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101話 闇の軍勢 その3

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 ディランたち「ナラクノハナ」に遅れること数十分、春人たちソード&メイジとビーストテイマーはオードリーの村へと到着した。馬車で向かった彼らではあるが、特別な作戦などは特に考えていなかった。

「ていうか、殲滅されてない? あの村……」
「不味いね、どうしよう?」
「敵の戦力とかもわからないしね……正面から叩くのがいいんじゃない? ていうか、それしかできないし」

 ソード&メイジの二人は正体不明の軍勢に対しても恐れている気配を微塵も感じさせない。鉄巨人やアテナ達との戦いを経験している為に、他の冒険者たちとは驚くレベルが違うのだ。


「闇の軍勢は相当数居るようですわね。数を減らすのが定石でしょうか」
「……3桁は居ると思う」

 見える範囲でルナは敵軍の数を数える。正確性には欠けるが、ルナは大体の気配で探る能力を持ち合わせているのだ。


「村が機能していない以上、とにかく黒騎士たちの能力を見極めないとダメかな」
「そうね。まあ、見た感じだと私たちが苦戦するレベルではないと思うけど」

 アメリアは村の入り口付近に居る黒騎士達を観察していた。それなりの強さを持つ者であることは理解できたが、自分たちが負けるレベルではないことも悟っている。

「いつも通りの攻めでいいんじゃない?」
「いつも通りって……俺が先陣を切るの?」
「嫌?」
「ううん、そんなことないよ」

 苦笑いを浮かべる春人だが、それはソード&メイジの中でも基本戦略となっていた。そう、彼らが組んでから、その方式が変わったことはほとんどない。

 春人が突進をして、アメリアが後方からの魔法による攻撃&サポートだ。最も、本当の意味で二人が協力したことは、あまりないが。

「入口付近の騎士たちは気付いているようですわ。春人様、お気をつけて」
「私たちも全力でサポートする……春人は安心して突っ込めばいい」
「レナさん、ルナさん……ありがとうございます」

 レナとルナはそれぞれ魔空間から硬流球を合計で10個取り出した。自在に空中を疾走させ、様々な攻撃が可能な代物だ。彼女たちの攻撃を補佐するビットのような働きをしている。  硬流球は、物理的な攻撃をする代物となっていた。

 春人はユニバースソードを構えて敵を見据える。つい最近もスコーピオンの軍勢に突っ込んで行った春人だ。まさにその時の状況と酷似していた。恐怖は感じない……影状態のサキアも居るのだから猶更だ。


 サキアとは言葉を交わさなくても通じ合えるものがある。ある意味ではアメリア以上に近い存在なのかもしれない。


 そして、春人は右腕にユニバースソードを握り、高速で黒騎士達に向かって行く。村の入り口付近に滞在していた10体程度の黒騎士たちは、焦った様子もなく身構える。春人が攻撃を開始することは予測済みだったのか、その中の数体は春人に向かって行ったのだ。


 闇の軍勢の騎士の攻撃とレベル880の春人の剣撃が交差する。お互いの持つ剣の材質による強弱はあったのかもしれない。だが、黒騎士の剣は粉々に砕かれた。春人のユニバースソードは刃こぼれ一つ起こしていない。

「サキア、どのくらいだろう?」
「マスターよりもはるかに弱いです。この程度であれば、私でもすぐに倒せます」

 影状態のサキアはそう言いながら、目の前の黒騎士を切り刻んでいた。他の黒騎士達の動きが停止する。予測はしていたことだが、鎧の中に人の気配はなく、瘴気が零れだしたかと思うと、結晶石の塊へと姿を変えた。

「扱いはモンスターのようです、マスター」
「なるほど、亡霊剣士みたいな存在か。そういえば、冒険者になって、初めて倒した敵も亡霊剣士だったな」

 春人は冒険者としての最初の敵、レベル41の亡霊剣士を思い出していた。当時は鉄の剣で挑み、初心者用のダンジョンでいきなり現れた格上の強敵……それなりの死闘の末破った相手ではあったが、あの時のことを考えて、眼前の黒騎士のレベルを推測する。

「亡霊剣士よりははるかに強いな。でも……」

 春人はユニバースソードを振り払い、同時に2体の黒騎士を始末した。プリンのようにとまでは行かないが、黒騎士がガードできるレベルをはるかに超えており、容易にその鎧を切り裂くことに成功したのだ。

「レベルは120~140くらいかな?」

「はい、マスター。そのくらいが妥当だと思います」

 自らの攻撃で倒される具合を見てのアバウトなものだ。サキア自身も確定したレベルはわかっていないようだが、100を少し超えるということでお互いの見解は一致していた。

 その後、春人に向かって来た黒騎士と、村の入り口で攻撃の構えを取っていた騎士たちは簡単に始末することに成功した。アメリア達のサポートも全く必要のないレベルだったのだ。

「お見事、春人」
「ありがとう、アメリア」

 二人は入り口付近で合流してハイタッチを交わした。

「結晶石に変化いたしましたね。そうなると、召喚獣……というよりも、鎧に瘴気を混ぜ込み操っているということでしょうか」
「……ネクロマンサーの能力に近いかも。どちらにしても、凄い能力者だと思う」

 レナとルナはそれぞれ、黒騎士の存在に関する検証を言葉にしてみせた。二人とも稀代の召喚士としての能力を有しているだけに、興味があるということだろう。

「黒騎士のレベルが恐らく120~140くらいとすれば……それが最大で3000体とかだっけ? さすがにヤバいわね」
「体力的な問題もあるしね。この村にはそこまでの数は居ないだろうけど」

 3000体の黒騎士の情報はマシュマト王国のギルドで聞いた情報である。黒騎士の数は2000~3000体程度存在すると言われており、春人たちにとってもその数は脅威と言えるレベルであった。一体のレベルが亡霊剣士クラスであれば、そこまで脅威ではないが、120以上となれば話が変わってくる。

 レベル880と驚異的な強さを誇る春人でも人間なのだ。モンスターである鉄巨人などとは体力という意味合いでは差が生じてしまう。春人もこの世界へと転生してからは、40キロのフルマラソン程度は簡単にこなせるようにはなっているが。

 だが、2000体以上のレベル100越えのモンスター軍団との連続戦闘となれば、比べるベクトルが違ってくる。例えほとんどダメージを負うことはなくとも、体力を削られて負ける可能性は十分に考えられることであった。もちろん、春人一人だけで戦った場合の話ではあるが。


「……村の生き残りが居るかもしれない。もう既に、多くの犠牲者が出てる」

「はい。少しでも多くの人を助けられるように、進みましょう」

「賛成ですわ。すぐに村の中へ入りましょう」

「ソード&メイジとビーストテイマーが来たことを後悔させないとね。闇の軍勢だかなんだか知らないけど、随分勝手なことしてくれたみたいだし」

 春人たち4人はそれぞれ言葉を発してから、村の内部へと脚を踏み入れた。正体不明の闇の軍勢……1億5千万ゴールドの依頼はこうして開始されたのだ。
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