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17話 円卓会議 その2

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 ギルドの内部は殺気立っていたかと思ったが、先ほど語られていたSランク冒険者の会話で話題は変化していた。ドラゴン討伐の話が先行していき、殺伐とした空気は少し和らいだと言える。だが、それは必ずしも全てにあてはまるわけではない。


「やはりドラゴン討伐は事実だったか」
「ああ、高宮春人って奴はいよいよ危険ですな~ほほほほほっ」

 春人たちには聞こえないギルドの奥。その場所では何人かの冒険者が不穏な雰囲気を流していた。春人について話しているのは「ハインツベルン」と呼ばれるパーティである。

3人パーティであり、リーダーの男はゴイシュ・ダールトンと呼ばれる男である。武骨な表情はしているが、ジラークとは違い、全く誠実さのかけらもなく品性も感じられない。

「アルゼルさん、奴らの会話聞きましたか?」
「お前らの声が五月蠅いからな、嫌でも聞こえてくる」

 まだ若いが、鋭い目つきに荒んだ頬骨をした男が立ちあがった。纏っている雰囲気は周囲の冒険者とは明らかに異質だ。
 男の名前はアルゼル・ミューラー。Aランク冒険者に該当するソロの冒険者である。先ほどまで騒いでいたゴイシュ率いる男たちはCランク冒険者パーティである為、組んでいるというわけではない。

「例の計画がうまく発動すれば、俺たちがアーカーシャを牛耳れるかもしれないってことですよね?」
「はは、女にも困らなくなるな」
「へへへ、それは願ったりですな。正直、寄宿舎のトップってだけでは飽きてますんで。女に不自由しなくなるだけでも願ったりですわ」

 上機嫌にゴイシュはアルゼルにすり寄るように話しかける。年齢で言えば30歳のゴイシュはアルゼルよりも歳上になるが、そんなところを気にしている素振りはない。
周囲の男たちが下衆な会話をしている最中、アルゼルはソファーに座って話している春人たちを見据えていた。

「アメリアにレナ、ルナか……全員いい女だな」
「へへへ、あれだけの上玉グループ。なかなか居ないと思いますぜ」
「召喚士のイングウェイ姉妹……健全な踊り子としても活躍はしているみたいですが、ああいう女はぜひ同じ召喚士として楽しみたいですな。健全ではない踊りをさせるというのもよろしいかと」

 アルゼル、ゴイシュの会話に割って入って来たのは、ゴイシュと同じパーティの召喚士を務めている男だった。名はジスパ・ナドールと言う。33歳にはなるが、Cランク冒険者として召喚魔法を駆使して戦う男である。

「ジスパか、まあお前でもあのイングウェイ姉妹の相手は無理だ。お前が呼び出せるのはせいぜいレベル15のゴブリンの群れくらいだろ」
「ほほほ、ゴイシュ殿。レベル20の首長イタチの召喚も可能ですぞ」


 ゴイシュとジスパ、二人の会話が嫌でも耳に入ってくるアルゼルは思わずため息をついた。

「わざと言っているのか? レベルが低すぎる話だ。あそこに座っている者達の実力を分かっていないのか?」
「これは失礼。しかし、Cランク冒険者の我々はこういった会話が限界でしてな。あなたや、向こうの者達とは違いますよ」

 アルゼルの煽りとも取れる挑発にゴイシュが一歩も下がる気配はなかった。強さの差こそあれど、肝のすわり方は一流ということか。

「それに、そう言った実力差を覆す為に、名のある賞金首や犯罪者で構成された私設軍があるんでしょう?」
「声がでけぇよ、誰かに聞かれたら殺すぞ」

 アルゼル・ミューラーは常に周囲を警戒していた。誰も聞いていないことはわかっていたが、敢えてゴイシュに忠告する。さすがのゴイシュも黙らざるを得なかった。

「では、最後に確認致しますが……計画が上手く行けば俺たちも女に困らない、そういうことですな?」
「ああ、そういうことだ」

 アルゼルの返答を聞いて、再びゴイシュやジスパはソファーに座っているアメリア達を見据えた。心なしか舌なめずりをしているようにも見える。

「ま、お前らは使い捨てだがな」

 ゴイシュ達には聞こえないようにアルゼルは最後にそう言った。


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「やっぱり、アーカーシャが独立するって話は今回の議題にもなるわけね」

 レナとルナも春人とアメリアの対面に座り、彼女らの会話は盛り上がっていた。

「その通りですわ。会場には私達か、ソード&メイジの方々に護衛を頼みたいという意見も出ております。ギルド長のローレンス様直々の頼みですわ」
「まあ、会談に参加するなら護衛も必要だし、ローレンスさんになるわよね」
「ちょっと待って。それって凄い名誉なことなんじゃ?」

