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5話

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 結局、メリーの質問には答えられないまま私は外に出て来てしまった。今は屋敷の庭を歩いている。


「はあ、なんて答えれば良かったんだろう?」


 カイルが私と一緒になりたい。そのように望んでいたとすれば私はどのように答えるのだろうか? まあ、深く考えても仕方のないことだけれど。そんなことはあり得ないのだし。彼も5年間の留学で見えて来たものも多いだろうし、私のことなんて考えていないはず。


「エリス、こんなところにいたのか」

「カイル」


 そんなことを考えているとカイルと出会ってしまった……今会うのは果たして良いものかどうか。わかりかねるけれど、無視してどこかへ行くわけにもいかないしね。

「おはよう、カイル」

「おはよう。どうだい調子の方は?」

「そんなに悪くないと思うわ」


 カイルは毎日聞いてくれている。実際、彼の屋敷に泊まることになってから、私の体調は回復していると言えるだろう。元々、病的なものではなく精神的な疲労だったわけだしね。屋敷に専属で住んでいるお医者さまからもそう言われた。カイルは医者も手配してくれたのだ。まあ、屋敷内にいたわけだけど。


「調子は良いならそれは良かった。ご両親には私の方から伝えさせてもらったよ。流石に何も言わないわけにはいかないからね」

「ええ、カイル。どうだったの?」

「とても心配しているようだったよ。手紙にはそう書いてあった。しばらくはこちらで引き取りますと言っておいたさ」

「そうなんだ……」

「エリスのことをとても心配しているようだったよ。折を見て会いに行くのもいいかもな」

「そうね、考えておくわ」

「ああ」


 お父様やお母様は怒っていないということだけれど……本心ではどうなんだろうか? 私とノーブルとの婚約を喜んでいた両親。それは伯爵とのパイプラインができたことへの喜びだ。それがなくなってしまったのだから。

 本来ならば私は蔑まれても仕方のない立場だった。


「ご両親のことは心配かもしれないけれど、一度、会いに行ってみたらどうだ?」

「え、ええと……それは……あの」

「不安なら私も付いて行くよ。君のご両親に会うのも楽しみだからね」

「カイル……ありがとう。本当に。こんなに良くしてくれて……お礼の言葉も出ないわ」

「気にしないでくれよ。大切な幼馴染のピンチなんだ。全力で協力させてもらうさ」


 カイルは私の両親に会うことを躊躇っている様子はなかった。婚約破棄から5日も経過しているし、そろそろ周囲の貴族にも噂が出回る頃だろうか。彼の言う通り、両親には会った方がいいかもしれないわね。どのみち隠し通せることではないし。
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