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28話 思い出

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 アーカーシャの街の危機。グリフォンの進撃は未然に春人達によって防がれた。そして、アルゼル・ミューラーの計画の根幹を排除した者達。

「もう2週間以上経つけど、相変わらず「シンドローム」の連中はよくわからないわね」
「個性的な人達のような気がします」

 2週間前にアルゼルによって被害を被った「海鳴り」は冒険者たちの力もあり、すぐに元の状態に戻すことができた。割れた窓ガラスや壁なども魔法の力により、修復は完了していた。

 アメリアとエミルがテーブルに座りながら話をしているが、「シンドローム」と呼ばれるのは、最近になって誕生した冒険者パーティである。

「ラグア・ハインリッヒの強盗団を事前に殲滅。同時にグリフォンとアルゼルも殺害。ネクロマンサーの能力は、「シンドローム」のリーダーの能力だろうけど。そこは黙秘、と」

 最初こそ、彼らは敵兵であると疑われた。しかし、実際にアーカーシャにもたらされた利益や彼らのメリットなどを考慮し、功績として認められたのである。グリフォンたちの暴走に関しても死者がいない以上、現在は保留になっている。

「暫定Aランク冒険者。春人さんと同じように短期間での昇格ですね」
「まあ、4人パーティだけどさ。実力的にはSランク冒険者よ、彼らは」

 構成された面子はリーダーのジャミル・ドロシー 25歳。巨大なオカマのアンジー・スピカ 22歳。早口のオルガ・デマート 19歳 スローテンポのメドゥ・ワーナビー 17歳となっている。
 冒険者登録も終え、彼らは「シンドローム」として活動を開始。まだ完全攻略されていない遺跡の探索を始めている。

「オルランド遺跡8階層、アクアエルス遺跡4階層にも来る予定らしいわ。うかうかしれられない」
「ライバル……ということでしょうか?」
「うん、そういうことね。ま、色々腑に落ちない連中だし、目的は不明なのが気になるけど、冒険者仲間なのは事実ね」

 アメリアは意外にも「シンドローム」のメンバーに対して悪い感情は持っていなかった。彼女の過去には色々な危険な人間がいたわけだが、それらと比較した上での直感だ。


また、アルゼルは街娘を攫う計画を練っていたが、そこにはエミルの名前も入っていた。もしも、彼らがおらず、計画通りにことが運んだ場合はもぬけの殻になった酒場でエミルを守りぬける者はいなかっただろう。


「案外、あの連中には感謝かもね」
「……そうなんですか?」
「ううん、こっちの話。あ、春人遅いわよ!」

 昼間の太陽が最も上っている時刻、春人は遅れて酒場の2階から姿を現した。そして、二人の少女の前に立つ。


「ごめん、ごめん。遅れた」
「ったく、女の子待たせるとか。なにやってんのよ」
「おはようございます……ではないかもしれませんね。こんにちは、春人さん」
「うん、エミル」

 本日は3人で出かける予定だった。すこし春人が遅れた形になっていたのだ。

「おはようございます、お二人共」

 そして、春人の影から出てきたのはサキアだ。エミルは話には聞いているが、まだ彼女に慣れていない。

「お、おはようございます。また春人さんと寝たんですか?」
「はい、マスターのお側に居るのが私の務めですから」

 その話を聞いてエミルの顔には青筋が出ている。この2週間で少しマシにはなったが。まだまだ、彼女は納得をしていない。

「春人さん」
「は、はい」
「こんなに可愛らしい方が添い寝してくれるなんて、悪い気しないですよね?」
「あ、いや……確かに可愛いけど、別に添い寝してるわけじゃ……」

 春人はエミルの圧力にたじたじになってしまった。サキアを紹介してから、エミルの様子は変わっている。バーモンドは「3人目か、春人。ハーレムじゃねぇか」と茶化しており、その関係性を楽しんでいる節がある。

「マスター、そろそろ私を使っていただいて構わないのですよ?」
「その「使う」というのはとてもいやらしい気がするから、今はやめようか」

 これ以上、そっちの話になるとまずい。春人はすぐに中断させた。アメリアも笑顔ではあるが、明らかに不機嫌になっている。彼女とのキスはエミルには内緒にしているのだ。このままではそれも漏れかねない。

「そ、それにしても、またすごい冒険者が誕生したなっ」

 やや不自然ではあるが、春人は話題を切り替えた。

「そうよね、シンドローム。3か月前には春人が来るし……最近、色々変わってるわね」
「春人さんが、こちらに来られてもう3か月なんですね」

 3か月ほど前に春人は転生してきた。最近はそのことを考えていなかったが、以前は思い出すことも多かった。

 思い出すのは、同じクラスの男子……何人かに苛められていた嫌な思い出でもあるが、茶髪のピアスを開けた男をその時は思い出していた。

 彼の高校には不良はいなかったが、茶色い髪を肩にかかるくらいまで伸ばしたその男は、学年でも目立つ存在ではあった。春人に目をつけていじめていたのだ。あまり好ましい思い出ではないが、命のやりとりをしている彼にとって印象は薄くなっていた

 それに、嫌な思い出ばかりでもない。クラスの委員長を務めていた青色の長い髪をした女性。瞳の色も青く、スタイルは抜群と言われていた。特に胸は90センチ以上と言われており、水泳の時間などはなんとか覗こうとしていた者も居たほどだ。学年でも1位と称されていた美少女で、成績も優秀、運動能力も高い。

委員長と言うこともあり、日陰者の春人にも優しく接してくれていた。義務感からきていたのかもしれないが、それでも春人は彼女に対して、ほのかな恋心を抱いていた。初恋の相手でもある。

「どうしたの、春人?」
「大河内 悟(オオコウチ サトル)と天音 美由紀(アマネ ミユキ)さん……。ああ、俺は委員長って呼んでたっけ、懐かしいな」

 聞き慣れない言葉を話す春人にアメリアは訝しげな表情をしていた。

「ところで、レジール王国の方はどうなったの?」
「えっと、イスルギさん達も一旦帰国してって流れにはなったけど。詳しい話は聞いてないわね、そういえば。まあ、おそらくグリフォン討伐や海岸線の強盗団殺害の件で、周辺国家への牽制はできたと思うけどね」

 アメリアは自信あり気に話した。海岸線の強盗団の襲撃阻止やアルゼルの殺害、ほとんどの功績を「シンドローム」に持って行かれたのが癪ではあるが、アーカーシャが中立国として認められる可能性が高まったのは、素直に喜んでいた。

「あの、お話は歩きながらでも可能ですし、そろそろ行きませんか?」
「そうだね、行こうか」
「りょ~かい」

 春人、アメリア、エミルの3人はそのまま酒場を後にする。サキアは春人の影に隠れて付いてくることになった。



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 そして、同じ日の夜……アーカーシャの外れの崖付近にて……

「……え? ここは、どこだ?」

 見知らぬ男が、見慣れぬ光景に戸惑いながら周囲を見渡していた。茶色い髪を肩近くまで伸ばし、両耳にピアスを付けた男。比較的二枚目で筋肉質の男は非常に焦った表情となっていた。

 新たなる転生者の誕生である……。
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