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27話
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婚約が成立してから少し時間が経過した──。
私とバルサーク様は第二のハウスで静かに時間を過ごしていた。
「ローザハウスについては、売りに出すのだな」
「はい。お父様も納得してくれましたので」
「そうか。まあ、それが自然の成り行きというやつだろう」
「はい、バルサーク様」
ローザハウスに住むのはやはり抵抗があり、使用人達もそのように考えていたので、売りに出している。おそらくは今後、別の施設に変更されるだろう。私の希望としては、孤児院なんかが良いと思うけどね。
「こうして、バルサーク様と静かに過ごす時間……嬉しく思います」
「私も同じ気持ちだ、ローザ。ブライアン殿が居ると、緊張感が一気に増してしまうがな……」
「あはは……なるほど」
バルサーク様はどうやら、お父様のことが苦手みたいね。大公殿下という立場に就いているのに、なんだか不思議な気分だった。
「婚約が上手くいって本当に良かったよ。もしも断られていたらと思うと……今でも手が震えてしまう」
「断るなんてとんでもないです。だって……あんなに私のことを考えて守ってくれました。バルサーク様は私のナイト様なんですから」
「ナイト……か。ははは、悪くない響きだな」
「はいっ!」
そう……バルサーク様は私の騎士(ナイト)様だ。これで白馬にでも乗って来てくれれば完璧だと思う。まあ、それは良いとして……。
私はそんなバルサーク・ウィンドゥ様と幸せを手に入れるべく進んでいく。既に今の段階でも、とても幸せだけどね! その代償は……デナン・モルドレート侯爵と妹のリシェルだ。
幸せの代償に差し出された二人と言えるのかもしれない。いやまあ、彼らの場合は自業自得だから当然の処罰なんだけれど。言い方を変えれば、デナン様とリシェルがあそこまで身勝手な行動を取らなければ、バルサーク様とこういう関係になれなかったかもしれないわけだし。
考え方によっては、彼らは恋のキューピッドなのかもしれない。
……でも、バルサーク様ってローザハウスとそっくりな建物を建設していたのよね。あれは第三者から見れば完全にスト……いえ、なんでもないなんでもない。
そう、バルサーク様が私への恋心を抱く感動のエピソードだってあったんだから!
それにしても……デナン様とリシェルって今頃、どうしているのかしら? もしかして厳しい冒険者活動に付いて行けずに死亡したとかないわよね……?
-----------------------------
(デナン視点)
「ち、ちくしょう……なんでこんなことに……」
「こっちのセリフですよ……! あなたとなんか関わらなければ、私は今頃、順風満帆な貴族生活を謳歌していたはずなのに……!」
私とリシェルの二人は冒険者チームの一員として、新天地開拓の旅に出ている。私もリシェルも貴族の時には身に付けたこともないような粗末な格好だ。くそ……くそ! なんでこんなことになってしまったんだ? こんな我が儘な女と一緒にならなければ……あのまま、ローザを大切にしていればこんなことには……悔やんでも悔やみきれん。
「おい、もっと早く歩けよお前ら! 日が暮れちまうだろうが!」
「す、すみません……!」
くそ……確実に身分が下の男に注意を受けてしまった。以前であれば衛兵を呼んで牢屋にぶち込むことも可能ではあったが……現在の私は完全に無力な荷物持ちでしかなかった。侯爵位も剥奪されているからな……何もできない。
「あ~~もう最悪。私達ってもう貴族でもなんでもないんだから、デナン様に敬語とか使う必要ないですよね?」
「な、何を言い出すんだ? いきなり……お前は」
そもそも、こんな重い罰を課せられたのは、お前が度を越してバカなことを引き起こしたからだろうが。屋敷から強制的に令嬢を追放するなんて聞いたことがない。それなのにこの女……私のせいばかりにしおって。
「元々はお前が悪いのだろうが……我が執事を勝手にあんなことに使用するから……」
「はいはい、そんなこともうどうでも良いです~~」
