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第一章
モテ男
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「曽根崎くんって、陸奥くんと、仲いいよね?」
夏休みが明けてから、もうこれで、3回目だ。虎徹は、同じ学部の女の子から、声をかけられる。
「うん。」
「陸奥くんって、今、彼女いるのかな?」
「いないと思うけど。」
そう答えると、たいていの女の子は、嬉しそうな顔をする。
「でも、好きな人がいるみたい。」
この言葉で、ガッカリして帰って行くか、吉行のバイト先まで押しかけて行くか。虎徹以外とは、深く関わらないようにしていたみたいだが、ルックスと、人あたりの良さで、モテるのだ。
『また、同じ学部の女の子から、吉行に彼女いないのかって、聞かれた。』
『わかった。』
女の子から、告白されることもあったみたいだが、吉行は、すべて断っていた。虎徹は、
「なんで、吉行ばっかりモテるんだよ。」
と、羨ましがると、
「こてっちゃんは、梨花ちゃんがいるじゃん。」
と、吉行が羨ましがる。
「でもさ、やっぱりモテてみたいよね。」
「はははっ。俺のどこがいいんだろうね。チビだし。」
「吉行って、何センチあんの?」
「168センチ。」
「そりゃ、チビだわ。やっぱ顔でモテるんじゃない?俺は、188センチだけど、モテたことない。」
そんなくだらない話をしていた時だった。目の前を杏奈が通り過ぎる。虎徹が、声をかけようとしたが、吉行が止めた。
「佐藤先輩、行っちゃうよ。」
「あれ…。」
吉行は、寂しそうに、杏奈が向かった先を見る。同じ学部の学生か、見ない顔だったので、上の学年か。がっしりした体つきの男と、並んで歩いて行くのが見えた。
「最近、付き合い始めたんだって。」
「そうなんだ。吉行は、いいのか?」
「いいよ。杏奈さんの選んだ人だから、応援したい。」
そうは言っても、やっぱり元気のない吉行を見て、虎徹は、何もしてやれないもどかしさを感じていた。
「飲みに行くか。」
「ありがとう。でも、バイトなんだ。」
「なんだよ。」
「こてっちゃんも、サークルじゃなかった?」
「そうだった。」
「なんだよ。」
寂しそうに笑う吉行の横顔は、なぜかいつも以上に、綺麗に見えた。
翌日、吉行は、珍しく学校に来なかった。体調が悪いと、連絡があり、講義のノートを今度貸して欲しいとのことだった。虎徹は、夕方、バイトの前に、吉行のアパートに寄って行くことにした。
部屋の前に着くと、声が聞こえて来た。窓が少し開いている。女性の声だった。
「気持ちはありがたいけど、彼氏がいるんだし、ひとりで、男の部屋に来るのは、よくないよ。」
「でも、高校の時からの仲じゃない。心配だよ。バイトばっかりだし、タバコもやめなよ。」
「やめない。」
「吉行。もっと体、大事にして。」
「杏奈には関係ない。もう、ほっといて。」
「吉行。」
「ごめん。ちょっと寝たいから、帰ってくれる?」
パタパタと、部屋の中を歩く音がした。虎徹は、もと来た道を戻った。吉行の顔を見る勇気がなかった。
虎徹は、バイトが終わると、もう一度、吉行の部屋を訪ねた。部屋の明かりは、ついていなかった。
インターホンを押す。だいぶ時間が経ってから、のっそりと吉行が現れた。いつにも増して、青白い顔をしている。
「あぁ、こてっちゃん。」
「よぉ。ひどい顔色だな。」
「巷じゃ、このぐらいが一番モテるんだよ。」
「冗談言えるぐらいなら、大丈夫そうだな。」
「上がってけよ。」
「おう。」
吉行は、フラフラしながら、冷蔵庫を開けた。レモンの砂糖漬けや、フルーツゼリーなんかがはいっていた。さっき、杏奈が来た時に、置いて行ったのだろう。鍋に、お粥が作ってあった。吉行は、手をつけていないようだった。
「風邪?」
「うーん。たぶん、病院行ってないから、分かんない。明日には治るよ。」
虎徹は、今日の講義のノートと、スポーツドリンクを渡した。
「ありがとう。助かるよ。」
吉行が、タバコを吸おうとするから、虎徹は、止めた。
