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40話 マニアックなお店 その4
しおりを挟むバニーガールのお店「ドルトリン」。安い酒から高い酒までを千差万別に取り揃えており、会員や名のある冒険者はVIPルームという、特別な個室に招かれる。バニーガールの年齢は10代から20代であり、かなりレベルの高い女の子が多いと評判の店でもある。
その中でもルクレツィアは美貌とスタイルの良さからトップに君臨しており、メドゥは働き始めて間もないが、期待の新生として人気が上昇していた。そして、そんな二人は現在、春人とアルマークをVIPルームに招いて、楽しんでいるのだった。
「す、すごいですよね、二人とも」
「ああ、エロい。すごく、いい」
春人とアルマークはほろ酔い気分でソファに座っている。ルクレツィアとメドゥの二人は、VIPルームに設置してあるポールでダンスを踊っていた。大胆に脚を上げたりといった行動もするので、春人もアルマークもすっかり釘づけになってしまっている。
「あ、そういえば、僕の剣術道場に大河内 悟っていう人が来てるんですけど……」
「大河内 悟?」
アルマークはグラスに入っている酒を飲み干しながら、思い出したかのように言った。春人も来ていることは知っているが、この10日間まだ話したことはない。バーモンドの酒場で、それらしい人物は見かけているが。
「もしかして、春人さんのお知り合いなのかなって」
「ん? まあ、知り合いだよ」
「やっぱりそうなんですか? 同郷って聞きましたけど」
アルマークは興味津々といった表情を春人に見せている。春人としても転生の話は隠す必要もないが、ややこしくなる為、その辺りはぼかしたままにしておいた。
「同郷で合ってるよ。それで? 悟は元気だった?」
「ええ、身体の方は元気みたいです。「フェアリーブースト」っていう冒険者パーティに入ってますけど」
春人もよく知らなかったが、悟が寄宿舎でパーティを組めたことには素直に喜んだ。探索の際の危険が減るからだ。
アルマークはギルドで専属員などもしているので、情報が早い。
「ただ、あの寄宿舎はゴイシュのパーティが牛耳ってまして。悟さん含む「フェアリーブースト」も肩身が狭くなってるみたいです。この数日だけでも、何度かトラブルになったとか」
春人はゴイシュの姿を思い出す。時計塔でルナがショーをしていた時に、アルゼルの傍らに居た男だ。直接の面識はないが、Cランク冒険者で、襲撃事件の際の協力者の一人だった可能性が非常に高い人物だ。
礼儀正しいアルマークですら、ゴイシュに敬語は使わない。「ハインツベルン」は冒険者の名を汚すほどに素行が悪いことで有名だからだ。あの事件を経て、とうとうアルマークも堪忍袋の緒が切れたようだ。釈放はされているが、加担していたのはほぼ100%だからだ。
「これは同じパーティのヘルグさんから聞いたんですけど、悟さんゴイシュに腕を折られかけたとか……」
「腕を……?」
春人の酔いが醒めてしまう。二人は何気なく始まった会話で、ポールダンスを見ている余裕がなくなってしまった。悟のことは、春人としても好きにはなれないが、それにしても知り合いがそんな仕打ちを受けたと聞いて、無表情でいられるわけはなかった。
「やり返さなかったのかな?」
「春人さん……悟さんの実力はご存知ないんですね」
非常に申し訳なさそうな態度を取るアルマーク。彼なりのフォローなのだろうか。春人はやらかしていることに気付いていない。
「? ゴイシュはアルゼルよりもはるかに弱いと聞いたけど……」
春人はアルマークの態度の意味がわからず、また見当違いの発言をしてしまう。もちろん悪気があるわけではないが。アルマークもそれがわかっているのか、少し話しづらそうにしていた。
「春人さん、春人さんはご自分が強いということを認識された方がいいですよ? そうじゃないと、反感を買う恐れがあります」
アルマークなりの精一杯の言葉。彼は春人に不快な思いをさせないようにしていた。春人もなんとなく、空気を察する。「しまった」、彼は小声でそう言った。