「なんだと……?」
全く悪びれる様子を見せないリシェル。それは良いとしても、私への敬意も欠片ほども無くなっているようだった。まさか……この女……。
「とりあえず、冒険者チームのリーダーに身体でも売って……私の待遇の向上をお願いしてみようかな」
「な、なんだとお前……? そんなこと許されるとでも思っているのか……? お前は私の……!」
「はあ? 何言ってんの? 私の……なによ?」
「う……!」
ゴミを見るような視線を私にぶつけて来るリシェル……完全に私のことなど、忘れているかのようだ。
「はあ、やだやだ。まだ自分の物と思ってるとか最低……あなたとの縁なんて、とっくに切れてることにも気付かないなんて」
「り、リシェル……お前……」
この女は何を考えているんだ? 本当に理解出来ない……馬鹿もここまで行くと引いてしまうぞ……。私は恐ろしくなり、リシェルから半歩ほど遠ざかっていた。
「それじゃあまたね、デナン様。私は新しい素敵な男性を見つけますので……!」
そう言いながらリシェルは私に自分の分の荷物を預けてそのまま、前方に走って行った。前方の方には確かに冒険者グループのリーダー陣営が居るはずだが。リシェルは完全に狂っているとしか言えない……この私が恐れるレベルでだ。
この新天地開発の場で自分の身体を売って、地位を築こうなどと考える輩が何処に居ると言うのだ? そう……私の目の前に居たのだ。
空を見上げると晴天が私達を照らしていた。だが、決して良い方向へ向かっているわけではない。私の立場も地獄ではあるが、リシェルの今後はおそらく、さらに地獄絵図になるだろう。彼女は確かに容姿は美しいからな……だからこそだ。
私は彼女のことを忘れて冒険者活動に専念してみるか……私の体力では、途中で死んでしまうかもしれないがな。ははははっ、一寸先は闇……とはよく言ったものだ。まさに、今の私達を反映していると言えるだろう。
くそ、くそう……早くも発狂してしまいそうだ……はははははっ!!
おしまい
私とバルサーク様は第二のハウスで静かに時間を過ごしていた。
「ローザハウスについては、売りに出すのだな」
「はい。お父様も納得してくれましたので」
「そうか。まあ、それが自然の成り行きというやつだろう」
「はい、バルサーク様」
ローザハウスに住むのはやはり抵抗があり、使用人達もそのように考えていたので、売りに出している。おそらくは今後、別の施設に変更されるだろう。私の希望としては、孤児院なんかが良いと思うけどね。
「こうして、バルサーク様と静かに過ごす時間……嬉しく思います」
「私も同じ気持ちだ、ローザ。ブライアン殿が居ると、緊張感が一気に増してしまうがな……」
「あはは……なるほど」
バルサーク様はどうやら、お父様のことが苦手みたいね。大公殿下という立場に就いているのに、なんだか不思議な気分だった。
「婚約が上手くいって本当に良かったよ。もしも断られていたらと思うと……今でも手が震えてしまう」
「断るなんてとんでもないです。だって……あんなに私のことを考えて守ってくれました。バルサーク様は私のナイト様なんですから」
「ナイト……か。ははは、悪くない響きだな」
「はいっ!」
そう……バルサーク様は私の騎士(ナイト)様だ。これで白馬にでも乗って来てくれれば完璧だと思う。まあ、それは良いとして……。
私はそんなバルサーク・ウィンドゥ様と幸せを手に入れるべく進んでいく。既に今の段階でも、とても幸せだけどね! その代償は……デナン・モルドレート侯爵と妹のリシェルだ。
幸せの代償に差し出された二人と言えるのかもしれない。いやまあ、彼らの場合は自業自得だから当然の処罰なんだけれど。言い方を変えれば、デナン様とリシェルがあそこまで身勝手な行動を取らなければ、バルサーク様とこういう関係になれなかったかもしれないわけだし。
考え方によっては、彼らは恋のキューピッドなのかもしれない。
……でも、バルサーク様ってローザハウスとそっくりな建物を建設していたのよね。あれは第三者から見れば完全にスト……いえ、なんでもないなんでもない。
そう、バルサーク様が私への恋心を抱く感動のエピソードだってあったんだから!