「体調悪い時ぐらい、やめとけって。」
「あぁ、そうか。」
吉行は、素直に従った。
「こてっちゃん、いくらモテてもさ、本当に、この人だって思う人とじゃなきゃ、意味ないよね。」
「どうした?」
「分かってるつもりだったんだ。杏奈に彼氏ができたら、どうなるか。でも、思った以上に辛いね。」
吉行は、ゼェゼェと、肩で息をしていた。顔が真っ赤だった。
「ちょっと、吉行、大丈夫か?」
虎徹が吉行の額に手を当てると、かなり熱かった。体中が熱い。これは、風邪じゃない。
「吉行、病院行こう。タクシー呼ぶから。」
「いいよ。俺、金ないし。」
「そんなこと言ってる場合じゃねぇよ。」
虎徹は、すぐにタクシーで吉行を救急外来に連れて行った。吉行は、意識が朦朧としていた。
「インフルエンザですね。肺炎になりかけてる。」
診察してくれた医師にそう告げられ、虎徹は、驚いた。
「こんな時期にですか?まだ10月上旬なのに。」
「まぁ、たまにあるんですよ。あなたは、お友達ですか?ご家族の方は?」
「えっと、彼、一人暮らしで…。」
「うーん。そうですか。ひとりだときついかなぁ。3.4日入院しましょうか?食事とか大変でしょうし、ちょっと、症状も辛そうだから。」
「は…はい。」
(って、俺が返事していいんだろうか?確かに、あの部屋にひとりにしとくのは、危ないなぁ。)
すぐに、病室に移された吉行に、
「吉行、入院だってよ。」
「うん。」
「日頃の不摂生がたたったんだぞ。」
「うん。」
吉行は、聞いてるのか、聞いていないのか、よく分からない返事をした。
「家族に連絡するか?」
「しなくていいよ。」
「お兄さんいるんだろ?お兄さんにしたら?」
「ああ。そうだな。」
吉行は、そうは言ったものの、すぐに連絡しようとはしなかった。
「ありがとう。こてっちゃん、遅くなっちゃったな。」
「そんなこと、いいんだよ。」
「いいやつだな。」
吉行は、力なく笑った。きっと、もう眠りたいんだろう。
「じゃあ、明日、顔出すから、大人しく寝てろよ。」
「うん。」
吉行は、目を閉じてすぐに寝息をたてて眠った。その寝顔も綺麗だった。
夏休みが明けてから、もうこれで、3回目だ。虎徹は、同じ学部の女の子から、声をかけられる。
「うん。」
「陸奥くんって、今、彼女いるのかな?」
「いないと思うけど。」
そう答えると、たいていの女の子は、嬉しそうな顔をする。
「でも、好きな人がいるみたい。」
この言葉で、ガッカリして帰って行くか、吉行のバイト先まで押しかけて行くか。虎徹以外とは、深く関わらないようにしていたみたいだが、ルックスと、人あたりの良さで、モテるのだ。
『また、同じ学部の女の子から、吉行に彼女いないのかって、聞かれた。』
『わかった。』
女の子から、告白されることもあったみたいだが、吉行は、すべて断っていた。虎徹は、
「なんで、吉行ばっかりモテるんだよ。」
と、羨ましがると、
「こてっちゃんは、梨花ちゃんがいるじゃん。」
と、吉行が羨ましがる。
「でもさ、やっぱりモテてみたいよね。」
「はははっ。俺のどこがいいんだろうね。チビだし。」
「吉行って、何センチあんの?」
「168センチ。」
「そりゃ、チビだわ。やっぱ顔でモテるんじゃない?俺は、188センチだけど、モテたことない。」
そんなくだらない話をしていた時だった。目の前を杏奈が通り過ぎる。虎徹が、声をかけようとしたが、吉行が止めた。
「佐藤先輩、行っちゃうよ。」
「あれ…。」
吉行は、寂しそうに、杏奈が向かった先を見る。同じ学部の学生か、見ない顔だったので、上の学年か。がっしりした体つきの男と、並んで歩いて行くのが見えた。
「最近、付き合い始めたんだって。」
「そうなんだ。吉行は、いいのか?」
「いいよ。杏奈さんの選んだ人だから、応援したい。」
そうは言っても、やっぱり元気のない吉行を見て、虎徹は、何もしてやれないもどかしさを感じていた。
「飲みに行くか。」
「ありがとう。でも、バイトなんだ。」
「なんだよ。」
「こてっちゃんも、サークルじゃなかった?」
「そうだった。」
「なんだよ。」
