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18話 円卓会議 その3
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時計塔近くに位置するアルトクリファ神聖国の教会。円卓会議の当日になった本日、神聖国の最高権力者である大神官ヨハネスはその場所に滞在していた。当然、この期間は教会内に一般人が立ち入ることはできない。護衛である神官たちが列を作っている為だ。
「本日は記念すべき日になりましょう、我らがフィアゼス神よ」
ヨハネスは教会内部に配置されている銀の女神像の前でそうつぶやき跪いた。英雄フィアゼスへの敬意を込めたものであり、神聖国ではごく一般的に見られる光景だ。彼の隣では同じく跪いた男の姿があった。
「首尾はどうだ? ミルよ」
「はい、賢者の森の遺跡の隠し扉の先の宝は回収完了です。至高の杖と法衣を獲得致しました。フィアゼスの宝の中でも一段階高い希少性、強さを発揮する物と思われます」
大神官の質問に的確な回答をしたのはミルドレア・スタンアーク。シュレン遺跡の隠し扉を開放した男である。大神官の下の階級の神官長の一人であり、事実上神聖国最強の人間と呼ばれている。白く短めの髪を適度にすいており、どこか気だるげな瞳をしている。教会の法衣を身に着けている為、余計に分かり辛いが相当な筋肉質な男である。
「隠し扉内にて、ミノタウロスと交戦になりました。打倒しましたが、例のトラップも発動したようなので、周辺にそのクラスの魔物が出現する可能性はあるかと」
「さすがだミルよ。レベル99のミノタウロスを一蹴するとは。だが、隠し扉内はやはり危険なモンスターが守っているようだな。それだけでも収穫だ」
実際にミルドレア自身は確認していないが、彼も隠し扉を開けたことにより周辺にミノタウロス前後のモンスターが出現するようになることは予期していた。レベル110のグリーンドラゴンがまさにそれに該当するが、今後も現れる可能性はあるだろう。
「サイトル遺跡、オルランド遺跡の隠し扉の探索も進めよ。我らがフィアゼス神に報いる為にな」
「……フィアゼス神ですか。彼女は一介の冒険者であったと聞きます。もちろんその才覚は天地神明以上と聞いておりますが、フィアゼスは神ではないかと」
ミルドレアは大神官にそう告げると、そのまま立ち上がりその場を後にした。
「フィアゼスは人間だと言いたいのか? ミルよ、お前の信仰の希薄さは自らが最強であるという自負の裏返しだろうな」
大神官は去って行く最強戦力を温かい目で眺めていた。通常このような態度は許されないが、何事にも例外はある。ミルドレアはそんな数少ない例外に該当していた。
---------------------------------------------
「ミル! ヨハネス様に失礼じゃない! あなたは思ったことを言い過ぎよ!」
「エスメラルダ……そうかりかりするな。美人が台無しだぞ」
教会の外に出るや、同じ外套を纏った女性に叱責を受けるミルドレア。彼女はエスメラルダ・オーフェン。ミルドレアと同じく神官長の地位に立つ人物である。宝石のような瞳を持ち、ヘアバンドで飾られた緑の髪は、彼女の愛くるしさを強調している。ミルドレアのお目付け役のしっかり者で、神聖国でも彼女を慕う者は非常に多い。
「どうして大神官様にもああいうこと言ったの?」
「ジェシカ・フィアゼスが神だと? 彼女は人間だぞ? 歳を取らぬ人ならざる者になっていたのかもいれないが作り自体は人間だ。神と崇め奉るのは彼女に対しても失礼ではないか? 神聖国の信仰など彼女にとっては余計なことだろうな」
ミルドレアは独自の見解を述べるが、エスメラルダには届かない。
「フィアゼスが人間なのか、そんなことはどうでもいいのよ! 要は彼女が世界を手に入れて英雄と呼ばれた事実が重要なんだから。それから、彼女の意志を継いだ私達の先祖が神聖国を作ったんでしょ? フィアゼスを信奉するのは自然の流れじゃない!」