 護衛の話についていけない春人は話を整理する意味でもアメリア達に問いかけた。

「……とても名誉なこと」

 意外にも彼の問いかけに答えたのはルナだった。

「まあ、名誉だけど……独立か」
「あなたは昔から賛成派ではありませんでしたね。独立というのはいい案ではあります。冒険者の戦力を考えれば可能ですし、結晶石も豊富。中途半端な中立の立場では何時、他国に侵略されるかわかりません」

 春人やアメリアは敢えて口にしなかったが、二人の脳裏には暗殺者のリガインの言葉が浮かんでいた。アルトクリファ神聖国も宣戦布告をする可能性がある……。

「色々気になることもあるし、1週間後の会談に出てから決めればいいか」

 アメリアもそう言って、特に結論を急ぐ様子はなかった。彼女としても考えがあるようだ。



「独立、中立それぞれ問題がありそうだな」
「あんたは……」


 アメリア達の会話に突然、割って入ってきたのは、アルゼル・ミューラーだ。黒く長い髪を掻きあげながら、アメリアを見下ろす。その鋭い視線に嫌悪感を感じたのかアメリアは少し引いていた。

「盗み聞きとは感心が行きませんね、ミューラー」
「美しい娘には名前で呼んでほしいもんだな、レナ。しかし、これほどの上玉を3人もギルドではべらすとは大した身分だな、高宮? ん? 新人冒険者風情が何様のつもりだ?」

 これでもかと言わんばかりの煽り……春人もすぐに理解できた。春人はアルゼル・ミューラーから高校時代の理不尽な連中の面影を感じた。自分には完全に合わない男……それが春人の答えだった。

「羨ましいか?」
「あ? 喧嘩売ってんのか、クソ餓鬼が」

 冷静に返した一言だったが、アルゼルもまた冷静ではあった。しかし、神経を逆なでするような口調。おそらく意識的にそのような口調をしていることに春人は気付いた。

「はっはっは、冗談だよ。ビビるなよ、ぼくちゃん。おめぇが怒ったりしたら、この毒ガスの瓶を誤って落としてしまうかもしれないだろ? 大参事じゃねーか」
「あんた、いい加減にしときなさいよ。こんなところで毒ガス云々、しばらく意識飛ばしてあげようか?」

 アメリアはこの時、普段は見せない怒気を飛ばしていた。それほどに、アルゼルの言葉が不快であったと言えるだろう。パートナーの春人も感じたことがない。春人やレナ達もその怒気には少し委縮してしまったが、それはアルゼルも同じだった。

「はっ、少し調子に乗り過ぎたか。アメリアを怒らせる気はなかったんだが……じゃあな、ぼくちゃん」

 アメリアの態度に驚いたのか、アルゼルは素直に引き下がって行った。

「アメリア、今の奴は? なんというか……不快な奴だ」
「アルゼル・ミューラー 24歳くらいだっけ? 性格が最悪なのよ、冒険者の中でも。平気で一般人も傷つけるし」
「……何度か声をかけられたことがある。本当に……最低」

 無口なルナもアルゼルに対する不満はあるようだ。去って行った彼を見送りながら、睨みつけていた。

「実力が伴っているのが始末に負えません。Aランク冒険者で単騎での行動をしている程ですから」
「オルランド遺跡にも行けるのよね、あいつ。出会いたくないけど……春人も気にしないでよ? 私達と話してるのは、あんたの才能なんだし誇っていいんだから」
「そうですわね、春人さまは聡明な印象を受けます。今度デートなどいかがですか?」

 突然のレナの誘いに思わず顔を赤くする春人。社交辞令かもしれないが、そのように言われるのは悪い気はしないようだ。春人の脳裏にはこの2週間で3回程デートを交わしたエミルの乾いた笑いが頭をよぎっていた。彼は雑念を振り払う。

「申し訳ありません、レナさんにお誘いを受けるのはとても光栄なんですが」
「あらら、振られてしまいましたわ。そうですわね、春人さまにはもっと素敵な方がいらっしゃるようですし」
「……エミル・クレン。「海鳴り」の看板娘。すごく美人で性格もいい」

 知られている……春人としては一瞬は驚いたが、それもそのはずだった。元々は街に噂を流すために行ったデートなのである。時計塔でのキスも実行したのだ……。知れ渡っていなければ意味がないとさえ言えるだろう。

「よかったわね、春人。可愛い彼女出来て」
「アメリア……わかってるだろ?」
「知らない、満更でもないくせに」

 満更でもないのは事実だが、あくまでも恋人同士を装ってるに過ぎない。それはアメリアも知っているが、彼女の機嫌はあまり良くないようだった。
 彼ら二人の会話を見て、レナは何かを悟ったのか怪しげに笑い出した。

「なにやら事情がありそうですわね。アメリア、がんばってね」
「なにを?」
「うふふ」

 レナの怪しげな言葉に怪訝そうな顔を見せるアメリア。レナは笑うだけでそれ以上深く突っ込んで行くことはなかった。

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