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23話 デスシャドー「サキア」

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 オルランド遺跡7階層……かなり広大な階層であり、出現するモンスターのレベルは60~80以上にもなる。もはや、Sランク冒険者以外の立入りができない危険地帯。出現する宝も売れば100万ゴールド以上になる物も多い。
 一度、取り尽くされた宝も運が良ければ再設置という形で出てくる可能性がある。まさに一攫千金と言えるだろう。

「すやすや……」
「う~ん、寝にくい……」

 春人とアメリアの二人はそんな危険地帯で眠っていた。アイテムで敵の出現は制限しているが、完璧ではない。アメリアは春人と少し離れた場所で寝ていた。なぜか、春人とくっついて寝ることを進言していたが、さすがに春人は断ったのだ。

「まあ、厳密には断る必要はないと言うか……アメリアがそんなこと言ってくれるなんてな」

 未だにアメリアみたいな美人が自分と一緒に寝てくれることが信じられない。春人はそんな考えを巡らせていた。顔だけで言えば、釣り合いは取れていないと本人は感じている。

 アメリアを見ているといけない一歩を踏み出す衝動に駆られることも事実だ。健全な17歳であれば、普通の反応。エミルとの関係も偽であることを考慮すれば、彼がその感情を抑制する意味合いは低いと言える。

「はあ……アメリアの服装がもっと大胆だったら、多分、襲ってるだろうな……」

 アメリアが今回は聞いていないことを確認しながら、春人は話す。彼女の旅の服装はほとんど露出はない。おまけに鉄ごしらえの胸当ても付けているので余計にだ。それでも魅力を隠しきれていないが。

「……あれ?」

 そんな時、自分の懐から光が出ていることに気付いた春人。懐に手をやると、先ほど入手した黒のケースが光を放っていた。

「な、なんだ……!?」

 春人は驚いて、思わずケースを投げる。地面に落ちたケースはさらに光を放ち続け、中から影のようなものが現れた。

「か、影……どうなって……!?」

 そして、その影はみるみる形を形成し始めた。その形は……少女の形。黒い艶のある長髪であり、大和撫子のそれを思わせる。服装は、ボロボロのバスローブのような物を纏っていた。浮浪者と間違えそうな格好だ。

「え? え?」

 目の前で起きた光景に春人は驚きを隠せない。と、言うよりなぜ少女が現れたのか意味がわからなかった。

「マスター、ご命令を」

 人間の少女と全く変わらない見た目と声……耳が尖っているなども見当たらない。外見は14~5歳くらいに見える少女は春人をマスターと呼んだ。

「なにかご命令はないですか?」
「命令って……君はなんだ?」

 春人は「誰だ?」とは聞かない。明らかに人間ではないことは分かるからだ。マッドゴーレムから出てきたアイテム……フィアゼスの宝の1つと考えるのが妥当だろう。

「私はデスシャドーです。「サキア」という名前もあります」
「……デスシャドーってなに?」

 またわからない単語が出てきた。彼女は春人の質問も命令と捉えているのか、淡々と答える。

「デスシャドーはマスターの影に潜み、お守りする存在。ですので、私の全てはマスターの為にあります。マスター、以後お見知りおきを」

 有無を言わせないサキアの言葉。春人はなんとなく理解した気になっていた。つまりは、そういうアイテム……若しくは魔法生命体ということだろう。

「サキアか……」
「はい、そのように呼んでいただければうれしいです」
「君はモンスターなのか?」
「……デスシャドーはアイテム扱いかと。基本の形は人間の肉体ですので、意志を持った道具です」

 そう言いながら、サキアは服を下からめくり出した。身体を見せたのだが、春人は思わず顔を背ける。

「わかったから、服は戻して」
「……はい。人間の形から、すぐにマスターの影にも潜めます」

 サキアは今度は、瞬時に影の形になり、春人の足元に姿を消した。見た目的には地面に吸い込まれたような形だ。

「ご理解いただけましたか?」
「う、うん……大体……」

 サキアは春人の足元から人の姿になって現れた。間近に見る黒髪の少女。瞳は黒で染められており、吸い込まれそうになる。かなりの美少女であったために、春人は思わず目を背けた。

「私はあなた様にお仕えいたします。これから永遠に」

 そして、サキアは春人と唇を重ねた。春人はもはや、何をされたのかすらわかっていなかったが、驚くほど気持ちのいい感触に包まれた。そして、サキアの舌も無造作に侵入してくる。一瞬、抵抗することも春人は忘れていた。