「フィアゼスは死亡したのかもわかっていない。姿を消した彼女を都合の良いように解釈した者たちが神と奉り国を建国、市民から寄付金を奪い至福を肥やしたのだろう。1000年も経過しているのだ、事実など誰もわからんさ」
エスメラルダは21歳であるが、22歳になるミルドレアの歪曲した考えには以前から賛同できないでいた。ある種、才能が有り過ぎる者の屈折した考えなのかもしれない。
「ミル、私はあなたのこと尊敬しているけど、その考えは神官長失格よ」
「過去の偉人をいつまでも信奉し続ける方が余程異常だ。過去の偉人に対して失礼だし、未来を見据えていない」
「言いたいことはわかるけど……つまり、ミルは自分が一番強いって言いたいのよね? 自分を崇めろと……あなたにしか言えないセリフね、それは」
ミルドレアの考え自体はエスメラルダもわかっていた。過去の英雄を奉ったところで現代には影響がない。ミルドレアは現代を見据えることを強く願っているのだ。
「隠し扉のミノタウロスも本気を出すには値しなかった。俺が本気を出せる日々は何時になるのか……」
「あなたの自尊心には本当に敬服するわ。自分を奉れなんて誰も言えないわよ……」
気怠い印象とは正反対の内に秘めた闘争心。それがミルドレア・スタンアークだ。超が付くほどの唯我独尊とも言える。
ミルドレアは自分こそが崇め奉られるべきであると理解している。エスメラルダもそう感じていた。彼は強すぎる為に本気を出す機会がなかったのだ。神聖国最強の肩書きは、彼を歪んだ考えに至らしめたと言えるだろう。
「もしかして、隠し扉の探索を率先して願い出たのもそういうわけ?」
「ああ、そういうことだ。まだまだ隠された強敵がいることを願っている。隠し扉を暴いていけば、必ず凶悪な魔物にも遭遇できるだろう」
神聖国にはフィアゼスに関する書物が多く埋蔵されている。その中にはモンスター図鑑なる書物も存在し、そのモンスターの特徴などが描かれたものもある。図鑑に記載された強敵、未だ発見されていないモンスターも含めて、ミルドレアは楽しみにしていた。
「隠し扉はまだまだ存在する、私の本気を引き出してくれる存在がいることを期待しておこう」
ミルドレアは長身の優男といったイメージではあるが、かなりの二枚目である。彼の髪を掻きあげるしぐさでも周りの神官の女性はうっとりとした表情をしていた。
エスメラルダは少し引いていたが。ミルドレア・スタンアークは自らのポテンシャルの高さを十分理解しており、それを隠すこともしない人物である。だが、それが傲慢であると批判をされないのは彼の圧倒的な強さ故であろう。誰しもが認める才能、ミルドレアという人物はそういった才能を持ち合わせていた。
「はあ……まあ、いいわ。ところでヨハネス様の護衛はしっかりね。余計なお世話だと思うけど」
「心配するな」
ミルドレアの表情が変化する。彼の任務への一途さは神官長たちを含め誰もが信頼していた。個人の思想はどうあれ、彼は与えられた任務は完璧にこなす。それが全幅の信頼へと繋がり、彼の自由な発言を許される根拠にもなっていた。
------------------------------------
時を同じくして、アーカーシャ内の郊外。その場所には1つの豪華な建物がそびえていた。墓地の近くということもあり、あまり人気のないところではあるが、その建物はレジール王国の権力の象徴。
「もう会談当日になりましたか。早いのか遅いのか……それでは陛下。向かいましょうか」
「うむ」
ハインリッヒ国王陛下に付き従うは、王国最強の従者イスルギ。古来より受け継がれた抜刀術の技術を活かした剣捌きで有名な剣豪である。イスルギに諭されるように立ち上がったハインリッヒは、そのまま別荘としても活用している豪邸を後にした。
---------------------------------------
「早いものね。歴史が動きかねない会談というのは」
また別の場所にてトネ共和国の元首であるニーナ・ヴァレンチノが言った。その両サイドに立つのは暗殺者ギルドのトップである。
