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「お父様! 妹のリシェルが……! あの屋敷を勝手に……! 中にあった家具等も含めて全て奪っていきました! こんなことがあって良いのですか!? しかも、あの子はデナン・モルドレート侯爵の名前をチラつかせて……」
「うむ……そうか」
「お父様? 聞いていらっしゃいますか……?」
実家に戻った私はすぐにお父様に会い、リシェルの横暴を直訴した。しかし……さっきから、お父様は歯切れが悪い。リシェルの行いはおそらく、お父様の耳にも届いているはずだけれど。あれだけの横暴を家族に知られずに行えるわけがない。
正義感の強いお父様ならきっと分かってくれるはず……! 私はそれをただ期待していた。しかし……
「ローザ、済まない。お前の嘆きは非常に大きいものだろう、それは理解しているつもりだ。だがなお前のその気持ちを……汲み取ってやることが出来んのだ」
「お父様……? なぜ? なぜでございますか!?」
信じられない言葉に、私はついには激怒してしまった。考えるよりも先に言葉が溢れ出してしまう。
「妹が、リシェルが……あんな横暴を! お父様からいただいた、大切な私の居場所を……あの子は奪ったのですよ!? どうして何も出来ないのですか……!?」
お父様ことブライアン・クラウドは確かに妹のリシェルに言い負かされてしまうことは多くあった。彼女の我が儘を許してきたのは、お父様に他ならないのだから。
しかし、今回の件はそれら過去のものとは次元が違う。明らかにおかしいのだ……今こうして、リシェルの行いが成立していることが。
「まさか……デナン様の差し金なのですか? 彼が……お父様に手を出すな、と?」
「そうだな……そういうことだ。リシェルはデナン様の権力をフル活用し、お前の屋敷ローザハウスを奪ったのだろう。デナン様の後ろ盾がなければ、とても出来ない芸当だ……」
「ええ、デナン様の部下……執事が多数いましたからね」
「そうか……そうなると、私では本当にどうすることも出来ないな。下手をすると、デナン・モルドレートを敵に回してしまう。私にはクラウド家当主の責任として、この家を守る責務があるのだ」
「お、お父様……お父様は、実の娘の苦悩を……本当に分かっていただいているのですか……?」
「耳が痛いよ」
おそらくはお父様も苦渋の決断なのだと思う。決して私のことを考えていないとか、そういうことはないはずだ。助けを求める娘と当主としての責任……それらを天秤に掛け、後者を選んだということね……。
「そういうことだ。聞いた通り、ブライアン殿には少々荷が重い案件ということになる」
「えっ? こ、この声は……?」
聞き覚えのある安心する声……その主はすぐに私の前に現れた。
「ば、バルサーク様……!? ど、どうしてこちらに……!?」
予想外の人物の登場に私は驚きを隠せなかった。どうしてこの屋敷に……? 意味が分からない……。
「私ではローザを救うことは出来ない。だからこそ、バルサーク・ウィンドゥ大公殿下にお願いする以外にはないのだ。不肖な父を許してくれ、ローザ」
そう言いながらお父様は私に深々と頭を下げていた。お父様は、ちゃんと手を打っていてくれたのね。ご自分の権力ではどうすることも出来ないから、バルサーク様に依頼をしたということか。
なんだか恥ずかしくなってしまった……先ほどお父様を叱責してしまった言葉を取り消したい……ああ、恥ずかしい。
「うむ……そうか」
「お父様? 聞いていらっしゃいますか……?」
実家に戻った私はすぐにお父様に会い、リシェルの横暴を直訴した。しかし……さっきから、お父様は歯切れが悪い。リシェルの行いはおそらく、お父様の耳にも届いているはずだけれど。あれだけの横暴を家族に知られずに行えるわけがない。
正義感の強いお父様ならきっと分かってくれるはず……! 私はそれをただ期待していた。しかし……
「ローザ、済まない。お前の嘆きは非常に大きいものだろう、それは理解しているつもりだ。だがなお前のその気持ちを……汲み取ってやることが出来んのだ」
「お父様……? なぜ? なぜでございますか!?」
信じられない言葉に、私はついには激怒してしまった。考えるよりも先に言葉が溢れ出してしまう。
「妹が、リシェルが……あんな横暴を! お父様からいただいた、大切な私の居場所を……あの子は奪ったのですよ!? どうして何も出来ないのですか……!?」
お父様ことブライアン・クラウドは確かに妹のリシェルに言い負かされてしまうことは多くあった。彼女の我が儘を許してきたのは、お父様に他ならないのだから。
しかし、今回の件はそれら過去のものとは次元が違う。明らかにおかしいのだ……今こうして、リシェルの行いが成立していることが。
「まさか……デナン様の差し金なのですか? 彼が……お父様に手を出すな、と?」
「そうだな……そういうことだ。リシェルはデナン様の権力をフル活用し、お前の屋敷ローザハウスを奪ったのだろう。デナン様の後ろ盾がなければ、とても出来ない芸当だ……」
「ええ、デナン様の部下……執事が多数いましたからね」
「そうか……そうなると、私では本当にどうすることも出来ないな。下手をすると、デナン・モルドレートを敵に回してしまう。私にはクラウド家当主の責任として、この家を守る責務があるのだ」
「お、お父様……お父様は、実の娘の苦悩を……本当に分かっていただいているのですか……?」
「耳が痛いよ」
おそらくはお父様も苦渋の決断なのだと思う。決して私のことを考えていないとか、そういうことはないはずだ。助けを求める娘と当主としての責任……それらを天秤に掛け、後者を選んだということね……。
「そういうことだ。聞いた通り、ブライアン殿には少々荷が重い案件ということになる」
「えっ? こ、この声は……?」
聞き覚えのある安心する声……その主はすぐに私の前に現れた。
「ば、バルサーク様……!? ど、どうしてこちらに……!?」
予想外の人物の登場に私は驚きを隠せなかった。どうしてこの屋敷に……? 意味が分からない……。
「私ではローザを救うことは出来ない。だからこそ、バルサーク・ウィンドゥ大公殿下にお願いする以外にはないのだ。不肖な父を許してくれ、ローザ」
そう言いながらお父様は私に深々と頭を下げていた。お父様は、ちゃんと手を打っていてくれたのね。ご自分の権力ではどうすることも出来ないから、バルサーク様に依頼をしたということか。
なんだか恥ずかしくなってしまった……先ほどお父様を叱責してしまった言葉を取り消したい……ああ、恥ずかしい。
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