「ゴイシュと悟には、明確な実力差がある。要はそういうことかな?」
「はい、そういうことです。アルゼルがレベル60程度。ゴイシュは半分以下の25程度のモンスターを狩れます。この二人だけでもかなりの差です」
人間にはレベルという表記はないので、明確に強さを測定することが難しい。大抵はどのレベルのモンスターを狩れるかで、レベル換算が行われている。
「それから、悟さんはレベル8くらいです。春人さんからすれば、この3人の差は微々たるものかもしれませんが、当事者からすると大きな壁です」
いきなり、亡霊剣士やグリーンドラゴンを倒した春人では、その値を感じることはできない。これは才能あるものの弱点と言えるのかもしれない。アルマークとしては、春人には周囲から反感を持たれないように、超然として多少傲慢になってほしいという気持ちがあった。
自ら才能あるものを自称していれば、それだけ反感は薄らいでいく。実際はそうはいかないが、変に恐縮することによる反感は消えていくだろう。
「なるほど……ちなみに、アルマークは?」
「僕は、40~50の間くらいです、あはは」
照れたように話すアルマーク。彼は自慢することが苦手なため、言いなれていないのだ。近い内にAランクへの昇格も決定している。
「すごいじゃないか。もうすぐAランクだしね」
「ありがとうございます。春人さんの足下にも及びませんけど、少しでも追いつけるように頑張ります」
春人の賛辞にアルマークはとても感激している様子だった。春人の半分の能力のサキアがレベル90のグリフォン以上の段階で、春人の強さはまだまだ上限が見えず、アルマークとの実力差はとてつもないということになる。アルマークは決して追いつけない壁だとは知りつつも、努力を怠ることは考えていない。
「まあ、僕のことはともかくとして……悟さんはやっと闘気を収束して、戦士として活動できるようにはなっています」
「冒険者として、活動できてるならいいことだと思うよ」
「ええ。ただ、最近のゴイシュの行動は目に余ります。寄宿舎自体が「ハインツベルン」によって私物化されているようなもので……今度、是正を兼ねて様子見に行く予定なんです」
悟が住んでいる寄宿舎は「オムドリア」と呼ばれている。そこに、専属員として「センチネル」のアルマークとイオが是正勧告に向かう手筈になっていた。独立する上で、危険因子は排除するという狙いもある。
アルマークとイオを向かわせるのは経験の為という意味合いも大きい。彼らも喜んで承諾した。
「お仕事の話もいいですけど、私たちの踊りも見てほしかったです」
「途中から~~~~ぜ~ん~ぜ~ん~見てない~~~」
少し不満そうなメドゥはアルマークに抱きつく。春人を後ろから羽交い絞めにするのはルクレツィアだ。二人とも背中にかかる胸の圧力にとても照れていた。
「す、すみません……! 謝りますから……!」
「行けません。お詫びとして、一緒にポールダンスはいかが?」
「ええ?」
とても魅力的な誘いを受ける春人。正直言って断る理由はなかった。アルマークもメドゥに顔を胸に押し付けられて悶えている。
「どうですか? 春人さん」
「ま、まあ……踊るだけでしたら……」
「おほほほほ、それなら後で私とも踊ってくれないかしら?」
春人がルクレツィアの踊りの誘いを承諾した瞬間……とても聞き覚えのある声がこだました。春人がそちらの方向を見ると、VIPルームの扉の前にはバニースーツに身を包んだ、アメリアとイオの姿があった。二人ともとても綺麗……だが、笑い方が常軌を逸している。
「あ、アメリア……あはは、偶然だね」
「ええ、春人さま~。今宵は私がお相手いたしますわっ」
とても優しい口調のアメリア。笑顔も絶やさない表情に春人は戦慄する。とても怒っていらっしゃる……春人は直感的に感じた。
「ゲスト参戦してもらったわ。今宵は楽しい話でもしましょか」
そして、最後に扉から現れた人物。黒服に身を包んだ、クライブ・メージェントだった。
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