「ほんま面倒なことになりそうでんな。俺としては遠慮したいんやけど」
「ボス、冗談でもそのセリフは……」
「リガイン、冗談や冗談。元首なら気にせず流してくれるんや」
クライブ・メージェント……今年で26歳になる人物こそが暗殺者を束ねるボスである。春人の世界で言う関西弁を話している陽気な男だが、その実力は超人とも称されている。
元首であるニーナも苦笑いではあるが、クライブのことはよくわかっているのか気を悪くしている様子はない。その空間はおおよそ暗殺者が居る空気ではなかった。
彼らが居る場所は、トネ共和国の権利の象徴でもある巨大な宿屋「アプリコット」。アーカーシャ最大規模の宿屋であり、そこを利用する旅人は非常に多い。共和国元首もそこに滞在しており、いよいよ円卓会議の当日になったのだ。
「行きましょうか。どのような会議になるとしても……時間は待ってはくれないわ」
35歳の貴婦人の雰囲気を持つニーナはそう言って立ち上がった。クライブとリガインも彼女に続くように部屋を出る。三つの国のトップが集結する会談……本日、その火ぶたは切って落とされた。
「本日は記念すべき日になりましょう、我らがフィアゼス神よ」
ヨハネスは教会内部に配置されている銀の女神像の前でそうつぶやき跪いた。英雄フィアゼスへの敬意を込めたものであり、神聖国ではごく一般的に見られる光景だ。彼の隣では同じく跪いた男の姿があった。
「首尾はどうだ? ミルよ」
「はい、賢者の森の遺跡の隠し扉の先の宝は回収完了です。至高の杖と法衣を獲得致しました。フィアゼスの宝の中でも一段階高い希少性、強さを発揮する物と思われます」
大神官の質問に的確な回答をしたのはミルドレア・スタンアーク。シュレン遺跡の隠し扉を開放した男である。大神官の下の階級の神官長の一人であり、事実上神聖国最強の人間と呼ばれている。白く短めの髪を適度にすいており、どこか気だるげな瞳をしている。教会の法衣を身に着けている為、余計に分かり辛いが相当な筋肉質な男である。
「隠し扉内にて、ミノタウロスと交戦になりました。打倒しましたが、例のトラップも発動したようなので、周辺にそのクラスの魔物が出現する可能性はあるかと」
「さすがだミルよ。レベル99のミノタウロスを一蹴するとは。だが、隠し扉内はやはり危険なモンスターが守っているようだな。それだけでも収穫だ」
実際にミルドレア自身は確認していないが、彼も隠し扉を開けたことにより周辺にミノタウロス前後のモンスターが出現するようになることは予期していた。レベル110のグリーンドラゴンがまさにそれに該当するが、今後も現れる可能性はあるだろう。
「サイトル遺跡、オルランド遺跡の隠し扉の探索も進めよ。我らがフィアゼス神に報いる為にな」
「……フィアゼス神ですか。彼女は一介の冒険者であったと聞きます。もちろんその才覚は天地神明以上と聞いておりますが、フィアゼスは神ではないかと」
ミルドレアは大神官にそう告げると、そのまま立ち上がりその場を後にした。
「フィアゼスは人間だと言いたいのか? ミルよ、お前の信仰の希薄さは自らが最強であるという自負の裏返しだろうな」
大神官は去って行く最強戦力を温かい目で眺めていた。通常このような態度は許されないが、何事にも例外はある。ミルドレアはそんな数少ない例外に該当していた。
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「ミル! ヨハネス様に失礼じゃない! あなたは思ったことを言い過ぎよ!」
「エスメラルダ……そうかりかりするな。美人が台無しだぞ」
教会の外に出るや、同じ外套を纏った女性に叱責を受けるミルドレア。彼女はエスメラルダ・オーフェン。ミルドレアと同じく神官長の地位に立つ人物である。宝石のような瞳を持ち、ヘアバンドで飾られた緑の髪は、彼女の愛くるしさを強調している。ミルドレアのお目付け役のしっかり者で、神聖国でも彼女を慕う者は非常に多い。
「どうして大神官様にもああいうこと言ったの?」
