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33:グ、グレ……いえ、やっぱりいいです
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別荘オークション当日。
今回は帝都にある二つの別荘のうちの一つだけ。
これが上手くいくかどうかで、残りの別荘をどうするか考えることにしている。
私やカイチェスター家の使用人以外は、自前で用意して貰った仮面を着けて貰うことにしているんだけど……。
馬車から降りてくる方々は、見事に全員、仮面を装着していた。
くふふ。ちょっと面白い。
「ようこそお越しくださいました。広間にみなさまお集まり頂いておりますので、そちらへご案内させていただ──ぶっ」
「……おい」
馬車から下りて来たのは、つま先から頭まで全身黒づくめの男性。
着用している仮面まで黒いなんて……。
目元はサングラスようになってて、瞳の色までは分からない。
だけど分かる。
「グ、グレ……いえ、やっぱりいいです」
「んなっ。なぜ」
分からないとでもお思いか。
それに、その反応でグレン卿確定じゃない。
だけど参加者リストにグレン卿の名前はなかったはず。
飛び入り?
じぃーっと見ていると、彼がそっぽを向いてぼそりと呟いた。
「リュグライド公爵の……代理」
「あぁ、なるほど。そういえば公爵のお名前はありましたねって、何故分かったんですか? あなたがここにいるの、どうしてだろうって考えていたこと」
「……なんとなく」
なんとなくか。
まぁいいけど。
彼を広間に案内して、これで参加者が全員揃ったわね。
「お集りのみなさま、本日はオークションへのご参加、ありがとうございます。ここで長々ご説明するよりも、邸宅内をご案内しつつお話させて頂こうと思いますがよろしいでしょうか?」
意義を唱える方はおらず、頷く人ばかりだった。
ご夫婦でお越しの方もいれば、おひとりの方もいらっしゃる。
ご年配のかたもいるし、時々休憩を挟まなくちゃね。
私の鑑定眼の結果を交えつつ、絵画や家具の説明もしていく。
「ちなみに、邸宅内のものを一通り鑑定すると、お恥ずかしながら数点ほど偽物がございました」
「お買い求めになるときに、鑑定書はご覧にならなかったのですか?」
「買ったのはお父さまですが、その鑑定書も偽物でした。四年前に購入したものですので、私の鑑定能力も覚醒前でしたし」
しおらしくそう言うと、集まった列席者からも同情する声が上がる。
ふふ。さぁ、ここからよ。
「ですが、邸宅以外でしたら、実はその偽物が今回の目玉となっております」
「偽物が? ご令嬢、まさか偽物と分かっていて我らに売りつけようというのでは」
「はい。その通りでございます」
私はニッコリ微笑んで、みなさんを見渡した。
目が見える仕様の仮面と、そうでない仮面とがあるけど、みなさん驚いているみたい。
中にはちょっとだけ不快感を表している方もいる。
「その偽物というのがこちらの絵画になります」
階段を上った踊り場に、バーンっと飾った絵画の前でそれを紹介する。
花が咲き乱れる庭園に舞い降りてきた天使──を描いた、有名な画家の絵。
「ゴッゴの絵画でございますが、実際の画家は──」
ここで溜める。この溜めが大事なのよ。
こほんと咳ばらいをして、それから全員を見渡してから画家の名を口にする。
「ロジック」
──と。
その名を口にした瞬間、列席者の八割ほどの方がざわつき始めた。
グレン卿は……興味なさそうね。
「この絵を鑑定したところ、ゴッゴの『庭園に舞い降りた天使』の贋作だと分かりました。そして実際に描いた画家の名前がロジックだということもです」
「そ、それは、ご令嬢の言葉を信じるしか証拠が……」
「ご安心ください。帝都の有名画廊の店主による、鑑定書付きです」
鑑定スキルではなく、肥えた目と経験による鑑定だ。
その鑑定書を取り出し、実際にみなさまへお見せする。
再びざわつく。
「ロジックの素晴らしさは、残念ながら彼の死後になってから認められるようになりました。
その彼は若い頃、生活費を工面するために贋作依頼を請け負っていたことをご存じの方もいらっしゃるのでは?」
そう言うと、頷く方が数名いた。
「この絵画は贋作です。しかし描いた画家は、今らオリジナルのゴッゴを凌ぐほどの人気画家となっております。
この絵画も合わせて、入札金額をお考えくださると有難く存じます」
「その絵画だけ買い取らせていただくことは出来ないのですか!?」
そう言われることも想定済み。
だけどそれは出来ない。何故なら──
「みなさま、二階にお上がりください。そうすれば、この絵画込みだという理由が分かります」
みなさんを案内して二階へと上がる。上がった先にはバルコニーがあって、そこから見える庭園こそが、
「あの絵画の舞台となる、庭園なのです」
感嘆する声が上がった。
好感触だわ。
「確かにこれでは……」
「別荘と絵画、分ける訳にはいきますまい」
「ふふ。ご理解頂けてよかったですわ。それでは別のお部屋もお見せいたしますので、どうぞこちらに」
ぐるりと別荘を一周したのちは、大広間でオークションを開始した。
今回は帝都にある二つの別荘のうちの一つだけ。
これが上手くいくかどうかで、残りの別荘をどうするか考えることにしている。
私やカイチェスター家の使用人以外は、自前で用意して貰った仮面を着けて貰うことにしているんだけど……。
馬車から降りてくる方々は、見事に全員、仮面を装着していた。
くふふ。ちょっと面白い。
「ようこそお越しくださいました。広間にみなさまお集まり頂いておりますので、そちらへご案内させていただ──ぶっ」
「……おい」
馬車から下りて来たのは、つま先から頭まで全身黒づくめの男性。
着用している仮面まで黒いなんて……。
目元はサングラスようになってて、瞳の色までは分からない。
だけど分かる。
「グ、グレ……いえ、やっぱりいいです」
「んなっ。なぜ」
分からないとでもお思いか。
それに、その反応でグレン卿確定じゃない。
だけど参加者リストにグレン卿の名前はなかったはず。
飛び入り?
じぃーっと見ていると、彼がそっぽを向いてぼそりと呟いた。
「リュグライド公爵の……代理」
「あぁ、なるほど。そういえば公爵のお名前はありましたねって、何故分かったんですか? あなたがここにいるの、どうしてだろうって考えていたこと」
「……なんとなく」
なんとなくか。
まぁいいけど。
彼を広間に案内して、これで参加者が全員揃ったわね。
「お集りのみなさま、本日はオークションへのご参加、ありがとうございます。ここで長々ご説明するよりも、邸宅内をご案内しつつお話させて頂こうと思いますがよろしいでしょうか?」
意義を唱える方はおらず、頷く人ばかりだった。
ご夫婦でお越しの方もいれば、おひとりの方もいらっしゃる。
ご年配のかたもいるし、時々休憩を挟まなくちゃね。
私の鑑定眼の結果を交えつつ、絵画や家具の説明もしていく。
「ちなみに、邸宅内のものを一通り鑑定すると、お恥ずかしながら数点ほど偽物がございました」
「お買い求めになるときに、鑑定書はご覧にならなかったのですか?」
「買ったのはお父さまですが、その鑑定書も偽物でした。四年前に購入したものですので、私の鑑定能力も覚醒前でしたし」
しおらしくそう言うと、集まった列席者からも同情する声が上がる。
ふふ。さぁ、ここからよ。
「ですが、邸宅以外でしたら、実はその偽物が今回の目玉となっております」
「偽物が? ご令嬢、まさか偽物と分かっていて我らに売りつけようというのでは」
「はい。その通りでございます」
私はニッコリ微笑んで、みなさんを見渡した。
目が見える仕様の仮面と、そうでない仮面とがあるけど、みなさん驚いているみたい。
中にはちょっとだけ不快感を表している方もいる。
「その偽物というのがこちらの絵画になります」
階段を上った踊り場に、バーンっと飾った絵画の前でそれを紹介する。
花が咲き乱れる庭園に舞い降りてきた天使──を描いた、有名な画家の絵。
「ゴッゴの絵画でございますが、実際の画家は──」
ここで溜める。この溜めが大事なのよ。
こほんと咳ばらいをして、それから全員を見渡してから画家の名を口にする。
「ロジック」
──と。
その名を口にした瞬間、列席者の八割ほどの方がざわつき始めた。
グレン卿は……興味なさそうね。
「この絵を鑑定したところ、ゴッゴの『庭園に舞い降りた天使』の贋作だと分かりました。そして実際に描いた画家の名前がロジックだということもです」
「そ、それは、ご令嬢の言葉を信じるしか証拠が……」
「ご安心ください。帝都の有名画廊の店主による、鑑定書付きです」
鑑定スキルではなく、肥えた目と経験による鑑定だ。
その鑑定書を取り出し、実際にみなさまへお見せする。
再びざわつく。
「ロジックの素晴らしさは、残念ながら彼の死後になってから認められるようになりました。
その彼は若い頃、生活費を工面するために贋作依頼を請け負っていたことをご存じの方もいらっしゃるのでは?」
そう言うと、頷く方が数名いた。
「この絵画は贋作です。しかし描いた画家は、今らオリジナルのゴッゴを凌ぐほどの人気画家となっております。
この絵画も合わせて、入札金額をお考えくださると有難く存じます」
「その絵画だけ買い取らせていただくことは出来ないのですか!?」
そう言われることも想定済み。
だけどそれは出来ない。何故なら──
「みなさま、二階にお上がりください。そうすれば、この絵画込みだという理由が分かります」
みなさんを案内して二階へと上がる。上がった先にはバルコニーがあって、そこから見える庭園こそが、
「あの絵画の舞台となる、庭園なのです」
感嘆する声が上がった。
好感触だわ。
「確かにこれでは……」
「別荘と絵画、分ける訳にはいきますまい」
「ふふ。ご理解頂けてよかったですわ。それでは別のお部屋もお見せいたしますので、どうぞこちらに」
ぐるりと別荘を一周したのちは、大広間でオークションを開始した。
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