それにしても……デナン様とリシェルって今頃、どうしているのかしら? もしかして厳しい冒険者活動に付いて行けずに死亡したとかないわよね……?
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(デナン視点)
「ち、ちくしょう……なんでこんなことに……」
「こっちのセリフですよ……! あなたとなんか関わらなければ、私は今頃、順風満帆な貴族生活を謳歌していたはずなのに……!」
私とリシェルの二人は冒険者チームの一員として、新天地開拓の旅に出ている。私もリシェルも貴族の時には身に付けたこともないような粗末な格好だ。くそ……くそ! なんでこんなことになってしまったんだ? こんな我が儘な女と一緒にならなければ……あのまま、ローザを大切にしていればこんなことには……悔やんでも悔やみきれん。
「おい、もっと早く歩けよお前ら! 日が暮れちまうだろうが!」
「す、すみません……!」
くそ……確実に身分が下の男に注意を受けてしまった。以前であれば衛兵を呼んで牢屋にぶち込むことも可能ではあったが……現在の私は完全に無力な荷物持ちでしかなかった。侯爵位も剥奪されているからな……何もできない。
「あ~~もう最悪。私達ってもう貴族でもなんでもないんだから、デナン様に敬語とか使う必要ないですよね?」
「な、何を言い出すんだ? いきなり……お前は」
そもそも、こんな重い罰を課せられたのは、お前が度を越してバカなことを引き起こしたからだろうが。屋敷から強制的に令嬢を追放するなんて聞いたことがない。それなのにこの女……私のせいばかりにしおって。
「元々はお前が悪いのだろうが……我が執事を勝手にあんなことに使用するから……」
「はいはい、そんなこともうどうでも良いです~~」
「なんだと……?」
全く悪びれる様子を見せないリシェル。それは良いとしても、私への敬意も欠片ほども無くなっているようだった。まさか……この女……。
「とりあえず、冒険者チームのリーダーに身体でも売って……私の待遇の向上をお願いしてみようかな」
「な、なんだとお前……? そんなこと許されるとでも思っているのか……? お前は私の……!」
「はあ? 何言ってんの? 私の……なによ?」
「う……!」
ゴミを見るような視線を私にぶつけて来るリシェル……完全に私のことなど、忘れているかのようだ。
「はあ、やだやだ。まだ自分の物と思ってるとか最低……あなたとの縁なんて、とっくに切れてることにも気付かないなんて」
「り、リシェル……お前……」
この女は何を考えているんだ? 本当に理解出来ない……馬鹿もここまで行くと引いてしまうぞ……。私は恐ろしくなり、リシェルから半歩ほど遠ざかっていた。
「それじゃあまたね、デナン様。私は新しい素敵な男性を見つけますので……!」
そう言いながらリシェルは私に自分の分の荷物を預けてそのまま、前方に走って行った。前方の方には確かに冒険者グループのリーダー陣営が居るはずだが。リシェルは完全に狂っているとしか言えない……この私が恐れるレベルでだ。
この新天地開発の場で自分の身体を売って、地位を築こうなどと考える輩が何処に居ると言うのだ? そう……私の目の前に居たのだ。
空を見上げると晴天が私達を照らしていた。だが、決して良い方向へ向かっているわけではない。私の立場も地獄ではあるが、リシェルの今後はおそらく、さらに地獄絵図になるだろう。彼女は確かに容姿は美しいからな……だからこそだ。
私は彼女のことを忘れて冒険者活動に専念してみるか……私の体力では、途中で死んでしまうかもしれないがな。ははははっ、一寸先は闇……とはよく言ったものだ。まさに、今の私達を反映していると言えるだろう。
くそ、くそう……早くも発狂してしまいそうだ……はははははっ!!
おしまい
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