48 / 119
48話 是正を促す者たち その3
しおりを挟む「ゴイシュさん、僕たちがここに来た目的は分かってますよね?」
是正勧告に訪れたのはアルマークとイオの二人。入り口に立って、二人を出迎えたのはゴイシュであった。
「ああ、もちろんだ。とりあえず入りな、本日付でAランクの冒険者。歓迎しますぜ」
ゴイシュはアルマークとイオを入り口でもてなすと、そのまま奥へ入るように促した。彼らも最大限の警戒はしているが、是正勧告を行う以上寄宿舎内に立ち入らないわけにはいかない。
「初めてかは知らないが、この寄宿舎は底辺冒険者の掃き溜めだからよ? 妬みなどで色々されるかもしれないが、注意してくれや」
ゴイシュはそう言いながら、アルマークの隣のイオに目をやった。7分袖の青いベストに下はスパッツを穿いている。鍛えられたしなやかな下半身は、ゴイシュの心を動かすには十分すぎた。
「実際、行動を起こす危険な人って目の前のあんたくらいでしょ? あ~やだやだ、なんか視線感じるんだけど。アルマーク助けて~」
冗談っぽくアルマークの後ろに隠れて、ゴイシュを挑発するイオ。ゴイシュは無表情だったが、イオのその態度は琴線に触れていた。
「イオ、そんな挑発したら駄目だよ。僕たちは是正勧告で来てるんだから」
「へへ、わかってるって! まあ、万が一襲われても、私達が目の前の変態に負けるわけないしね」
アルマークにじゃれ付きながらイオはゴイシュを見た。底辺のボスとして君臨し、勘違いをしながら周囲の冒険者に迷惑を掛けているこの男。
自らをいやらしい目つきで眺めてくるゴイシュを、イオは完全に毛嫌いしていた。アルマークもゴイシュに対する感情は同じである。
「ち、くそ女が……見てろよ」
苛立ちの表情を浮かべるゴイシュはイオ達に聞こえないように小声でつぶやいた。
----------------------------------------------
「フィアゼスの神経ガス?」
「ああ、これは噂だけどな……ゴイシュ達が手に入れている可能性はある」
その頃、別室では「フェアリーブースト」の面々が「ハインツベルン」の作戦について予想をしていた。話しているのは悟とヘルグだ。
今回、アルマークとイオは事実の裏付けとしてアトランダムに冒険者の意見を聞いて回る。形式的なものではあるが、今までの内定調査の結果と併せて、ゴイシュに是正勧告をするのだ。
万が一、改善が見られない場合はゴイシュ達のパーティは問答無用で追放される。物理的な力で劣るゴイシュには逆らう術などはない、かなり強制力の大きな勧告になっている。
「フィアゼスの名を冠するだけあり、相当な強者にもそのガスは通じるらしい。元々はアルゼル・ミューラーが持っていたらしいが」
「その男からゴイシュが譲り受けていた場合は、そのガスをゴイシュが使う可能性があるってことですね?」
「ああ、それ以外でゴイシュが「センチネル」に勝てる術はないだろうからな」
ヘルグはゴイシュがそんなガスを持っているかどうかも確信は持てないでいたが、ゴイシュのあの余裕の表情から、ガスの所有は間違いないという結論を導き出していた。
悟は考えを巡らせた。アルマークは少なくとも、同じ剣を交えた相手。まだ、知り合って日は浅いがアルマークとイオの二人がゴイシュに手籠めにされてしまうのは許しがたい。なんとか助けられないか。
「まあ、相当ヤバいな。とくにイオがどうなるかは想像通りだろ」
ヘルグも悟と同じ考えを持っていた。悟としても、以前ゴイシュから直接言われていたことを思い出した。ゴイシュはあの二人に相当に執着している。必ず成功する罠は仕掛けられていると見るべきだろう。
「助けたいのはわかるが、お前は足手まといだからな」
「レンガートさん」
「そうね、悟はまだまだ弱いからね」
部屋に入って来たのはレンガートとラムネだ。悟の考えを先読みして話し出した。
「そもそも、俺たちじゃアルマークとイオの足下にも及ばないしな。本来ならあの二人の心配は余計なお世話だろ」
レンガートはさも当然のように言った。剛腕と言われるだけあり、彼はとても大きな体つきをしているが、アルマークやイオとの力比べでも全く及んでいない。通常であれば、あの二人への心配など不要だった。
「でも、神経毒で身体の自由が利かない状態だと、あの二人とゴイシュの強さは逆転するかもしれないわ」
「それが、あの男の狙い……?」
強力な神経毒による身体能力の低下。いくら、フィアゼスの神経毒という名称が付いた毒であっても、二人を完全に行動不能にできる可能性は低い……ならば、ゴイシュ達からすれば拘束できるようになるほど、身体能力が低下すれば御の字という結論に至るわけだ。
「ハインツベルン」はそのように考えている……「フェアリーブースト」の中でそういった考えが思い浮かんでいた。「ハインツベルン」の計画を阻止する必要がある……彼らとてやられっぱなしは我慢ならないのだ。
「よし、いいか? これからのことをよく聞いていてくれ」
「は、はい……」
そう言うと、ヘルグは悟に何かを話し始めた。
-----------------------------------------
「寄宿舎の環境ですか……まあ、悪くはないと思いますね。ただ、一部上位の人らを除けば」
「そうですか、わかりました。貴重な意見、ありがとうございます」
各々の冒険者に寄宿舎の状況をアトランダムに質問をしていくアルマーク。ゴイシュは離れたところにいるので、こちらの声は聞こえてはいない。
「おかしい……、彼らが言わされてるようには見えないや」
「そだね、普通に思ってること言ってるように見えるね」
アルマークとイオの二人はゴイシュが、寄宿舎の冒険者に脅しをしているのではないかという懸念は持っていた。その為のアトランダムの質問なわけではあるが、彼らに質問をされた冒険者も脅しをかけられている雰囲気は少しもなかった。
「考え過ぎだったかな?」
「油断は禁物だよ、アルマーク。私達は是正勧告するだけだから。あとは、本部がやってくれるよ」
アルマークとイオは今回は経験の意味を込めて、表面的な部分を行い、勧告をして完了だ。それ以後は本部の仕事となり、もしも力に訴えた場合はジラークなどが投入される。つまり、反抗する間も無く殲滅されることは決定事項であった。
