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6話
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本日はアラン様と二人で静かに過ごしていた。場所は私の屋敷だ。
「アラン様……また洋服を見に行きたいのですが」
「そうか。じゃあ、エリナ。また近い内に行くとしようか」
「はい」
「ああ、それから……」
アラン様は何か言いたげな顔になった。なんだろうか? 少し言いにくい表情だけれど。
「私のことはアラン、と呼び捨てにしてくれないか?」
「アラン様を呼び捨てに? それは……」
「別に問題ないだろう? 夫婦になればそんなことは。それに、君は伯爵令嬢になるんだしね」
「確かにそうかもしれませんが……」
アラン様の言っていることは正しいのだろうけれど、いきなり呼び捨てにすることは難しいわ。私はまだ男爵令嬢で伯爵令嬢になれるというのが嘘みたいに感じているのだから。
「別にすぐにというわけではない。いずれ呼び捨てにしてくれればいいよ」
「わかりました、アラン様。がんばってみます」
う~ん、なかなか難しい課題を言われた気分だわ。
ところでアラン様とこうして過ごしているけれど、彼はとても優しかった。趣味が合うというのもそうだけれど、どこかの侯爵令息と違って身分の差を考えている節はないしね。
今にして思えばどどうして私はクラウドと婚約することにしたんだっけ……最初からアラン様と婚約していれば良かったわ。そのくらい彼は優しかった。優しいだけじゃなくしっかりとしている。自らの立場を考え勉強だって疎かにしていないようだし。
メルビル家はこれからも安泰でしょうね。
と、そんな時だった。部屋のドアが開かれたのは……。
「エリナ、少しよいか?」
「お父様……? どうかされたのですか?」
「いや、なんというか……クラウド様が来ているのだが……」
「えっ?」
どういうこと……? 今さらクラウドの名前が出て来るとは思ってもみなかった。それも、この屋敷を訪れるなんて。彼との婚約はとっくに終わったはずなのに。クラウドだって私なんかに用はないはずだ。
「前の婚約者だね、クラウド様は。大丈夫だよ、エリナ。私も同席するとしよう」
「アラン様……」
アラン様はこんなときでも優しかった。クラウドが来ている……理由は分からないけれど、会わないわけにはいかないわね。
「アラン様……また洋服を見に行きたいのですが」
「そうか。じゃあ、エリナ。また近い内に行くとしようか」
「はい」
「ああ、それから……」
アラン様は何か言いたげな顔になった。なんだろうか? 少し言いにくい表情だけれど。
「私のことはアラン、と呼び捨てにしてくれないか?」
「アラン様を呼び捨てに? それは……」
「別に問題ないだろう? 夫婦になればそんなことは。それに、君は伯爵令嬢になるんだしね」
「確かにそうかもしれませんが……」
アラン様の言っていることは正しいのだろうけれど、いきなり呼び捨てにすることは難しいわ。私はまだ男爵令嬢で伯爵令嬢になれるというのが嘘みたいに感じているのだから。
「別にすぐにというわけではない。いずれ呼び捨てにしてくれればいいよ」
「わかりました、アラン様。がんばってみます」
う~ん、なかなか難しい課題を言われた気分だわ。
ところでアラン様とこうして過ごしているけれど、彼はとても優しかった。趣味が合うというのもそうだけれど、どこかの侯爵令息と違って身分の差を考えている節はないしね。
今にして思えばどどうして私はクラウドと婚約することにしたんだっけ……最初からアラン様と婚約していれば良かったわ。そのくらい彼は優しかった。優しいだけじゃなくしっかりとしている。自らの立場を考え勉強だって疎かにしていないようだし。
メルビル家はこれからも安泰でしょうね。
と、そんな時だった。部屋のドアが開かれたのは……。
「エリナ、少しよいか?」
「お父様……? どうかされたのですか?」
「いや、なんというか……クラウド様が来ているのだが……」
「えっ?」
どういうこと……? 今さらクラウドの名前が出て来るとは思ってもみなかった。それも、この屋敷を訪れるなんて。彼との婚約はとっくに終わったはずなのに。クラウドだって私なんかに用はないはずだ。
「前の婚約者だね、クラウド様は。大丈夫だよ、エリナ。私も同席するとしよう」
「アラン様……」
アラン様はこんなときでも優しかった。クラウドが来ている……理由は分からないけれど、会わないわけにはいかないわね。
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