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16話 アミルのお店 ④

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「ようこそいらっしゃいましたわ、カイル王子殿下」


 まずは最低限の礼儀とばかりに、アミルはカイル王子殿下に名指しで挨拶をした。バニースーツの下のキメの細かい網タイツが、ミラーボールから照らされる光に反射し、何とも言えない光沢を作っている。


「ああ、ありがとう。このような場所に招待していただき、感謝する」

「いえ、本当に勿体ないお言葉でございますわ、ありがとうございます」


 どこかの貴族令嬢と間違える程に、アミルの態度は理路整然としていた。


 いや、一般人なんだけどね……家族に貴族関係の人が居るとかそういうことも一切ない。確か、全部独学で学んでいたはず。それを学んで、日常生活にどれほど役立ったかは別として、ある意味では凄いと言えた。


 そして、彼女は次に私に視線を合わせる。また、理路整然としたお辞儀を開始した。


「エメラダ……来てくれてありがとう。本日は息抜きになってくれることを願っておりますわ」

「ありがとう、アミル」


 息抜きか……う~ん、そう言われると、なんというか……私はスキルで薬草や上薬草を作っているだけだし。寝る間も惜しんで勉強し、身体を鍛え、魔法能力の向上に命を掛けている人たちには顔向けできない。

 だから、アミルの気遣いはむしろ、護衛の騎士たちに行って欲しかった。私たちの周囲を囲んでいる騎士の人々……非常に頼れるけれど、きっと給料で言えば、割に合っているとは言えないはず……。

 だって、命を懸けて対象を守る責務があるんだもの。それを放棄すれば、最悪の場合は死罪になってしまうとも聞いたことがある。敵前逃亡は死を意味する、か……おそらく繁盛し始めた私の方が、給料区分で言えば上回っているんでしょうね……それを考えると、本当に悪い気がしていた。


「アミル……騎士の方々に挨拶をお願い」

「承知いたしましたわ、エメラダ」


 アミルがどこまで私の内心を読み取ったのかは不明だけれど、彼女はニコっと私に微笑んでくれた。昔からアミルは、私の考えを読んでくれる。今回もある程度は伝わったんじゃないかな。


「護衛の騎士の方々もようこそいらっしゃいましたわ。私の親友であるエメラダを護衛していただける面々、本日は精一杯楽しんでいただけるよう、努力いたします」

「おお、これはありがたいお言葉。しかし、我々はこれが仕事ですので……」


 アミルの挨拶に対しても謙虚な姿勢を決して崩すことはない。王子殿下の部下ともなれば、そのくらいの屈強な精神力が必要なんでしょうね。改めて、彼らに私は感謝していた。


 まあ、それはともかくとして……カイル王子殿下を含めて、男陣営はすっかりだらしない表情になっている……。みんな、アミルの姿にメロメロになっているのかしら?
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みんなの感想(8件)

伊予二名
2020.08.09 伊予二名

これだけやってハンニバルとエリーコンビが生きていたら、この国には法がないということになる。

マルローネ
2020.08.11 マルローネ

流石に殺してしまうのはどうでしょう?
冒険者組合とは完全に所属組織が違ってしまうので
いきなり厳罰は難しいです

解除
モルガナ
2020.08.01 モルガナ
ネタバレ含む
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コハク
2020.07.31 コハク
ネタバレ含む
マルローネ
2020.07.31 マルローネ

素材と言えば素材ですかね、薬草なので……そのままでも使えますけど
復讐よりも逆恨みの方がしっくりきますね
逆恨みほど怖いものはないですしね~
更新楽しみにしていただき感謝です

解除

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