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3話 幼馴染 その1

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 私は世界樹の森で大地の精霊クリファに会った後、屋敷に戻ることにした。

 お父様達に婚約破棄の事実を伝えるのは気が引けたけれど、いつまでも隠しておくことは出来なかったからだ。


「お父様……そういうわけで、シード・ゼクセン公爵令息とは別れることになってしまいました。申し訳ありません……」

「なんということだ……!」


 お父様こと、グラント・クヴァル伯爵の声が荒くなっている。私は叱責される覚悟を決めていた。お父様は私を厳しく育てていたから……。しかし……。

「お、お父様……?」

「リーザ! 大変な目に遭ったな! 悲しければ私の胸で好きなだけ泣きなさい」


 意外なことにお父様は私を抱きしめてくれていたのだ。まったく怒っている気配はなかった。

「お父様、私は婚約破棄という不名誉なことをされてしまいました……」

「そんなことは気にするな。シード・ゼクセン公爵令息の身勝手な婚約破棄だ。さあ、私の胸で好きなだけ泣くが良い!」


 とても温かい言葉を掛けてくれるお父様。私はとても嬉しかったけれど、ここへ来る前に泣いたから、今は涙は抑えられていた。それでもお父様は泣くように急かしてくる……ちょっとだけギャグの雰囲気になったのが面白い。

「本当に泣かなくて大丈夫なのか? リーザよ」

「は、はい、大丈夫ですお父様。気遣っていただいてありがとうございます」

「う、うむ……そうか」


 なんだかここだけ見ていると、普段の厳格なお父様の姿が嘘のようだ。過保護な親に見えてしまうし。それだけ私のことを大切に想ってくれていることかな。本当に嬉しかった。

「それよりも、シード殿はなんということをしてくれたのだ! いくら公爵家の長男とはいえ、許されることではないぞ! しかも、理不尽で一方的な婚約破棄ときたものだ」

「はい、そうですね……」


 シード様の豹変ぶりと言えば良いのだろうか……未だに彼との婚約破棄は信じられないもの。

「まあ、そちらの件は私に任せておけ。リーザはどうするのだ?」

「はい、幼馴染のアスタルに会おうかと思っています。久しぶりですし」

「おお、アスタル殿とか! それは良い気分転換になるだろう」

「そうですね」

 クリファにも次に会いに行く時はアスタルも一緒に、と言われているし、彼女もおそらくは会いたいんでしょうしね。私は悲しい気持ちを紛らわせる為にアスタルと会うことを考えることにした。

 そう言えば、シード様と婚約してからの1年間は全く会えていなかったしね……1年もの間、本当に無駄な時間を過ごしたわ。私も17歳になってしまったし……。
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