上 下
12 / 19

12話 アレクからの提案 その2

しおりを挟む
「あの、ラターザ様……アレク様の嘘というのは一体?」

「ああ、そのことだが」


 私もユリア姉さまも聞かされてはいない内容だ。アレク様は明らかに強張った顔をしていたから、図星なんだろうけれどね。

「工場生産体制が盤石になっている、か。なかなか景気が良さそうな話じゃないか」

「え、ええ……そうなんですよ。それで、エリアスを功労者として雇いたいと」

「本当に上手く行っているのか?」

「どういう意味ですか?」


 空気が一瞬はりつめた気がした。ラターザ様は工場生産体制が上手く行っていないと考えているようだ。

「実は私の屋敷の地下にも様々な薬の工場を設けてあるが、やはり大規模な設備ゆえ、経費が掛かっていまってな。そういった面も完璧なのかな?」

「そ、そうですね……なんとかやっていますよ」

「そうかそれは何よりだ。収入面も倍増しているようで嬉しい限りだろう。ただ、残念ながら彼女は既に私の工場で働いてもらっているんだ」

「なっ? ラターザ様の屋敷で……どういう繋がりでそうなったのでしょうか?」


 アレク様は本気で驚いていた。まあ、普通に考えればラターザ・ブラック公爵令息なんて雲の上の人すぎて、接点なんてあるわけないのだけれど。そんなお方の下で働いている……これも姉さまの話術のおかげかしらね。


「接点につきましては色々とありまして。アレク様が妹と婚約中に少々……」


 意味深に語るユリア姉さま。その雰囲気もアレク様を不安にさせている。もちろんわざとだ。ユリア姉さまはそういうことに長けている。

「最終的に決めるのはエリアス嬢だが、君はアレク殿のところに戻る気はあるのか?」

「いえ、まったく」


 私はきっぱりと言い切った。あんな理不尽な婚約破棄からの追放を受けているのだ。とても戻る気になんてなるわけがない。

「な、なんだと……?」

 アレク様は私を戻せると思っていたようで、私の答えにも驚きを見せていた。どれだけ頭の中が空っぽなのだろうか……こんな人が婚約者だったなんて情けなくなってしまう。


「あの……エリアス、待ってくれ! 功労者として相応の待遇で迎えるから……考え直してくれないか?」

「お断りします、アレク様。逆になぜ戻せると考えているのか理解に苦しみます」


 私は考える間もなく即答した。戻るわけなんてあるわけない。

「アレク殿は自らが行った行為をしっかりと思い出された方が良いのではないか?」

「し、しかし……それでは……!」


 アレク様の焦り方が一段と増したように思えた。なんだかおかしい気がする。そもそも、アレク様は私を功労者として連れ戻す必要性が感じられないし。ラターザ様が言っていた「嘘」はこの辺りにあるようね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。

亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。 しかし皆は知らないのだ ティファが、ロードサファルの王女だとは。 そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……

妹に醜くなったと婚約者を押し付けられたのに、今さら返せと言われても

亜綺羅もも
恋愛
クリスティーナ・デロリアスは妹のエルリーン・デロリアスに辛い目に遭わされ続けてきた。 両親もエルリーンに同調し、クリスティーナをぞんざいな扱いをしてきた。 ある日、エルリーンの婚約者であるヴァンニール・ルズウェアーが大火傷を負い、醜い姿となってしまったらしく、エルリーンはその事実に彼を捨てることを決める。 代わりにクリスティーナを押し付ける形で婚約を無かったことにしようとする。 そしてクリスティーナとヴァンニールは出逢い、お互いに惹かれていくのであった。

幼馴染が夫を奪った後に時間が戻ったので、婚約を破棄します

天宮有
恋愛
バハムス王子の婚約者になった私ルーミエは、様々な問題を魔法で解決していた。 結婚式で起きた問題を解決した際に、私は全ての魔力を失ってしまう。 中断していた結婚式が再開すると「魔力のない者とは関わりたくない」とバハムスが言い出す。 そしてバハムスは、幼馴染のメリタを妻にしていた。 これはメリタの計画で、私からバハムスを奪うことに成功する。 私は城から追い出されると、今まで力になってくれた魔法使いのジトアがやって来る。 ずっと好きだったと告白されて、私のために時間を戻す魔法を編み出したようだ。 ジトアの魔法により時間を戻すことに成功して、私がバハムスの妻になってない時だった。 幼馴染と婚約者の本心を知ったから、私は婚約を破棄します。

【完結】王子様に婚約破棄された令嬢は引きこもりましたが・・・お城の使用人達に可愛がられて楽しく暮らしています!

