上 下
10 / 35

10話 公爵家の訪問 その2

しおりを挟む

「お、お母様……ルドルフ様達を屋敷に招き入れたのですか……?」


 私はお母様の行動が理解出来ずに、ついつい声を荒げてしまった。


「ええ、もちろんよ。急なことだったし、コーブル公爵家やメイルバーク侯爵家の人間を蔑ろにするわけにもいかないでしょう?」

「そ、それはそうかもしれませんが……」


 お母様の言っていることは正論だけれど、まさか屋敷内に招き入れるとは予想外だった。ルドルフ様だけが来たのなら門前払いを出来たかもしれないけれど、ラグディ・コーブル公爵が一緒ではなかなか難しいのは分かる。リシア・メイルバーク侯爵令嬢はこの際、オマケみたいなものだけれど……。

 そして一番の問題は……お母様が何か企んでいそうなことだ。お母様の怪しい笑みは私にとって恐怖だった。

「わかりました……応接室に向かいます」

「ありがとう、エメリ。サドレイが既に対応しているから……それ程、心配することはないと思うわよ」

「はい、わかりました」


 お母様の言葉はおそらく真実なのだろう……むしろ、復讐とかを考えそうな人だから。実の母親ながら、私はお母様には恐怖を感じたことが何度もあったりする。

 聖女としての能力はお母様から受け継いだものなので、そういった血統による防衛本能が働いているのかもしれない……。私に対しては過剰ともいえる愛情を注いでくれたお母様だけれど、他人には容赦しないみたいな……。

「母上も人が悪いですね……」

「あら、それは誉め言葉かしら? 私は家族が蔑ろにされた場合、そのままにはしておけない性質なのよ」


 私が応接室に向かう間に、テムザ兄さまとお母様が話していたようだけれど、内容までは聞き取れなかった。



----------------------------



「エメリ・ハーグリーブス参りました」

「おお、エメリ! なんだか、久しぶりに感じるな!」

「ルドルフ様……」


 私は今、一番会いたくない人物の顔を見て眉間にしわが寄りそうになっていた。必死に平常心を保っているけれど、すぐに限界を迎えそうだ。


「エメリ、よく来てくれたな」

「お父様、私がこの席に参加する必要はあるのでしょうか……?」


 せっかくフラック・ルザーリオ王子殿下の下で仕事が出来ているのに……婚約破棄の件については思い出したくない状況だった。だからこそ、お父様に問いかけているのだ。


「済まないな、エメリ。ラグディ様やルドルフ殿の用事がどうやら、お前にあるようでな……」


 まあ、そうでなければ私が応接室に呼ばれる意味がないからね。想定済みではあったけれど……一体、どういう内容なのかしら?


「どういった内容なのでしょうか?」

「話は簡単だ、エメリ嬢。我がコーブル公爵家の為に、聖女の能力を貸して欲しいのだ」

「……はい?」


 ええと、何を言われたんだろうか。聖女の能力を貸して欲しい……? ラグディ・コーブル公爵は平然と言っているけれど……私の聞き間違いかしら?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖女の能力で見た予知夢を盗まれましたが、それには大事な続きがあります~幽閉聖女と黒猫~

猫子
恋愛
「王家を欺き、聖女を騙る不届き者め! 貴様との婚約を破棄する!」  聖女リアはアズル王子より、偽者の聖女として婚約破棄を言い渡され、監獄塔へと幽閉されることになってしまう。リアは国難を退けるための予言を出していたのだが、その内容は王子に盗まれ、彼の新しい婚約者である偽聖女が出したものであるとされてしまったのだ。だが、その予言には続きがあり、まだ未完成の状態であった。梯子を外されて大慌てする王子一派を他所に、リアは王国を救うためにできることはないかと監獄塔の中で思案する。 ※本作は他サイト様でも掲載しております。

