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13話 エミルとのデート その2

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「そういえば、この辺りは池になってたっけ」
「はい、春人さん」

 春人とエミルはアーカーシャ西部の郊外に位置する、大きな池まで歩いて来ていた。この辺りはいわゆる観光地とでも呼べばいいのか。巨大な池で泳ぐ者も多い為、宿屋などが併設されているのだ。また、雑貨屋や飲食店も軒並み揃えられている。その池の大きさは、賢者の森のそれとは比べるべくもない。

 基本は遊泳がメインの場所ではあるが、端には釣堀も設けられており、彼らは現在、そこで釣りを楽しんでいた。

「春人さん、大丈夫ですか?」
「いや、これ気持ち悪くない?」

 日本でも釣りはほとんど経験がない春人にとって、虫の類を針で刺す行為は慣れていなかった。遺跡で出会う、そういった虫とは雰囲気が違うのだ。意外にもアウトドアの趣味を持つのか、エミルは瞬く間に餌の準備をし、一切無駄なく自分の竿は池に投げ込んでいた。

 つまり、現在はエミルだけが釣りを開始している状況だ。

「あの、よろしければ、私が用意いたしましょうか?」
「いえ、それは遠慮します。自分でやります」

 エミルは気を遣って言ってくれた。しかし、虫を針の先に刺せないのは男としてまずい。春人は微妙に譲れないプライドを表に出して、彼女の提案を断った。エミルはそんな春人の意外な一面を見れたことが嬉しいのか笑顔になっている。

「ふふ、意外です。春人さんも苦手なことがあるんですね」
「結構苦手なことだらけだよ」
「そうなんですか?」

 なんとか気持ちの悪い虫を針に刺すことに成功した春人は、釣りを開始することが出来た。エミルの隣に座って会話をする。

「ここに来る前は、いじめられているくらいだったし。正直、運動だって出来るわけじゃなかった。料理とかも当然のようにできないし」
「料理もですか……なるほど、あ、かかったみたいです」

 エミルは春人の話を聞きながらも、釣りにはしっかりと意識を集中させている。獲物がかかった瞬間を見逃さなかった。そして慣れた手つきで竿を振り上げ、ブラックバスのような魚を釣り上げることに成功した。

「やりましたっ」
「釣りが趣味なんて意外だったよ」

 もちろんいい意味での発言だ。家庭的な少女がアウトドア系の趣味も持ち合わせていれば、ギャップになり魅力の向上に繋がるケースが多いと春人も判断した。

「はい、小さい頃から父に教わっていまして。いつの間にか趣味になっていました」
「なるほど、お父さんの影響か。そういえば、お父さんの容態は大丈夫なのか?」

 話の中で突如出てきた彼女の父の話。元々、エミルと知り合ったのも、鉱山作業員として働いていた父の怪我が原因だ。エミルから、簡単な話は聞いていたが、信義の花の使用後の詳しい容態は聞いていない春人だった。

「ええ、お医者様の見立てでも、傷の後遺症は残らないみたいです。あの特効薬の花すごいんですね。春人さんとアメリアさんには感謝しかありません」

 エミルは何度目か分からないが、礼儀正しいお礼を春人に交わす。春人もこれがエミルの性格なのだと思っており、敢えて止めることはしなかった。

「うん、後遺症が出ないようで良かったよ。お父さんは仕事には復帰できるの?」
「はい、近く復帰の手続きが完了する予定です」

 春人はそれを聞いて安心した。これで、エミルの家の収入もいくからマシになると思ったからだ。酒場の収入のみでは家族の暮らしまでは難しいだろうと、春人も感じていた。

「エミルはお母さんは……」

 春人はそこまで言って後悔する。父と二人暮らしとそれとなく聞いていた彼であった為、母親はいない可能性が高かった為だ。アメリアと同じ失態をしてしまったのではないか。

「ご、ごめん」
「いえ、母は健在ですよ。現在は別の場所に住んでいますが……」
「そ、そうなんだ」

 エミルの気にしていない素振りと、彼女の母親が生きていることを確認でき、春人は安心した。しかし、自分はまだまだ会話がへたであることを再確認し、相手の立場に立つ必要があることを感じる。これ以上は聞かない方がいいだろう、春人はそこで話を終えた。

