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29話 平穏な生活 ②
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「まさか……あなた方が来られるとは、思ってもいませんでしたわ……」
アイミー令嬢が入院している医療機関……貴族街の中にある専門病棟に私とハロルドは訪れていた。一応、ソシエの乱入がないかを警戒していたけれど、いくらなんでも、あの子がそこまで空気を読めないはずはないわね。
「申し訳ありません……ご迷惑でしたでしょうか?」
「いえ、そんなことはありませんよ」
彼女は立場的には私よりも上の人なので、私は敬語を使っていた。特に訪問したのは迷惑ではないようで安心する。私はダンテ様に傷つけられた、彼女の顔を見ていた。
「アイミー様、その傷は……」
私が包帯で巻かれている顔の傷を指摘すると、彼女は咄嗟にその部分を覆っていた。
「……あなたからすれば、ざまぁみろ、と言ったところかしら? シェル」
「まさか……そんなこと思うはずがないでしょう?」
私はこの場では意味がないと判断し、敬語での話し方を抑えることにした。アイミー令嬢も特に気にしている様子はないし、大丈夫よね。
「私はダンテ様に婚約破棄をされたわ……本来なら、ダンテ、と呼び捨てにするのが普通なくらいに心を傷つけられた」
「そうね……私もそのことは聞いているわ」
「でも、あなたは直接的には関与していない……そうでしょ?」
真実がどうかは、この際重要ではない……私が納得するかどうかなのだから。アイミー令嬢は一生消えないかもしれない傷をその顔に負ってじまった……それは、女性としては非常に不味いことでもある。
例え彼女が、ダンテ様が私を蹴落としたことを知っていたのだとしても、許せる心構えだった。全ては、アイミー令嬢の返答次第……それ以外に、真実なんてわからないんだから。
包帯を巻いている彼女は、しばらくの間、沈黙を貫いていた……それから、ハロルドに視線を合わせる。
「噂には聞いているわ……あなたの婚約者は、相当に強い心を持っているわね」
「当然、と言えるかな。僕が心の底から愛している女性だからね」
「まあ、そんな恥ずかしい言葉を堂々と言えるなんて……なんだか、とても羨ましいわ」
私の顔を一瞬の内に真っ赤にしてしまう、ハロルドの攻撃力溢れるお言葉……それを、アイミー令嬢に聞かれたことも恥ずかしさに拍車を掛ける結果になってしまった。しかし、当の本人は特に気にしている素振りを見せていない。こんなのズルいと思う……私だけが、恥ずかしい想いをしているなんて。
アイミー令嬢も先ほどまでとは違い、笑顔がこぼれて来ている。私とハロルドがお見舞いに来たことも、少しは影響しているのかしら? 彼女がこれを機に、前を向いて元気になってくれると嬉しいんだけれど。
私たちの出会いが、今後もあるのなら、出来れば友人関係でありたいと願っていたから……同じ境遇の者同士としてのね。
アイミー令嬢が入院している医療機関……貴族街の中にある専門病棟に私とハロルドは訪れていた。一応、ソシエの乱入がないかを警戒していたけれど、いくらなんでも、あの子がそこまで空気を読めないはずはないわね。
「申し訳ありません……ご迷惑でしたでしょうか?」
「いえ、そんなことはありませんよ」
彼女は立場的には私よりも上の人なので、私は敬語を使っていた。特に訪問したのは迷惑ではないようで安心する。私はダンテ様に傷つけられた、彼女の顔を見ていた。
「アイミー様、その傷は……」
私が包帯で巻かれている顔の傷を指摘すると、彼女は咄嗟にその部分を覆っていた。
「……あなたからすれば、ざまぁみろ、と言ったところかしら? シェル」
「まさか……そんなこと思うはずがないでしょう?」
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「そうね……私もそのことは聞いているわ」
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例え彼女が、ダンテ様が私を蹴落としたことを知っていたのだとしても、許せる心構えだった。全ては、アイミー令嬢の返答次第……それ以外に、真実なんてわからないんだから。
包帯を巻いている彼女は、しばらくの間、沈黙を貫いていた……それから、ハロルドに視線を合わせる。
「噂には聞いているわ……あなたの婚約者は、相当に強い心を持っているわね」
「当然、と言えるかな。僕が心の底から愛している女性だからね」
「まあ、そんな恥ずかしい言葉を堂々と言えるなんて……なんだか、とても羨ましいわ」
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