイリュージョニストの方が先ではあるが、Bランクにランクアップは彼らの方が早く行っていた。


「Bランク冒険者様が、この寄宿舎に何の用だ?」
「そう邪見にするなよ。俺達もラブピースを追っていることは知ってるだろ? ちょっと、忠告に来てやっただけだ。そしたら、賢者の森の情報を仕入れていやがったから驚いただけだよ。俺達以外にもあそこに目を付けた奴が居たなんてな」

 アレクは自信満々に言ってのける。見方によっては盗み聞きをしたとも取れるが、アレクの言葉はそのような雰囲気は感じさせなかった。

悟としても、自らがあれほど簡単に仕入れることができた情報の為、他のチームが仕入れていても不思議には思わない。同時に、ネオトレジャーなどの面子も知っていても不思議ではないと思っていた。

 アレクの後ろにはレンガート並みに大柄な男が立っていた。イリュージョニストのメンバーである、エンデとコウテツだ。二人共無骨な顔と無口がウリなのか、全く話す様子を見せない。

「こいつらは無口なんだ、気にしないでくれ。イリュージョニストのマーケティングはリーダーである、俺ことアレク・ハンフリーの仕事だ」

 そう言いながら、アレクは赤い髪を大袈裟に掻き揚げた。意地の悪そうな外見ではあるが、かなりの二枚目である。それから、ヘルグたちを横切って、悟の前へと立った。

「お前が悟……だな?」
「え? そうだが……なんだよ?」

 悟としても、彼の態度は好きにはなれなかった。談話室にいきなり現れたBランク冒険者だが、不遜な態度に映ったからだ。敬語はわざと省いている。

「その顔の造形……この周辺の者ではないな。高宮春人といい、異国の者が来るのが最近は流行っているのか?」

 悟は驚いた。おそらくアレクの言葉に他意がないことはわかっているが、自分たちの情勢を正確に分析したのだ。異世界からの連続転生……アレクという人物は聡明な頭脳の持ち主なのかもしれない。


「高宮春人の恐ろしさは異国の者というのがどうでもいい程の強さだが……悟、お前を見ればなにかわかるかもしれないと思ったが、強さや才能に関してはお前たちは別種の生き物のようだな。参考にならなかった」

「この……! 黙って聞いていれば……!」

 悟は怒りが込み上げていく。最近は、色々と春人と比べられることも多い為に、この手の会話は彼の沸点を上げる要因になっているのだ。

「やめておけよ。お前如き、再起不能にするのは容易い」
「悟も落ち着け! アレク、煽りたいだけならば帰ってくれるか?」
「そうだな。なら、俺達は明日にでも賢者の森に向かうとしよう。お前たちは足手まといになるから、情報だけ仕入れていればいいぞ、無理はするな」
「この……! 盗み聞きしてただけかよ!」

 アレクは賢者の森の情報など持ち合わせてはいなかった。悟の話を盗み聞きしただけである。全く悪びれる様子を見せないアレクは、二人の大男と共に寄宿舎を出て行った。

「くそっ!」
「……私達も出発した方がいいわね。明日にはなるけど。せっかく掴んだ情報を盗まれたら癪だし」
「ああ、そうだな。ただし、「イリュージョニスト」の連中は強い。当然「ハインツベルン」よりもな……気を付ける為に、アイテムなどは万全に揃えてから行くとしよう」
「よっしゃ、腕が鳴るぜ!」

 悟もヘルグ達に続くように力強く頷いた。掴んだラブピースの情報……目的地は賢者の森周辺である。
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