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9話

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「待たせてしまって申し訳なかった」

「ジェームズ様……いえ、とんでもございません」


 シーザー様は入ってきた私達を見るなり、身なりを整えていた。あのまま何もしなければ、レイナに襲い掛かっていたのかしら? 流石にジェームズの屋敷の中ではそんなことはしないか。

「何か言い争いをしているようにも見えたが……大丈夫なのか?」

「えっ? は、はい……そんなことはありませんよ? そうですよね、シーザー様?」

「そうだな……問題ございません」


 二人とも明らかに焦っていたけれど、私は特になにも言わないことにした。ややこしくなっても面倒だしね。ジェームズにも余計な心労を掛けたくはないし。


「グルルルルルル……」

「ジョセフ、どうかしたの?」


 魔犬のジョセフは不穏な空気を敏感に察知していたのか、低い声で唸り声をあげていた。私はジョセフの頭を優しく撫でてあげる。

「くぅぅぅぅぅん……」


 可愛い……ジョセフは甘えたような声を出して、私に視線を合わせていた。右足を差し出して「お手」のポーズもしているのが更に可愛い。


「さて、今日はアリスとレイナ、それからシーザー殿が私の為に集まってくれた記念すべき日だ。夕食は豪勢にしてみようと思うので、よろしければ付き合っていただけるかな?」

「もちろんでございます、ジェームズ様」

「よろこんで……」

「も、もちろんですよ、ジェームズさん!! 私は今夜はとことん付き合いますよ!」

「ははは、ありがとう」

 はあ……レイナはやはり礼儀がなっていない気がする。親しき仲にも礼儀ありという言葉をもう一度、勉強した方が良いだろう。ジェームズへの言葉の使い方は適切にしなければならないのだ。

 彼は公爵になられるお方なのだから。先ほどのレイナの言葉遣いは失礼に当たるだろう。ジェームズは優しいのでそれを指摘することはないだろうけど。

「……レイナ」


 シーザー様が小さな声で彼女の名前を呼んでいた。シーザー様の機嫌は良くなさそうね。

 不穏な空気は現在も変わらずに続いている……レイナは大丈夫かしら? 上手くシーザー様とやっていけることを祈っているわ。まあ無理だろうけど。
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