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5話 カイル王子殿下 ①

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 突然、私の店を訪れたのは、カイル王子殿下だった。なんていうか、もっとちゃんとした話し方をしないと不味いんだろうけど……王子殿下自身が身分については忘れて欲しいみたいだから。私は普通に接することにした。


「まさか、カイル王子殿下がお越しになるとは思いませんでした。私は薬屋の店主、エメラダと申します」

「エメラダ、か。よろしく」

「はい、よろしくお願いします」


 私達は軽く挨拶を済ませた。そして、次はアミルがお辞儀をしながら口を開く。


「お初にお目にかかりますわ、カイル王子殿下。わたくしはアミル、と申します。以後、お見知りおきを」

「ああ、こちらこそよろしく。アミル、だな」


 かなり丁寧な挨拶をしたアミル。そのしぐさと声のトーン、話し方などは貴族令嬢を思わせる程に優雅だった。……平民だけどね。


「さて、なんだか閉店中にお邪魔してしまったようで悪かった。そろそろ、お暇させてもらうよ」

「いえいえ、とんでもないことです。せっかく、王子殿下が来ていただいたのに、何のおもてなしも出来ず、申し訳ありませんでした……」


「いやいや、全く気にする必要はないよ。しかし、こんなところに薬屋さんがあるとは意外だった。薬草などについては、王族、貴族の間でも必要になるからな。また寄らせてもらっても構わないかな?」

「は、はい。もちろんでございます!」


 上擦った声で返答してしまう私。ここに来て、カイル王子殿下と一緒に居ることへの緊張感が出て来たみたい。さっきまではどこか夢心地だったし……。


「ありがとう、感謝する。しかし……内部は閑散としているんだな」


 私の出来上がったばかりの内装の様子を見て、カイル様は首を傾げていた。まあ、オープンしたばかりだしね、それまでは空き家だったし。うわ……王子殿下に内装を見られるのって恥ずかしいわ……。


「申し訳ありません……まだ、オープンしたところでございまして……」

「いや、誤解があったようですまない。私が言いたかったのは、薬の錬成の為の大釡や棚、それから様々な素材があり、薬品の匂いが充満していてもおかしくないのだが、ということだ」

「少なくとも、街中にある薬屋とは全く違う印象ですね……。ここまで、閑散としていて商売が成り立っているのが不思議だ……」


 今、言葉を出したのはカイル様の護衛の一人ね。護衛の人たちも店内に入って、内装の確認をしているから、疑問が生まれたんだと思う。


「そういうことでしたか。確かに、私は通常の方法とは違う製法で薬草や上薬草を作っていますから。大釡などは必要ないんです」


「どういう方法なのか、伺っても大丈夫だろうか?」


「はい、それではお見せしますね」


 カイル王子殿下はスキルの存在を知らないのかしら? いえ、そういうスキルがあることを知らないんでしょうね。店内のストックもなくなった頃だから、ちょうど良いわ。私は自らの手に力を集中させ、薬草を生み出す瞬間をカイル様に見せた。


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