「あの……春人さんのご家族の方は……お元気なんでしょうか?」

 今度はエミルからの春人の家族に対する質問。お互いを知る上ではセオリーと言えるだろう。まだ知り合って間もない二人だ、こういう会話が必要なことは春人にもわかっていた。

「う~ん、元気だとは思うけど」
「……?」

 正直、春人は困惑していた。異世界からの転生者であることを隠す必要は特にない。アメリアやバーモンドにも言っていることだし、エミルに話したからといって、なにか不都合があるわけでもない。

「実は……俺は転生してきた者でさ……」
「えっ? 転生?」

 特に隠す必要もないので、春人はできるだけ簡単に自分が飛ばされてきた経緯について彼女に説明した。話を一通り聞いたエミルだが、特に動揺している様子はない。

「……そういうことだったんですね。だから、春人さんは日陰者という言葉や苛められていたという言葉を多用されていらっしゃると」
「まあ、そういうことかな。俺自身、才能が開花したという実感はあるけど、つい何か月か前までは一般人だったから」
「ふふ、おかしいと思いました。春人さんみたいに強い人が、こんなに優しく、それでいて自信がないなんて」

 エミルは驚くほど早く春人の内情を理解したようだ。春人ほどの実力者であれば、多少は傲慢になる。優しさは持っていても自分に自信がない者など皆無だろう。その考えは正しく、本来であれば、豊富な富を活かして女性経験などに時間を費やすことを考える者が大半と言える。
 だが、春人はそんな珍しい希少種に該当していた。強さと優しさ、そして自信の無さを兼ね備えている。傲慢さはほとんど表に出てくることはない。エミルは短時間の内にそこまで理解したのかいつまでも笑っていた。

「エミル、そんなに変かな?」
「いえ、春人さんのことを少し知れたから嬉しく思っているだけです。その、ほら……恋人関係ですし」

 反則だ、と春人は思った。表情を赤らめて話すエミルは可愛すぎる。清楚な印象と相まって破壊力はより増している感じだ。許されるのであれば、思わず抱き締めたくなる衝動になる。しかも、春人を気遣っているのか決して「偽物」といった言葉を口にしない。春人としてもこれは非常に嬉しくなってしまう。

「まあ……俺もエミルのことを少し知れて良かったよ」
「そ、そうですか? 嬉しいです」

 エミルから感じる好意的な視線。春人としても、それが偽りではないのではないかという感情を持ってしまうが、油断は禁物だ。あくまでも「偽」の恋人……過剰な期待は避けた方がいい。過去の苛められていた経験が抜け切らない事実を持っている春人は、そういった考えに落ち着いた。

「春人さんは、元の世界では亡くなっているのではないかとおっしゃいますが、ご両親に会いたいという気持ちはないのですか?」
「それは……」

 エミルの質問に考えてしまう春人。正直な話を言えば、全く会いたくないというわけではない。仲はそれほど良くはなかったが、血の繋がった家族だったのだから。しかし、それ以上に、彼の中にある二度と戻れないという実感の方がはるかに強いだけだ。

 また、今の生活を放棄して、また元の世界に戻りたいかと言われれば考え込んでしまう。まだまだ慣れない生活ではあるが、自分の今の立場は春人自身も恵まれているという感覚は持っていた。おそらく、今後も金銭の心配をしなくても良い人生……そして、なによりアメリアやエミル、バーモンド達とのふれあいがある。彼は今の人生が17年の間で間違いなく、生きているということを実感できる生活であると考えていた。

