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10話 二人の仲 その2
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「アルゼイ様もエリザ嬢もどちらも独り身でございますな」
「そうだが……それが、どうかしたのか? キングダム侯爵?」
強めのアルコール度のワインを片手に持ちながら、意気揚々と話しているキングダム侯爵に、アルゼイ様が言葉を返している。アルゼイ様は呆れている印象だったけど、キングダム侯爵は気にしている様子はなかった。
「独り身……非常に良い言葉ではありませんか。お二人が婚約を果たした暁には、私は全力で応援させていただきますぞ?」
「ななっ……!? アルゼイ様と私が婚約ですか!? それは……!」
私はキングダム侯爵の言葉に驚き、手に持っていた食事を落としそうになってしまった。
「大丈夫か、エリザ嬢? 動揺するのはもっともだが」
「あ、はい。大丈夫です、アルゼイ様」
「そうか、何よりだ」
キングダム侯爵の発言は心臓に悪かったけれど、私のそんな動揺を見て、彼は笑っていた。
「これは申し訳ありませんでした。エリザ嬢に婚約の話を持ち出すのは、時期尚早でしたな。フリック王子殿下と別れた直後でしたのに……」
「うう……キングダム侯爵、時期尚早以前に前提がおかしいですよ。私とアルゼイ様など……」
フリック様にも振られたばかりなのに、第一王子殿下であるアルゼイ様とそのような関係になるなんて、考えられなかった。個人的な感情はともかくとして、私の立場がそれを許さないだろう。
「エリザ嬢との婚約、か。確かに悪くはない」
「えっ、アルゼイ様……?」
ほろ酔い気分のキングダム侯爵はともかくとして、アルゼイ様がノリノリになっているのはどういうわけ? マイケルやシリカも戻って来る気配がないし……もしかしてみんな、こういう話になるのを予想していたの?
「お二人が婚約を果たした場合、とても良いカップルになりそうですな。お互いに助け合える良きパートナー同士と言えば良いのでしょうか」
「キングダム侯爵……先ほど、フリックを挑発していたのはそういうわけか。私に取り入る目的があるようだな?」
「敢えて否定はいたしません。貴族である以上、どの王族に付くかを考える必要がありますので」
「次期の国王すらも見据えての判断、行動というわけか」
最後のアルゼイ様の質問には、キングダム侯爵は何も返答はしなかった。ただ、表情は肯定しているように見えたけれど。
「フリック王子殿下はこれから、とても大変な日々を歩むことになりそうです。その一方で、あなた方お二人は順風満帆な人生を歩めそうですね。これも、日頃の行いの違いといったところでしょう。それでは、私はこの辺で……」
「キングダム侯爵、ありがとうございました。なんとお礼を申し上げればよいのか、わかりませんが」
「必要はありませんよ、エリザ嬢。私は自分の為に行っただけですから。それが偶然にも、あなた方の利益に繋がっただけでしょう」
キングダム侯爵は私にそう言うと、そのまま去って行った。他の貴族との挨拶の予定があったのか、離れたところで別の貴族と落ち合っている。
「エリザ嬢、キングダム侯爵からも気遣いを受けたようだし、少しの間、二人だけで回ろうか?」
「さ、左様でございますね。アルゼイ様が嫌でなければ、お供させてください……!」
「よし、では行こうか。向こうの方に、確か貴重な牛肉が出されていたはずだが……」
私は緊張しながら、アルゼイ様の後を追うことにした。その後、私達は二人で終了までパーティーを楽しんだ。その姿は、婚約者同士に映っていたに違いない。
少しだけ生まれたアルゼイ様との婚約話……彼は確かに「悪くない」と言っていたけれど。そんな未来が本当に訪れるのだろうか? この時の私にはまだ分からなかった。
「そうだが……それが、どうかしたのか? キングダム侯爵?」
強めのアルコール度のワインを片手に持ちながら、意気揚々と話しているキングダム侯爵に、アルゼイ様が言葉を返している。アルゼイ様は呆れている印象だったけど、キングダム侯爵は気にしている様子はなかった。
「独り身……非常に良い言葉ではありませんか。お二人が婚約を果たした暁には、私は全力で応援させていただきますぞ?」
「ななっ……!? アルゼイ様と私が婚約ですか!? それは……!」
私はキングダム侯爵の言葉に驚き、手に持っていた食事を落としそうになってしまった。
「大丈夫か、エリザ嬢? 動揺するのはもっともだが」
「あ、はい。大丈夫です、アルゼイ様」
「そうか、何よりだ」
キングダム侯爵の発言は心臓に悪かったけれど、私のそんな動揺を見て、彼は笑っていた。
「これは申し訳ありませんでした。エリザ嬢に婚約の話を持ち出すのは、時期尚早でしたな。フリック王子殿下と別れた直後でしたのに……」
「うう……キングダム侯爵、時期尚早以前に前提がおかしいですよ。私とアルゼイ様など……」
フリック様にも振られたばかりなのに、第一王子殿下であるアルゼイ様とそのような関係になるなんて、考えられなかった。個人的な感情はともかくとして、私の立場がそれを許さないだろう。
「エリザ嬢との婚約、か。確かに悪くはない」
「えっ、アルゼイ様……?」
ほろ酔い気分のキングダム侯爵はともかくとして、アルゼイ様がノリノリになっているのはどういうわけ? マイケルやシリカも戻って来る気配がないし……もしかしてみんな、こういう話になるのを予想していたの?
「お二人が婚約を果たした場合、とても良いカップルになりそうですな。お互いに助け合える良きパートナー同士と言えば良いのでしょうか」
「キングダム侯爵……先ほど、フリックを挑発していたのはそういうわけか。私に取り入る目的があるようだな?」
「敢えて否定はいたしません。貴族である以上、どの王族に付くかを考える必要がありますので」
「次期の国王すらも見据えての判断、行動というわけか」
最後のアルゼイ様の質問には、キングダム侯爵は何も返答はしなかった。ただ、表情は肯定しているように見えたけれど。
「フリック王子殿下はこれから、とても大変な日々を歩むことになりそうです。その一方で、あなた方お二人は順風満帆な人生を歩めそうですね。これも、日頃の行いの違いといったところでしょう。それでは、私はこの辺で……」
「キングダム侯爵、ありがとうございました。なんとお礼を申し上げればよいのか、わかりませんが」
「必要はありませんよ、エリザ嬢。私は自分の為に行っただけですから。それが偶然にも、あなた方の利益に繋がっただけでしょう」
キングダム侯爵は私にそう言うと、そのまま去って行った。他の貴族との挨拶の予定があったのか、離れたところで別の貴族と落ち合っている。
「エリザ嬢、キングダム侯爵からも気遣いを受けたようだし、少しの間、二人だけで回ろうか?」
「さ、左様でございますね。アルゼイ様が嫌でなければ、お供させてください……!」
「よし、では行こうか。向こうの方に、確か貴重な牛肉が出されていたはずだが……」
私は緊張しながら、アルゼイ様の後を追うことにした。その後、私達は二人で終了までパーティーを楽しんだ。その姿は、婚約者同士に映っていたに違いない。
少しだけ生まれたアルゼイ様との婚約話……彼は確かに「悪くない」と言っていたけれど。そんな未来が本当に訪れるのだろうか? この時の私にはまだ分からなかった。
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