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11話 アレクからの提案 その1
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「やあ、エリアス。久しぶりだな。それからユリア嬢も……元気そうで何よりだ」
「は、はい……」
アレク様を応接室に通したのは良いけれど、最初の発言が不気味だった。私は顔だけアレク様で実は全くの別人と話しているのだろうか?
「流石はシャビトス王国でも有名な美人姉妹だ。今日もやはり美しい」
「アレク様、そういうお世辞は必要ございません。用件を聞きたいのですが、一体、どんな用事でお越しになったのですか?」
ユリア姉さまは毅然とした態度で発言した。アレク様が妙に優しい……あんな一方的な婚約破棄をしておいて、これはあり得ないことだ。何か裏があるに決まっている。姉さまもそれには気付いているみたいね。
「あ、ああ……申し訳ない。ただ、お世辞と言うわけではないのだがな。本当に二人は美しいと思うよ」
「アレク様、ご用件をお願い致します」
私も彼の言葉は無視して用件を聞いた。ここまで美人と評してくれるなら、婚約破棄はなかったはずだからだ。お世辞以外のなにものでもないだろう。
「ふむ、用件か……ああ、そうだな。何と言えばよいのか」
「アレク様、正直に話された方が宜しいかと思われます」
「分かっている、工場長」
アレク様が座っているソファの後ろには工場長と呼ばれた人物が立っていた。ここに連れて来るということは、重要な人物なのだろうか。
「単刀直入に言おう、エリアス。お前に戻って来て欲しいのだ」
「戻って来て欲しい……?」
全く予期していなかった言葉が出て来た。これは、婚約破棄という言葉が突然出て来た時とよく似ている。どういうこと……戻って来て欲しいって。
「ああ、そういうことだ。勝手な意見だとは承知しているが、いいだろう? お前も行く当てもないだろうし、もちろん、婚約破棄の件に関してはちゃんと謝罪する。給金もそれなりの額を出すと約束しようじゃないか」
「なにが狙い何ですか?」
「なに? どういう意味だ?」
アレク様の表情が強張った気がした。単純に戻って来て欲しいというのもおかしいけれど、それ以上に条件面が良過ぎる。なにか裏があるとしか思えなかった。それに、この条件を最後まで守ってくれるかも非常に怪しいけれど。
「いや……なにも裏なんかないよ、エリアス。ほら、お前も分かっているだろう? 例の工場生産体制が軌道に乗っていてな。我が家の収入が倍増しているのだよ。そういったことを鑑みて、功労者であるお前を尊重して再び雇いたいということでだな」
「……」
怪し過ぎる……何よりも私はアレク様に雇われていたわけではない。婚約者としての仕事を全うしていたのだ。その中の一つに薬づくりがあったというだけ。アレク様は信じられないくらいに優しくなっていた。絶対に裏があるに決まっている。そもそも、こんなことで私を騙せると思っていたのだろうか?
「嘘を吐くのは好ましくないな、アレク殿」
「えっ……あなたは! ブラック家の……!」
「ああ、ブラック家の次男、ラターザ・ブラックだ。以後お見知りおきを」
そのタイミングで応接室に現れたラターザ様。しばらく様子見をして出て来るとおっしゃっていたけれど、思ったよりも早い登場だった。私の隣のソファに座り、アレク様を見据えている。
アレク様は焦りからなのか、汗を流していた。彼の「嘘」が暴かれる瞬間だろうか。
「は、はい……」
アレク様を応接室に通したのは良いけれど、最初の発言が不気味だった。私は顔だけアレク様で実は全くの別人と話しているのだろうか?
「流石はシャビトス王国でも有名な美人姉妹だ。今日もやはり美しい」
「アレク様、そういうお世辞は必要ございません。用件を聞きたいのですが、一体、どんな用事でお越しになったのですか?」
ユリア姉さまは毅然とした態度で発言した。アレク様が妙に優しい……あんな一方的な婚約破棄をしておいて、これはあり得ないことだ。何か裏があるに決まっている。姉さまもそれには気付いているみたいね。
「あ、ああ……申し訳ない。ただ、お世辞と言うわけではないのだがな。本当に二人は美しいと思うよ」
「アレク様、ご用件をお願い致します」
私も彼の言葉は無視して用件を聞いた。ここまで美人と評してくれるなら、婚約破棄はなかったはずだからだ。お世辞以外のなにものでもないだろう。
「ふむ、用件か……ああ、そうだな。何と言えばよいのか」
「アレク様、正直に話された方が宜しいかと思われます」
「分かっている、工場長」
アレク様が座っているソファの後ろには工場長と呼ばれた人物が立っていた。ここに連れて来るということは、重要な人物なのだろうか。
「単刀直入に言おう、エリアス。お前に戻って来て欲しいのだ」
「戻って来て欲しい……?」
全く予期していなかった言葉が出て来た。これは、婚約破棄という言葉が突然出て来た時とよく似ている。どういうこと……戻って来て欲しいって。
「ああ、そういうことだ。勝手な意見だとは承知しているが、いいだろう? お前も行く当てもないだろうし、もちろん、婚約破棄の件に関してはちゃんと謝罪する。給金もそれなりの額を出すと約束しようじゃないか」
「なにが狙い何ですか?」
「なに? どういう意味だ?」
アレク様の表情が強張った気がした。単純に戻って来て欲しいというのもおかしいけれど、それ以上に条件面が良過ぎる。なにか裏があるとしか思えなかった。それに、この条件を最後まで守ってくれるかも非常に怪しいけれど。
「いや……なにも裏なんかないよ、エリアス。ほら、お前も分かっているだろう? 例の工場生産体制が軌道に乗っていてな。我が家の収入が倍増しているのだよ。そういったことを鑑みて、功労者であるお前を尊重して再び雇いたいということでだな」
「……」
怪し過ぎる……何よりも私はアレク様に雇われていたわけではない。婚約者としての仕事を全うしていたのだ。その中の一つに薬づくりがあったというだけ。アレク様は信じられないくらいに優しくなっていた。絶対に裏があるに決まっている。そもそも、こんなことで私を騙せると思っていたのだろうか?
「嘘を吐くのは好ましくないな、アレク殿」
「えっ……あなたは! ブラック家の……!」
「ああ、ブラック家の次男、ラターザ・ブラックだ。以後お見知りおきを」
そのタイミングで応接室に現れたラターザ様。しばらく様子見をして出て来るとおっしゃっていたけれど、思ったよりも早い登場だった。私の隣のソファに座り、アレク様を見据えている。
アレク様は焦りからなのか、汗を流していた。彼の「嘘」が暴かれる瞬間だろうか。
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