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37:彼女の腹違いの姉が欲しがるはず

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 プランB。
 原作通りにベンジャミン皇子と婚約破棄をする。

 本当は円満破棄をしたいけれど、婚約を破棄するのに円満おクソもないわよね。
 正直、スパーっとこっちから婚約破棄を持ち掛けたいけど、それもダメ。
 
 皇太子の婚約者選抜を受けた理由が、実家の借金返済のためだと知られればカイチェスター家の爵位が剥奪されかねない。
 知られなかったとしても、皇族との婚約なのよ。こっちから破棄を申し出れば、それだけでも爵位剥奪の危険はあるわ。
 
 だけど一つだけ可能性があるとすれば……ベンジャミン皇子の不義を理由に婚約の解消を持ちかけること。

 惚れっぽい性格の皇子だし、それは難しくはない……ハズ。
 でもその相手はエリーシャであり、彼女と皇子の仲を理由に婚約破棄を申し出れば、きっともう……友達ではいられなくなってしまうわよ……ね。
 
 あくまで原作通りに進めば、だけど。
 それに、原作通りなら皇子の方から婚約破棄を言い渡してくる訳だし、そうなる前にこっちから……。

「ルシアナ様、元気がないようですが、どこかお加減が悪いのですか?」
「あ、ううん。なんでもないわエリーシャさん」

 今日は我が家にエリーシャを招いて、二人女子会を開いてた。
 話題は魔法のこととか、お菓子のこととか、それから──

「皇太子殿下のお誕生日に、まさか私もご招待されるなんて思ってもみませんでした」

 そう。数日後に開催されるベンジャミン皇子の、二十五歳の誕生日を祝うパーティーの話題。
 私が婚約破棄を言い渡される、悪役令嬢最大のイベントだ。

「皇子皇女のお誕生日には、未婚の令息令嬢が招かれるものなの。皇帝皇后のお誕生日には、爵位を持つそれぞれの家の主が招かれるわ。特に意味はないのよ」
「そう、なんですか」
「まぁ皇子皇女のお誕生日パーティーは、一種の未婚の令息令嬢たちの出会いの場にもなってるようだけどね」
「出会いの!?」

 エリーシャったら、顔を真っ赤にしちゃって。
 初心ねぇ。

「そうそう、実はね、お父さまの事業が少し前まで上手くいってなくって」
「え? ルシアナ様のお父さまの?」
「うん。それでさ、実はそれって、呪いのアイテムのせいだったの」
「呪い……えぇ!?」
「あ、エリーシャさんが魔法に覚醒したあの日よ。あの時にね、呪いの解呪をお願いしに行ってたの」

 呪いを解いた効果は、意外と直ぐに現れた。
 先日、落盤続きだった鉱山で、また落盤が発生。
 これまでと違うのは、落盤が起きた場所に新しい鉱脈が見つかったこと。

「これで傾いていた事業も、なんとかなりそうだってお父さまが」
「まぁ、よかったですねルシアナ様」
「うん。これで肩の荷が一つ下りたわ」

 もう一つ、ものすっごく重い荷があるんだけどさ。
 それのことを考えると、今から気がめいっちゃう。
 でも……私が不幸にならないために、そして侯爵家が没落しないためにやるしかない。

「あのねエリーシャ」
「はい」
「これ」

 そう言ってテーブルの脇に置いていた木箱を手元に寄せた。
 木箱を開けて、エリーシャへと差し出す。
 中身はエメラルドのネックレスとイヤリング。

「あの、これは?」
「うん。これ、エリーシャに使って欲しくて」
「えぇ!? ど、どど、どうしてですか」

 木箱はもう一つ。それも開けて見せた。

「同じ、もの?」
「えぇ。そっちのは私が使っていたもので、こっちは亡くなったお母さまのものなの」
「親子でペアのものを?」
「そう。私はお母さまのものを使いたいの。だから、ね。それはエリーシャに使って欲しくて」

 エリーシャならきっと似合うはず。
 でも、これは彼女を苦しめるための道具になるかもしれない。
 ならない可能性を祈ってるけれど。

「今度のベンジャミン皇太子殿下のお誕生日パーティーで、それを付けて欲しいの。どう?」
「これを……私が」
「ね、いいでしょ?」
「ルシアナ様が……そうおっしゃるなら」
「よかった。私ひとりでこれを交互に着けるのも、おかしいでしょ? ふふ」

 これを持ち帰ればきっと、彼女の腹違いの姉が欲しがるはず。
 パーティーでこれを着けるのが彼女なのか、それとも姉のほうなのか……。
 前者だといいなと思いながら、今日の茶会が終わった。
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