「会いたいという気持ちはあるけど……でも、あまり良好な関係ではなかったしね」
「あ、そうでしたか……」

 エミルも少し踏み込み過ぎたと感じたのか、表情を暗くし、俯いてしまった。春人も雰囲気がネガティブな方向に差し掛かっていると感じ取った。

「あれ、俺の釣竿にも食いついてる?」
「あ、本当ですねっ」

 竿が少し動いているのを敏感に感じ取った春人。ある意味ナイスなタイミングだと感じた春人は右腕一本でたやすく魚をすくい上げた。エミルの魚よりも大きなものであったが、春人からすれば、全く力を入れる必要がないレベルだ。

「すごいです、春人さん! かなりの大物ですよ!」

 釣りのことになると、感情のふり幅が大きいのか、エミルは相当にはしゃいでいた。春人の釣った魚がエミルの目から見ても大きいのだろう。

「はは、ありがとう。なんとかSランク冒険者の面目が保たれたかな?」
「あはは、そうですねっ」

 春人の冗談に、満面の笑みで答えるエミル。春人としてもそれは嬉しかった。先ほどの微妙な空気が一気に晴れた気がしたからだ。
春人にとって、今回のデートはコミュニケーションの勉強も多分に含んでいると言えるだろう。お互いの距離感や、相手の感情を伺ういい機会と彼も考えていた。

「あ、いつの間にか、けっこう時間経ってるね」
「そうですね、もうお昼です」

 エミルは時計を確認しながらそう言った。既にエミルとのデートを開始してから3時間近く経過していることになる。

「お昼どうしようか?」
「あ、春人さん。私、お弁当作ってきていますので、よろしければいかがですか?」

 そう言ってエミルは小さなバッグから、お弁当と思しき物を取り出した。春人も感心する。デート自体は昨日決定したことだ。それなのにも関わらず、服装もお洒落なものを用意し、事前にお弁当まで作っているとは。

 春人は日本の高校生を思い出していた。その高校生には自分も含まれるが、こんなにしっかりした子が居たのだろうか? 多くの高校生は基本的には母親の弁当を持参したり、購買でのパンの購入だった。
 女子についてはよくわかっていないが、彼女の16歳という年齢を考慮しても、現代日本ではめずらしい部類に入るのではないだろうか。
 もちろん、ロクに女性の友達がいなかった春人にとっては予想の範囲でしかないのだが。育った環境の違いだろうか、エミルには強力な自立心のようなものが感じられた。

 それは、父親の為に、自らの身体も顧みなかった依頼時の態度からも伺える。アメリカの女性であれば、こういう自立心は芽生えているのかもしれない。春人はそんな風に考えた。

 そして、少し離れたところにレジャーシートを敷いて、お昼のランチタイムになった。エミルが出した昼食は、春人の目から見ても相当に豪華な印象があった。

「こんな物を昨日の今日で作れるのか? す、すごい……」
「い、いえ……それほどでも」

 食材は卵焼きなど、日本にもありそうな物ではあるが、見た目の配慮や並べる時の色合いなど、プロのそれに感じてしまう春人であった。
少なくとも、自分の通っていた学校で、ここまでの芸当ができた女子生徒は居ないはず。そう確信できるほど、エミルのお弁当は完成していたのだ。


「あ……春人さんに、そこまで言われると……」

 エミルは恥ずかしいのか、真っ赤な顔をして俯いてしまった。春人も褒めすぎたのかと反省してしまう。

「あ、ごめんエミル」
「いえ、嬉しいことですので、気になさらないでください」
「あ、そ、そう? えと……食べてもいいのかな?」
「はい、お召し上がりください」

 エミルに促される形で、春人は彼女の弁当に手を付けた。味は……もはや、見た目の素晴らしさ以上と言えるかもしれない。

「旨い……こんなおいしい弁当、初めてかも」
「本当ですか? よかった……」

 冗談抜きにおいしい弁当に春人は感動していた。もちろん、母親の作ってくれた弁当よりも上だ。普通に飲食店のレジピとして使えるのではと思ってしまう。春人はバーモンドに提案することを考えた。