ゴイシュの命運はほぼ決まっていると言っても差し支えはない。彼ら「ハインツベルン」は既に強制的に排除されるレベルまできていたのだ。
「それでは、一度、僕たちは戻ります。正式な処置は後日の是正具合で決まります」
「つまり、あれですかい? 俺は改善しないとダメなんですかい?」
「あたりまえじゃん。少なくとも、寄宿舎のトップからは下りてもらうから!」
力強いイオの発言。しかし、ゴイシュは何も言い返すことはない。アルマークは彼の無言を変に思っていた。この状況で言い返さない理由が分からないでいたのだ。
「なんとか言いなさいよ!」
「いや、イオ……なにか、変だ」
攻撃の準備をしているのか……アルマークはゴイシュから何が飛んで来てもいいように、迎撃の準備を整えた。この状態であれば、ゴイシュ程度の攻撃はたやすく弾ける。
しかし、彼からはなにも飛んで来ない。代わりに、彼らの後ろからジスパとキャサリンの二人が現れた。
「あ~、「ハインツベルン」の総力で戦うつもりなんだ? でも無駄だし」
イオも拳を構える。手に付けているナックルでいつで攻撃可能な態勢を取った。キャサリンもジスパも何も話すことはない。
「……!? ……しまった、イオ……!」
「え……アルマーク……!?」
身体を揺らすアルマークに、イオは怪訝な表情を見せた。なにか彼の体調に変化が現れたと直感したのだ。だが、その変化はイオ自身にも現れた。
「く……!? 身体が……! 動かない……」
「こいつら、息をしていない……。神経毒を散布しているんだ……」
アルマークは周囲を警戒し、ゴイシュ達の呼吸音が消えていることに気付いたのだ。しかし、全ては遅かった。既に周囲には神経毒が撒かれた後だったからだ。そして、タイミングを見計らってか、キャサリンが風を巻き起こし、周囲の霧状の毒を吸い寄せ、息ができる状態に戻した。
「ぷはっ! かなりやばいってこれ! もうちょっとで倒れるところだったわよ」
「ふう……効くまでの時間も相当ですな。さすがと言えましょうか、ほほほ」
「だが、効果はてきめんだ。フィアゼスの神経毒「レメディガス」。神経毒として相当強力な代物だからな」
呼吸をただしながら、ゴイシュたちは勝利を確信していた。目の前のアルマークとイオは既に視界すらぼやけている状態だ。この状態で自分たちが負けるはずはない。「ハインツベルン」は薄汚い欲望の笑みを浮かべながら、アルマークとイオを蹂躙し始めた。
0
お気に入りに追加
777
あなたにおすすめの小説
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
神様との賭けに勝ったので異世界で無双したいと思います。
猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。
突然足元に魔法陣が現れる。
そして、気付けば神様が異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。
もっとスキルが欲しいと欲をかいた悠斗は神様に賭けをしないかと提案した。
神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―――
※チートな主人公が異世界無双する話です。小説家になろう、ノベルバの方にも投稿しています。
神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。
猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。
そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。
あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは?
そこで彼は思った――もっと欲しい!
欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。
神様とゲームをすることになった悠斗はその結果――
※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。
神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜
月風レイ
ファンタジー
グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。
それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。
と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。
洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。
カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる
名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。
~僕の異世界冒険記~異世界冒険始めました。
破滅の女神
ファンタジー
18歳の誕生日…先月死んだ、おじぃちゃんから1冊の本が届いた。
小さい頃の思い出で1ページ目に『この本は異世界冒険記、あなたの物語です。』と書かれてるだけで後は真っ白だった本だと思い出す。
本の表紙にはドラゴンが描かれており、指輪が付属されていた。
お遊び気分で指輪をはめて本を開くと、そこには2ページ目に短い文章が書き加えられていた。
その文章とは『さぁ、あなたの物語の始まりです。』と…。
次の瞬間、僕は気を失い、異世界冒険の旅が始まったのだった…。
本作品は『カクヨム』で掲載している物を『アルファポリス』用に少しだけ修正した物となります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる