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「ではこちらの物件は、白薔薇の殿方が金貨12.500枚での落札となります」
オークション会場ではみなさんに、それぞれ異なる花を胸に刺して頂いた。
この時点では、私もいったい誰が落札者なのかは分からない。
落札してくださった方には別室に移動して貰い、他の方にはご挨拶をし、お土産をお持ちいただいて帰って頂く。
もちろん、他に売却予定の別荘の事を伝えて。
それとは別に、ある方にも残って頂いた。
最後までロジックの絵を、ずっと眺めていらした方に。
まずは白薔薇の殿方っと。
「まずは御落札、ありがとうございます」
「いやいや、素晴らしい買い物をさせて頂いたよルシアナ令嬢」
そう言って仮面を外す。
「まぁ、シュトアック侯爵様でしたか」
「おや、仮面を外すまで、お気づきではなかったですかな?」
「ふふ。その為の仮面でもありますので。それに侯爵様、以前お見掛けした時と、髪型をお変えになられていますよね?」
「はっはっは。どうせならと思ってね」
ほらぁ、髪型でも区別できないように、気合いてれるじゃなぁい。
確かにねぇ、何人かは髪型で「きっとあの方だ」と分かるぐらいの人もいたのよ。
でもシュトアック侯爵は分からなかったわ。
「侯爵様、こちらは土地、そして建物な内装品の権利書になります。いくつかは鑑定書もございますので、ご確認ください」
美術品には鑑定書がついたものもいくつかある。そのせいで書類の数が多い。
それらを全て確認して頂くと、あとはサインをして貰うだけに。
「それとこちらなのですが……」
と、追加の書類をもう一枚出す。
「あぁ、分かっているよ。この屋敷で働いている使用人を、そのまま雇用してくれというものだろう」
「はい。どうか、よろしくお願いいたします」
「もちろんだとも。わざわざ新しく雇用する方が、面倒だからね。それにこの人数だと、必要最小限といったところか。問題はない」
「ありがとうございます」
これで彼らを路頭に迷わせることもない。よかったわ。
もろもろのサインを頂いた後、ついにお金の話に──
「金のほうはカイチェスター家の銀行口座に振り込むべきかな? それとも屋敷のほうに?」
「いいえ、お金は頂きません」
「……は?」
侯爵が驚いた顔をする。
もとより、落札したお相手によってお金を頂くかどうかは決めていたの。
そしてシュトアック侯爵からは──頂かない。
「正確には、我が家がシュトアック侯爵様よりお借りしている金子。その代わりだとお考え下さい」
「ふむ、なるほど。いや、もしやその為に別荘を売りに出しているのではとは思っていたのだ」
「これまで多大なご支援を頂き、まことにありがとうございます。金子でお返し出来ないこと、お詫び申し上げます」
「いやいや。この別荘の代金は、私がカイチェスター侯爵にお貸しした金額より、僅かだが多いはずだ。差額は──」
「いいえ。ご迷惑をお掛けした分だと思って、そのままお受け取りください」
ここは誠意を見せるべきところ。今後も父や、いつか爵位を受け継ぐクリフとも、いいお付き合いをして頂きたいもの。
暫くお互いに「差額を払う」「いりません」と譲らず、でもこれは社交辞令。
シュトアック侯爵が最後は折れた。
ふぅ、これで借金が一つ消えたわ。
さて次ね。
侯爵を見送った後、お待たせしているもうひとりの方の下へと急ぐ。
けれど、その前に廊下でぽつーんと佇む人影を見た。
つま先から頭の上まで真っ黒。仮面の色まで真っ黒。
「真っ黒くろすけさん、どうなさったのですか?」
ちなみに胸ポケットに刺した花は、赤紫色のアスターという花。
残念ながら黒い花はなかったから、きっと仕方なく選んだのね。
「まっくろ……ん?」
「あぁ、気になさらないで」
真っ黒くろすけなんて、この世界の人が知ってる訳ないもの。
オークション会場ではみなさんに、それぞれ異なる花を胸に刺して頂いた。
この時点では、私もいったい誰が落札者なのかは分からない。
落札してくださった方には別室に移動して貰い、他の方にはご挨拶をし、お土産をお持ちいただいて帰って頂く。
もちろん、他に売却予定の別荘の事を伝えて。
それとは別に、ある方にも残って頂いた。
最後までロジックの絵を、ずっと眺めていらした方に。
まずは白薔薇の殿方っと。
「まずは御落札、ありがとうございます」
「いやいや、素晴らしい買い物をさせて頂いたよルシアナ令嬢」
そう言って仮面を外す。
「まぁ、シュトアック侯爵様でしたか」
「おや、仮面を外すまで、お気づきではなかったですかな?」
「ふふ。その為の仮面でもありますので。それに侯爵様、以前お見掛けした時と、髪型をお変えになられていますよね?」
「はっはっは。どうせならと思ってね」
ほらぁ、髪型でも区別できないように、気合いてれるじゃなぁい。
確かにねぇ、何人かは髪型で「きっとあの方だ」と分かるぐらいの人もいたのよ。
でもシュトアック侯爵は分からなかったわ。
「侯爵様、こちらは土地、そして建物な内装品の権利書になります。いくつかは鑑定書もございますので、ご確認ください」
美術品には鑑定書がついたものもいくつかある。そのせいで書類の数が多い。
それらを全て確認して頂くと、あとはサインをして貰うだけに。
「それとこちらなのですが……」
と、追加の書類をもう一枚出す。
「あぁ、分かっているよ。この屋敷で働いている使用人を、そのまま雇用してくれというものだろう」
「はい。どうか、よろしくお願いいたします」
「もちろんだとも。わざわざ新しく雇用する方が、面倒だからね。それにこの人数だと、必要最小限といったところか。問題はない」
「ありがとうございます」
これで彼らを路頭に迷わせることもない。よかったわ。
もろもろのサインを頂いた後、ついにお金の話に──
「金のほうはカイチェスター家の銀行口座に振り込むべきかな? それとも屋敷のほうに?」
「いいえ、お金は頂きません」
「……は?」
侯爵が驚いた顔をする。
もとより、落札したお相手によってお金を頂くかどうかは決めていたの。
そしてシュトアック侯爵からは──頂かない。
「正確には、我が家がシュトアック侯爵様よりお借りしている金子。その代わりだとお考え下さい」
「ふむ、なるほど。いや、もしやその為に別荘を売りに出しているのではとは思っていたのだ」
「これまで多大なご支援を頂き、まことにありがとうございます。金子でお返し出来ないこと、お詫び申し上げます」
「いやいや。この別荘の代金は、私がカイチェスター侯爵にお貸しした金額より、僅かだが多いはずだ。差額は──」
「いいえ。ご迷惑をお掛けした分だと思って、そのままお受け取りください」
ここは誠意を見せるべきところ。今後も父や、いつか爵位を受け継ぐクリフとも、いいお付き合いをして頂きたいもの。
暫くお互いに「差額を払う」「いりません」と譲らず、でもこれは社交辞令。
シュトアック侯爵が最後は折れた。
ふぅ、これで借金が一つ消えたわ。
さて次ね。
侯爵を見送った後、お待たせしているもうひとりの方の下へと急ぐ。
けれど、その前に廊下でぽつーんと佇む人影を見た。
つま先から頭の上まで真っ黒。仮面の色まで真っ黒。
「真っ黒くろすけさん、どうなさったのですか?」
ちなみに胸ポケットに刺した花は、赤紫色のアスターという花。
残念ながら黒い花はなかったから、きっと仕方なく選んだのね。
「まっくろ……ん?」
「あぁ、気になさらないで」
真っ黒くろすけなんて、この世界の人が知ってる訳ないもの。
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