「ああ、本当においしいよ。素晴らしい」
「あ、ありがとうございます。あの、こういうので良ければいつでも作りますので……」
「へっ?」

 春人は聞き返してしまったが、もちろんちゃんと聞こえていた。エミルのその言葉は、どういう意味合いがあるのか。春人は偽の恋人関係以上のなにかを言葉に汲み取ったが、あくまでも偽の恋人関係から来る言葉であると結論付けた。

「あ、ああ……うん……こ、恋人だしね…あはは」
「はい、恋人ですから私たちは。春人さんも遠慮なさらないでくださいねっ」

 春人は少し疑問に感じた。先ほどから思っていたが、エミルの言葉には、どう考えても、「偽物」の恋人という括りが消えている感じがする。それはそれで嬉しいことではあるが、少し違和感が拭えなかった。

 と、その時、池の周囲を警報音のようなものがこだまする。春人は聞き慣れない音に何事かと周囲を見渡した。どうやら、警報を鳴らしているのは近くの街灯に似た建造物のようだ。

「あれって確か」
「モンスターの接近を告げる警報機ですね。アーカーシャの街の近くにもモンスターが来ることもありますから」

 アーカーシャの街は基本的に軍はいないので、街の出口付近には警報機と、モンスター避けの灯篭が設置されている。どちらも結晶石をエネルギー源としており、モンスター避けの灯篭は人間に影響が無く、モンスターのみ近づきにくい周波数のようなもので加工されている。

 だが、高レベルのモンスターにはほとんど効果はないようだ。その場合、警報により、モンスターの接近を知らせるシステムを取っている。

「確か、専門の冒険者が常駐していると思うけど」
「春人さん、大丈夫でしょうか?」
「まあ、エミルを守る自信ならあるけど」

 他の人々までとなるとわからない。春人は本日新調したばかりの装備を眺めながら考えていた。だが、エミルだけであればどんなモンスターが来ようとも倒せる自信が彼の中では巡っていたのだ。

「あれ? 春人さん?」
「え、アルマークと……イオか?」

 そして、警報音に合わせてやってきたと思われる冒険者。それは、ギルド本部でも何度か話したことのある相手だった。

 春人の前に現れた人物は二人。線の細い印象のある二枚目と言って差し支えのない人物であるアルマーク・フィグマ。青い髪をお洒落なセンター分けにしており、外見にも気を遣っている印象が伺えた。年齢は16歳であり、春人の1つ歳下になるBランク冒険者だ。

 その後ろに居る少女はアルマークの幼なじみでもある、イオ・アルファード。年齢はアルマークと同じく16歳になり、白い髪をボーイッシュにポニーテールにしている。性格自体も素直なボーイッシュといった印象だ。二人共、戦士系の冒険者として1年くらい前からコンビを組んでいた。

「あれ、春人さんじゃん! こんな所でなにしてるの? んん、はは~ん」

 健康的な身体で仁王立ちのように立つイオ。太ももが出ているスパッツを着用している。特に問題はないはずだが、春人としては下半身は見にくい。イオは春人とエミルの関係を察知したのか、いたずらっぽく笑い出した。
「そっか、そうだよね~。春人さんに彼女が居ないわけないもんね」
「え? イオ、つまりそっちの人は春人さんの彼女?」
「おい、イオ……! なに言って……!」

 思わず否定しそうになる春人だが、その言葉を言い終わる前にエミルが春人の言葉を遮った。

「春人さんのお知り合いの方ですか? エミル・クレンと申します。春人さんとは……えと、お付き合いさせていただいています」

 と、全く否定すらせずに全肯定でエミルは二人に挨拶をした。

「か、かわいい……エミルさんか。私はイオって言うんだ、よろしくね!」
「僕はアルマークです。僕たちはBランク冒険者で、春人さんは僕たちの目指すところですね」

 イオとアルマークも第一印象でエミルを気に入ったのか、明るく挨拶を交わした。

「私は16歳になりますが……お二人は?」
「僕たちも16歳だよ」
「ていうことは同じ歳じゃん! 仲良くしよーね!」

 ポニーテールを揺らしながら、イオはエミルの両腕を持って上下に大きく揺らした。彼女なりの握手のつもりなのだろう。エミルも悪い気は一切しておらず、二人に礼儀正しく、再び挨拶を交わす。

