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5話 ミリアスとレグリオ その2

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 応接室に入った私達。私とお父様は隣同士で座り、ミリアスとレグリオの二人は対面のソファに座った。

 他愛もない話から開始されるかと思ったけれど、ミリアスから最初に出た言葉は意外なものだった。


「ねえ、レイナ。あなた婚約していたわよね?」

「え、ええ……していたけれど、それがどうかしたの?」


 まさか、私の婚約話になるなんて思わなかった。それもレイナから話し出すなんて。

「ダート・スヴェル公爵令息……この名前には聞き覚えがあったからね」

「あ、そういうことね」


 ダート様は確かミリアスとの婚約を考えていたはず。その話の流れで私とダート様が婚約していると分かっても不思議ではない。

「ダート殿はやけにしつこかった覚えがあるわ。私と二人きりになるよう図ったり。彼とは婚約しているのでしょう? どういうこと?」

「ええと、それが婚約破棄という流れになってね……」

「婚約破棄?」

 ミリアスの口調が強くなった気がした。それからレグリオの表情も変化しているような気がする。


「どういうことだ、レイナ? 詳しく教えてくれないか? 一体君に何があったんだ?」

「私から話しましょう」


 隣に座っていたお父様が私の代わりに事情を説明してくれるようだった。気を遣ってくれたのかもしれないわね。


「実は……」



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「そんなことが……なんて無慈悲な言い分なんだ……」


 事情をお父様より聞いたレグリオは歯を食いしばっていた。彼もお父様と同じく怒ってくれているようだ。ミリアスは無言のままだ。

「それが2週間前のことなんだな? レイナ」

「ええ、そういうことになるわ」

「君は承諾して良かったのか? そんな身勝手な婚約破棄を……」

「ダート様と婚約して彼の屋敷に住むようになり、彼の本性がわかって失望していたから。ダート様への愛情なんてこれっぽっちもないわ。むしろ向こうの方から婚約破棄の話をしてくれて良かったと思えるくらいよ」

「そうか……君が納得しているなら良いことなんだが」


 レグリオは私のことを心配してくれているようだ。彼は以前から変わっていなかった。見た目は随分とハンサムになったけれど、優しい心は持ったままだ。

「まあ、レイナはそれで良いのかもしれないけれど、私は納得いかないわね……」

「ミリアス? それってどういう意味?」

「私の親友を傷付けておいて、ダート・スヴェル公爵令息は何のお咎めもなしだなんてあんまりでしょう? そういうことよ」


 あれ? レグリオは優しく温厚で変わっていなさそうだけど、ミリアスはとても変わっているのでは? 怪しい笑みがなんだか怖かった……。


「ダート殿は私にかなり夢中のようだから。夢中になる相手を間違えたわね……ふふふ」

「ミリアス、怖いわよ……」

「レイナはそれで良いの? 上位貴族から婚約破棄をされたということは、それだけ次の婚儀が不利になるでしょう?」

「それはそうかもしれないけれど……」


 婚約破棄は確かにそんな側面もあったりする。特に貴族令嬢の方が不利になりやすい。しかも、下の位となればなおさらだ。

「さ~てと、ダート殿をどうしてくれようかしら……」


 あ、ミリアスの本性を見た気がした。この笑いは誰にも止められる気がしない。ダート様は大丈夫なのから……。
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