寂しそうに笑う吉行の横顔は、なぜかいつも以上に、綺麗に見えた。
翌日、吉行は、珍しく学校に来なかった。体調が悪いと、連絡があり、講義のノートを今度貸して欲しいとのことだった。虎徹は、夕方、バイトの前に、吉行のアパートに寄って行くことにした。
部屋の前に着くと、声が聞こえて来た。窓が少し開いている。女性の声だった。
「気持ちはありがたいけど、彼氏がいるんだし、ひとりで、男の部屋に来るのは、よくないよ。」
「でも、高校の時からの仲じゃない。心配だよ。バイトばっかりだし、タバコもやめなよ。」
「やめない。」
「吉行。もっと体、大事にして。」
「杏奈には関係ない。もう、ほっといて。」
「吉行。」
「ごめん。ちょっと寝たいから、帰ってくれる?」
パタパタと、部屋の中を歩く音がした。虎徹は、もと来た道を戻った。吉行の顔を見る勇気がなかった。
虎徹は、バイトが終わると、もう一度、吉行の部屋を訪ねた。部屋の明かりは、ついていなかった。
インターホンを押す。だいぶ時間が経ってから、のっそりと吉行が現れた。いつにも増して、青白い顔をしている。
「あぁ、こてっちゃん。」
「よぉ。ひどい顔色だな。」
「巷じゃ、このぐらいが一番モテるんだよ。」
「冗談言えるぐらいなら、大丈夫そうだな。」
「上がってけよ。」
「おう。」
吉行は、フラフラしながら、冷蔵庫を開けた。レモンの砂糖漬けや、フルーツゼリーなんかがはいっていた。さっき、杏奈が来た時に、置いて行ったのだろう。鍋に、お粥が作ってあった。吉行は、手をつけていないようだった。
「風邪?」
「うーん。たぶん、病院行ってないから、分かんない。明日には治るよ。」
虎徹は、今日の講義のノートと、スポーツドリンクを渡した。
「ありがとう。助かるよ。」
吉行が、タバコを吸おうとするから、虎徹は、止めた。
「体調悪い時ぐらい、やめとけって。」
「あぁ、そうか。」
吉行は、素直に従った。
「こてっちゃん、いくらモテてもさ、本当に、この人だって思う人とじゃなきゃ、意味ないよね。」
「どうした?」
「分かってるつもりだったんだ。杏奈に彼氏ができたら、どうなるか。でも、思った以上に辛いね。」
吉行は、ゼェゼェと、肩で息をしていた。顔が真っ赤だった。
「ちょっと、吉行、大丈夫か?」
虎徹が吉行の額に手を当てると、かなり熱かった。体中が熱い。これは、風邪じゃない。
「吉行、病院行こう。タクシー呼ぶから。」
「いいよ。俺、金ないし。」
「そんなこと言ってる場合じゃねぇよ。」
虎徹は、すぐにタクシーで吉行を救急外来に連れて行った。吉行は、意識が朦朧としていた。
「インフルエンザですね。肺炎になりかけてる。」
診察してくれた医師にそう告げられ、虎徹は、驚いた。
「こんな時期にですか?まだ10月上旬なのに。」
「まぁ、たまにあるんですよ。あなたは、お友達ですか?ご家族の方は?」
「えっと、彼、一人暮らしで…。」
「うーん。そうですか。ひとりだときついかなぁ。3.4日入院しましょうか?食事とか大変でしょうし、ちょっと、症状も辛そうだから。」
「は…はい。」
(って、俺が返事していいんだろうか?確かに、あの部屋にひとりにしとくのは、危ないなぁ。)
すぐに、病室に移された吉行に、
「吉行、入院だってよ。」
「うん。」
「日頃の不摂生がたたったんだぞ。」
「うん。」
吉行は、聞いてるのか、聞いていないのか、よく分からない返事をした。
「家族に連絡するか?」
「しなくていいよ。」
「お兄さんいるんだろ?お兄さんにしたら?」
「ああ。そうだな。」
吉行は、そうは言ったものの、すぐに連絡しようとはしなかった。
「ありがとう。こてっちゃん、遅くなっちゃったな。」
「そんなこと、いいんだよ。」
「いいやつだな。」
吉行は、力なく笑った。きっと、もう眠りたいんだろう。
「じゃあ、明日、顔出すから、大人しく寝てろよ。」
「うん。」
吉行は、目を閉じてすぐに寝息をたてて眠った。その寝顔も綺麗だった。
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