「ところで、二人はなんでここ居るんだ?」
「僕たちは、本日はギルドの専属員なんだ」
「ああ、そういうことか」

 春人もアメリアからしか聞いていないが、専属員という言葉を思い出していた。街でモンスター警戒の警報が鳴った場合に、対処する者がいないとまずいため、ギルドでは交代で専属の討伐係を常駐させている。
 1週間単位での常駐となり、基本的にはA~Cランクの冒険者、若しくは他国に在籍している冒険者がその任に当たる。ただし、Sランク冒険者は現在3組存在しているが、彼らは基本的には除外されている。

「専属員は大変だな」
「ま~ね、でも給金も貰えるしさ。今日はレベル28の玄武コウモリらしいから、サクっと始末してくるね」
「気を付けてな」
「はい、では行ってきます」

 16歳という少年少女の印象を多分に含んだ二人はそのまま街の外へと走って行った。レベル28のモンスターであれば彼らが苦労することはないはず。Bランク冒険者は基本的にはレベル40程度までのモンスターは狩れるからである。

「なんだか楽しげなお二人でしたね」
「うん、正直こっちが元気もらえるくらい明るいと思う、彼らは」

 アルマークやイオと知り合ったのは、春人はつい最近のことだ。それほど話した間柄でもないが、春人の中の好感度は非常に高かった。また、自らを尊敬の対象として見てくれる二人の為、余計にその念は強くなる。

「玄武コウモリの群れなら、多分彼らだけで大丈夫だと思うよ」

 以前にレベル25のフランケンドッグを倒したことを思い出しながら春人は考えた。春人からすれば傷1つ負うことなく、鉄の剣で倒せるモンスターだったのだ。

「それならいいのですが」
「うん、昼食を食べ終えたらどうしようか? 釣りの続きでもやる?」
「ええ、そうですね」

 警報音はまだ鳴っているが、彼ら二人は平常運転でデートを満喫した。その後は釣りをしばらく続けたあと、近くのアクセサリーショップなどを適当に周り時間を潰したのだ。そして、いつの間にか警報音はなくなり、時間も夕暮れに差し掛かっていた。


「春人さん、本日はありがとうございました。とても楽しかったです」
「そう言ってもらえると嬉しいよ。少し早いけど、解散しようか」
「はい、宜しければまた誘っていただけますか?」
「う、うん……エミルが嫌じゃなければ」
「はい……では、お願いいたします」

 場所を時計塔に移し、彼ら二人は甘酸っぱい会話に勤しんでいた。周りも既に春人とエミルであることは気付いている様子だ。視線が二人に降り注いでいるが、彼らは特に気にしていない。

「あの、春人さん……」
「な、なに?」

 二人の距離は縮まる。単純に時計塔の雰囲気に飲みこまれているとも言えなくはないが、それ以上のなにかも間違いなく感じさせていた。

「えっと……」
「エミル……」
「は、はい……」

 それから、春人の方から顔を近づける。エミルは想像をしていたのか、一切抵抗の様子を見せなかった。そして、彼らの唇は少しの間触れることになる。春人は17年の人生の中で初めてのキスを完了させた瞬間であった。

「……しちゃいましたね」
「……その言葉は色々誤解生むからやめようか」
「何言ってるんですか、キスしたのは間違いないです」

 バーモンドの言葉がきっかけだったこともある。周りのカップルたちも黄色い歓声を上げていた。しかし、春人はおそらくその衝動が我慢できなかったのだろう。夕暮れにエミルと時計塔で二人きり……なにもしないというのは沽券に関わることだった。

「い、一応確認だけど……俺たちは偽物の恋人だよね?」
「はい、そうなりますね。対外的には」

 そう言いながら、エミルは「海鳴り」の方向に向かって歩き出した。その後、春人が言葉の意味を問いかけても、彼女は上手くはぐらかしていたそうな。
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