結婚式前日に婚約破棄された公爵令嬢は、聖女であることを隠し幸せ探しの旅に出る

青の雀
恋愛
婚約破棄から聖女にUPしようとしたところ、長くなってしまいましたので独立したコンテンツにします。 卒業記念パーティで、その日もいつもと同じように婚約者の王太子殿下から、エスコートしていただいたのに、突然、婚約破棄されてしまうスカーレット。 実は、王太子は愛の言葉を囁けないヘタレであったのだ。 婚約破棄すれば、スカーレットが泣いて縋るとおもっての芝居だったのだが、スカーレットは悲しみのあまり家出して、自殺しようとします。 寂れた隣国の教会で、「神様は乗り越えられる試練しかお与えにならない。」司祭様の言葉を信じ、水晶玉判定をすると、聖女であることがわかり隣国の王太子殿下との縁談が持ち上がるが、この王太子、大変なブサメンで、転移魔法を使って公爵家に戻ってしまう。 その後も聖女であるからと言って、伝染病患者が押しかけてきたり、世界各地の王族から縁談が舞い込む。 聖女であることを隠し、司祭様とともに旅に出る。という話にする予定です。

四度目の正直 ~ 一度目は追放され凍死、二度目は王太子のDVで撲殺、三度目は自害、今世は?

青の雀
恋愛
一度目の人生は、婚約破棄され断罪、国外追放になり野盗に輪姦され凍死。 二度目の人生は、15歳にループしていて、魅了魔法を解除する魔道具を発明し、王太子と結婚するもDVで撲殺。 三度目の人生は、卒業式の前日に前世の記憶を思い出し、手遅れで婚約破棄断罪で自害。 四度目の人生は、3歳で前世の記憶を思い出し、隣国へ留学して聖女覚醒…、というお話。

【完結済】婚約破棄された元公爵令嬢は教会で歌う

curosu
恋愛
【書きたい場面だけシリーズ】 婚約破棄された元公爵令嬢は、静かな教会で好き勝手に歌う。 それを見ていた神は... ※書きたい部分だけ書いた4話だけの短編。 他の作品より人物も名前も設定も全て適当に書いてる為、誤字脱字ありましたらご報告ください。

虐げられた第一王女は隣国王室の至宝となる

珊瑚
恋愛
王族女性に聖なる力を持って産まれる者がいるイングステン王国。『聖女』と呼ばれるその王族女性は、『神獣』を操る事が出来るという。生まれた時から可愛がられる双子の妹とは違い、忌み嫌われてきた王女・セレナが追放された先は隣国・アバーヴェルド帝国。そこで彼女は才能を開花させ、大切に庇護される。一方、セレナを追放した後のイングステン王国では国土が荒れ始めて…… ゆっくり更新になるかと思います。 ですが、最後までプロットを完成させておりますので意地でも完結させますのでそこについては御安心下さいm(_ _)m

妹に裏切られた聖女は娼館で競りにかけられてハーレムに迎えられる~あれ? ハーレムの主人って妹が執心してた相手じゃね?~

サイコちゃん
恋愛
妹に裏切られたアナベルは聖女として娼館で競りにかけられていた。聖女に恨みがある男達は殺気立った様子で競り続ける。そんな中、謎の美青年が驚くべき値段でアナベルを身請けした。彼はアナベルをハーレムへ迎えると言い、船に乗せて隣国へと運んだ。そこで出会ったのは妹が執心してた隣国の王子――彼がこのハーレムの主人だったのだ。外交と称して、隣国の王子を落とそうとやってきた妹は彼の寵姫となった姉を見て、気も狂わんばかりに怒り散らす……それを見詰める王子の目に軽蔑の色が浮かんでいることに気付かぬまま――

幸運の女神である妹を選び婚約破棄するようですが、彼女は貧乏神ですよ?

亜綺羅もも
恋愛
サラ・コリンズにはレイア・コリンズいう双子の妹がいた。 ある日のこと、彼女たちは未来を見通す占い師から、どちらかが幸運の女神でどちらかが貧乏神だと告げられた。 両親はいつからか、幸運の女神はレイアだと信じ始め、サラは貧乏神だと虐げられ始められる。 そんな日々が続き、サラが十八歳になった時、ジーク・バージリアンという男と婚約関係を結ぶ。 両親は貧乏神を追い出すチャンスだと考え、ジークに何も言わずにサラとジークとの婚約をさせていた。 しかし、ジークのことを手に入れたくなったレイアは、その事実をジークに伝え、サラから彼を奪い取ってしまう。 ジークに婚約破棄を言い渡されるサラ。 しかしジークもレイアもサラの両親も知らない。 本当の幸運の女神はサラだと言うことに。 家族に見捨てられたサラであったが、エリオ・ルトナークという男性と出逢い、幸せに向かって運命が動き出すのであった。

処理中です...