「ジェシカ・フィアゼスが神だと? 彼女は人間だぞ? 歳を取らぬ人ならざる者になっていたのかもいれないが作り自体は人間だ。神と崇め奉るのは彼女に対しても失礼ではないか? 神聖国の信仰など彼女にとっては余計なことだろうな」
ミルドレアは独自の見解を述べるが、エスメラルダには届かない。
「フィアゼスが人間なのか、そんなことはどうでもいいのよ! 要は彼女が世界を手に入れて英雄と呼ばれた事実が重要なんだから。それから、彼女の意志を継いだ私達の先祖が神聖国を作ったんでしょ? フィアゼスを信奉するのは自然の流れじゃない!」
「フィアゼスは死亡したのかもわかっていない。姿を消した彼女を都合の良いように解釈した者たちが神と奉り国を建国、市民から寄付金を奪い至福を肥やしたのだろう。1000年も経過しているのだ、事実など誰もわからんさ」
エスメラルダは21歳であるが、22歳になるミルドレアの歪曲した考えには以前から賛同できないでいた。ある種、才能が有り過ぎる者の屈折した考えなのかもしれない。
「ミル、私はあなたのこと尊敬しているけど、その考えは神官長失格よ」
「過去の偉人をいつまでも信奉し続ける方が余程異常だ。過去の偉人に対して失礼だし、未来を見据えていない」
「言いたいことはわかるけど……つまり、ミルは自分が一番強いって言いたいのよね? 自分を崇めろと……あなたにしか言えないセリフね、それは」
ミルドレアの考え自体はエスメラルダもわかっていた。過去の英雄を奉ったところで現代には影響がない。ミルドレアは現代を見据えることを強く願っているのだ。
「隠し扉のミノタウロスも本気を出すには値しなかった。俺が本気を出せる日々は何時になるのか……」
「あなたの自尊心には本当に敬服するわ。自分を奉れなんて誰も言えないわよ……」
気怠い印象とは正反対の内に秘めた闘争心。それがミルドレア・スタンアークだ。超が付くほどの唯我独尊とも言える。
ミルドレアは自分こそが崇め奉られるべきであると理解している。エスメラルダもそう感じていた。彼は強すぎる為に本気を出す機会がなかったのだ。神聖国最強の肩書きは、彼を歪んだ考えに至らしめたと言えるだろう。
「もしかして、隠し扉の探索を率先して願い出たのもそういうわけ?」
「ああ、そういうことだ。まだまだ隠された強敵がいることを願っている。隠し扉を暴いていけば、必ず凶悪な魔物にも遭遇できるだろう」
神聖国にはフィアゼスに関する書物が多く埋蔵されている。その中にはモンスター図鑑なる書物も存在し、そのモンスターの特徴などが描かれたものもある。図鑑に記載された強敵、未だ発見されていないモンスターも含めて、ミルドレアは楽しみにしていた。
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「はあ……まあ、いいわ。ところでヨハネス様の護衛はしっかりね。余計なお世話だと思うけど」
「心配するな」
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時を同じくして、アーカーシャ内の郊外。その場所には1つの豪華な建物がそびえていた。墓地の近くということもあり、あまり人気のないところではあるが、その建物はレジール王国の権力の象徴。
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「うむ」
ハインリッヒ国王陛下に付き従うは、王国最強の従者イスルギ。古来より受け継がれた抜刀術の技術を活かした剣捌きで有名な剣豪である。イスルギに諭されるように立ち上がったハインリッヒは、そのまま別荘としても活用している豪邸を後にした。
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「ほんま面倒なことになりそうでんな。俺としては遠慮したいんやけど」
「ボス、冗談でもそのセリフは……」
「リガイン、冗談や冗談。元首なら気にせず流してくれるんや」
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