「……なにやってんの、春人?」
「ぷはっ……! あ、アメリア……! こ、これは……!」

 春人はアメリアの存在も忘れていた。


「へぇ~、デスシャドーなんて初めて見た」
「知ってるの?」

 とりあえず事の顛末をアメリアに話した春人。意外にもアメリアはそこまで驚いてはいない。

「神聖国の文献で見たことあるわ。影のモンスターって感じで、主人の半分のレベルを発揮できるとか。使いように寄っては相当便利よね」
「はい、私はマスターの2分の1の強さになります。マスターが強い程、私の力も上がります。
「ほほう、どれどれ……」

 アメリアはサキアの力を感じようと、彼女に近づいた。そして……

「……え?」
「アメリア……どうしたの?」
「え、な、なんでもないわ」

 アメリアは何を思ったのか、サキアからすぐに離れた。不思議な行動に春人は疑問に思ったが、アメリアからその後の返答はない。

「……まあいいわ。でも、春人とキスしていたのはどういうわけ?」
「はい、親愛の証です。舌も入れた方がいいと思いまして」

 恥ずかしげもなく、サキアはアメリアに語った。彼女は春人に向き直る。

「ふ~ん、舌まで入れたんだ。春人どうだった?」
「あ……うん、まあ……」

 エミルとさえしていないディープキス。非常に気持ちは良かったが、アメリアの冷たい視線に、春人は何も言えないでいた。

「えっと、サキアだっけ?」
「はい」
「私はアメリア。よろしくね」
「アメリア……覚えました。よろしくお願いします」

 サキアは頭を下げ、アメリアに挨拶をした。アメリアもサキアの頭を撫でていた。


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「そ、それで俺に付いてくるの?」
「いけませんでしょうか?」

 先ほどまでのサキアとは違い、かなり寂しそうな表情になるサキア。見た目がいくつか下の少女にこんな表情をされては春人の性格からNOとは言えなかった。

「ま、まあ……いいか。よろしく、サキア」
「はい、マスター。よろしくお願いします」

 サキアは急に明るくなり、春人に抱きついた。影とは思えないぬくもりに春人は思わず顔を赤らめる。今までの女の子の中でも、積極的という意味合いではトップである。厳密には人間ではないが。

「春人、デレデレじゃない……なに? こういう引っ付いてなんでもしてくれる子とか大好物なわけ?」
「い、いや……別にそういうわけじゃ……」

 春人はアメリアに否定の言葉を出したが、内心はすこし図星を突かれて戸惑っていた。男であればこういうシチュエーションには憧れる。それを言おうかとも思った春人だが、別の突っ込みが入ると感じやめておいた。

「でもさ、サキアってどんな存在なんだ? フィアゼスの宝だろ?」

 フィアゼスの名前を聞いたサキア。少し、その表情は変化した。

「ジェシカ・フィアゼスのことですね? はい、私の生みの親になるかと」
「ずいぶん抽象的ね、当時のこと覚えてないの?」

 淡泊なサキアの回答に、アメリアが突っ込む。

「記憶は曖昧です。当時、私はまだ起動していませんでしたから」
「色々と話聞いてみたけど、それは後でいっか。とりあえず、戻りましょ」

 フィアゼスの宝で意志のあるサキア。当時の話など、文献ではわからないことも聞けるかもしれない。それを考えれば超レアアイテムと言えるだろう。


「戻るのか……この状況、エミルになんて説明しよう……」

 つい漏れてしまった春人の心の声。それを聞いたアメリアの表情が変わった。

「春人って、エミルに言い訳するのが最優先なんだ」
「言い訳? ……別に最優先ってわけでは」
「……」

 アメリアは春人の言葉を聞いていない。いや、聞こえてはいるが、敢えて無視をしたのだろう。
彼女は春人に顔を近づけ、彼の顔を覗き込んだ。春人は思わず顔を背けるが、彼女はそれを許さなかった。そして、アメリアの唇が春人のそれを塞いだ。


「………!!?」


 長い……長い時間だった。あまりの出来事、こちらの世界に来て一番の驚きの瞬間かもしれない。それほどに春人は驚いた。ものすごい力で春人を拘束するように動かさないアメリア。春人も抵抗はできないでいた。

「……あ、アメリア……?」
「じゃあ、行きましょ」


 解放された春人は唇の感触が生々しく残っていることなど忘れてしまっていた。アメリアの表情を見るのに精一杯のためだ。しかし、彼女は特に気にすることなく、先に出発の準備を進め始めた。


 春人は呆然と立ち尽くしており、そんな彼女を後ろから眺めている。サキアもまた、首をかしげて冷静な表情をしていた。本日は春人にとって、かなりの変化と言えるのかもしれない。1つはサキアの存在、そして1つは……アメリアとの関係である。
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