五月ふう
恋愛
「どういうことですか・・・?私は、ウルブス様の婚約者としてここに来たはずで・・・。その女性は・・・?」 城に来た初日、婚約者ウルブス王子の部屋には彼の愛人がいた。 デンバー国有数の名家の一人娘シエリ・ウォルターンは呆然と王子ウルブスを見つめる。幸せな未来を夢見ていた彼女は、動揺を隠せなかった。 なぜ婚約者を愛人と一緒に部屋で待っているの? 「よく来てくれたね。シエリ。  "婚約者"として君を歓迎するよ。」 爽やかな笑顔を浮かべて、ウルブスが言う。 「えっと、その方は・・・?」 「彼女はマリィ。僕の愛する人だよ。」 ちょっと待ってくださいな。 私、今から貴方と結婚するはずでは? 「あ、あの・・・?それではこの婚約は・・・?」 「ああ、安心してくれ。婚約破棄してくれ、なんて言うつもりはないよ。」 大人しいシエリならば、自分の浮気に文句はつけないだろう。 ウルブスがシエリを婚約者に選んだのはそれだけの理由だった。 これからどうしたらいいのかと途方にくれるシエリだったがーー。

もうすぐ婚約破棄を宣告できるようになるから、あと少しだけ辛抱しておくれ。そう書かれた手紙が、婚約者から届きました

柚木ゆず
恋愛
《もうすぐアンナに婚約の破棄を宣告できるようになる。そうしたらいつでも会えるようになるから、あと少しだけ辛抱しておくれ》  最近お忙しく、めっきり会えなくなってしまった婚約者のロマニ様。そんなロマニ様から届いた私アンナへのお手紙には、そういった内容が記されていました。  そのため、詳しいお話を伺うべくレルザー侯爵邸に――ロマニ様のもとへ向かおうとしていた、そんな時でした。ロマニ様の双子の弟であるダヴィッド様が突然ご来訪され、予想だにしなかったことを仰られ始めたのでした。

必要ないと言われたので、元の日常に戻ります

黒木 楓
恋愛
 私エレナは、3年間城で新たな聖女として暮らすも、突如「聖女は必要ない」と言われてしまう。  前の聖女の人は必死にルドロス国に加護を与えていたようで、私は魔力があるから問題なく加護を与えていた。  その違いから、「もう加護がなくても大丈夫だ」と思われたようで、私を追い出したいらしい。  森の中にある家で暮らしていた私は元の日常に戻り、国の異変を確認しながら過ごすことにする。  数日後――私の忠告通り、加護を失ったルドロス国は凶暴なモンスターによる被害を受け始める。  そして「助けてくれ」と城に居た人が何度も頼みに来るけど、私は動く気がなかった。

お兄様がお義姉様との婚約を破棄しようとしたのでぶっ飛ばそうとしたらそもそもお兄様はお義姉様にべた惚れでした。

有川カナデ
恋愛
憧れのお義姉様と本当の家族になるまであと少し。だというのに当の兄がお義姉様の卒業パーティでまさかの断罪イベント!?その隣にいる下品な女性は誰です!?えぇわかりました、わたくしがぶっ飛ばしてさしあげます!……と思ったら、そうでした。お兄様はお義姉様にべた惚れなのでした。 微ざまぁあり、諸々ご都合主義。短文なのでさくっと読めます。 カクヨム、なろうにも投稿しております。

悪役令嬢は処刑されないように家出しました。

克全
恋愛
「アルファポリス」と「小説家になろう」にも投稿しています。 サンディランズ公爵家令嬢ルシアは毎夜悪夢にうなされた。婚約者のダニエル王太子に裏切られて処刑される夢。実の兄ディビッドが聖女マルティナを愛するあまり、歓心を買うために自分を処刑する夢。兄の友人である次期左将軍マルティンや次期右将軍ディエゴまでが、聖女マルティナを巡って私を陥れて処刑する。どれほど努力し、どれほど正直に生き、どれほど関係を断とうとしても処刑されるのだ。

処理中です...