上 下
20 / 54

20:甘いものを食べても太らない

しおりを挟む
「俺の手は、人より冷たいとよく言われる」

 そう言って彼は手袋を外して、私の頬に触れた。
 確かにひんやりとして、んん~、気持ちいいぃ。
 きもち……

「ひゃい!?」

 すりすりしていた顔を仰け反らせ、慌てて立ち上がる──と、立ち眩み。

「おい」

 ガシっと掴まれた肩が、ひんやりする。
 そのままソファーに押し付けられ、また座った。

「立つな」
「ひゃ……ひゃい」
「ぷっ。お嬢様、おかしなお返事ですわ」

 うるさいっ、今からかわないで!

「ルシアナ様、大丈夫ですか?」
「う、うん。魔力切れ、初めてだったからちょっとビックリしただけ。エリーシャさんも気を付けて。凄く、すっごく、目が回るから」
「ルシアナ様ぁ」

 目が回ってるせいで、男の人の手に頬ずりしちゃうし。
 絶対ヤバいって。

「俺の手は──」
「あぁ、いいです。つ、冷たくて気持ちいいですけど、でもいいですっ」
「なぜ?」

 首を傾げる黒助さんに「恥ずかしいからっ」とズバっと言い放つ。
 暫く考えたのか、やや間があって彼の顔がほんのり赤くなった。
 ちっ。お前も恥ずかしいのかよ。てやんでぇ。

 目だけじゃなく、頭もぐわんぐわん回ってる。目を閉じておこう。
 うぅ、これどのくらいで回復するんだろう。

「ルシアナお嬢様、大丈夫ですか?」
「アッシュ? あぁ、あのね、この魔力切れの症状って、どのくらい続くものなの?」
「そ、それは……人によってさまざまですので。寝て休まれるのが、一番楽なのですが」

 そう言われても、さすがにここで寝る訳にはいかない。

「治る条件って?」
「魔力がある程度回復することです」

 あぁ、だから寝るのか。
 困ったなぁ。

「おい」

 どうして謎の黒い人の第一声は、「おい」から始まるのだろう。

「なんですか?」
「これを嵌めろ」
「これ?」

 閉じていた目を開くと、彼の手に赤紫色の指輪があった。
 指輪を……はめろ?

 そのまま彼は有無を言わさず、私の左手を取って指輪を──はめようとして固まった。
 あ、中指にはめたのね。
 もしかして一応、薬指はマズいなとか思ったのだろうか。彼の顔が少し赤い。さっきのが継続中なだけ?

 しかしこれ、たぶん彼のものなんだろうな。中指にはめたのに、すっかすかだわ。

「あの、これは?」
「……魔力を蓄える、アーティファクトだ」
「アーティファクト……わぁお! 私、始めて見ました」
「俺の魔力を、常に貯えてある」
「そうなのですか」

 で、これを私にはめた理由は?

「アーティファクトに蓄えられた魔力が、少しずつ解放されているのですね?」
「そうだ」

 アッシュ卿には分かったようで、その解放されている魔力が私の中にすこーしだけ吸収されているようだと教えてくれた。
 魔力の回復を助ける、ため?

「ルシアナ様、飲み物をお持ちしました」
「司祭様」

 司祭様と神官さんがやって来て、なにやらいろいろ持って来たようだ。

 謎の黒い人、が魔法でグラスの中に氷を浮かべる。
 氷魔法、いいなぁ。うちの騎士団に氷魔法使える人いないのかしら。

「どうぞルシアナ様。それを甘い菓子をお持ちしました。疲れた時には甘いものがよいのですよ」
「魔力切れにもいいのですか?」
「そう言われております。魔力の消耗も、体力の消耗と同じだからと」

 確かに受験勉強の時とか、チョコを食べてからのほうが効率がいいって聞くもんね。

「魔法を使える神官たちも、よく合間に菓子をつまんでおります。太らないから安心だとか言って」
「「えぇ!?」」

 私とエリーシャ、そしてローラが食いついた。
 魔力を消費させつつお菓子を食べれば、太らないの!?

 運ばれてきたのはクッキーで、それを一口齧ると心が満たされる気分になる。
 
 太らない。
 甘いものを食べても太らない。

「あ、えぇっと……検証はしておりませんので……」
「エリーシャさんもどうぞ!」
「はい、ルシアナ様!」

 パクパクとクッキーを食べ、あっという間に二人で平らげてしまった。
 ちょっとお行儀が悪かったかな?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

国外追放されたので野良ヒーラーをはじめたら勧誘がすごいです【完結】

赤藤杏子
恋愛
いきすぎた嫌がらせの末の殺人未遂により国外追放されたアンジェリカは、根元愛珠(ネモトアンジュ)の魂を迎えて蘇り、回復支援魔法を得意とする白魔道士の力を得た。 罪人である自分を恥じ、仲間を作らずに生きてきたアンジェリカだが、白魔道士としての才能溢れる彼女を周囲は放っておかない。 それを知った彼女の被害者であるモーリーンは当然それを良しとはせず……。 ──── 2024.1.13 完結 表紙絵使用アプリ→Meitu ※自分で描いたラフ絵を素材にしています 素敵なロゴを制作してくれたパインさん、ありがとうございました♡ エブリスタでも同名でアップしております。

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

申し訳ないけど、悪役令嬢から足を洗らわせてもらうよ!

甘寧
恋愛
この世界が小説の世界だと気づいたのは、5歳の頃だった。 その日、二つ年上の兄と水遊びをしていて、足を滑らせ溺れた。 その拍子に前世の記憶が凄まじい勢いで頭に入ってきた。 前世の私は東雲菜知という名の、極道だった。 父親の後を継ぎ、東雲組の頭として奮闘していたところ、組同士の抗争に巻き込まれ32年の生涯を終えた。 そしてここは、その当時読んでいた小説「愛は貴方のために~カナリヤが望む愛のカタチ~」の世界らしい。 組の頭が恋愛小説を読んでるなんてバレないよう、コソコソ隠れて読んだものだ。 この小説の中のミレーナは、とんだ悪役令嬢で学園に入学すると、皆に好かれているヒロインのカナリヤを妬み、とことん虐め、傷ものにさせようと刺客を送り込むなど、非道の限りを尽くし断罪され死刑にされる。 その悪役令嬢、ミレーナ・セルヴィロが今の私だ。 ──カタギの人間に手を出しちゃ、いけないねぇ。 昔の記憶が戻った以上、原作のようにはさせない。 原作を無理やり変えるんだ、もしかしたらヒロインがハッピーエンドにならないかもしれない。 それでも、私は悪役令嬢から足を洗う。 小説家になろうでも連載してます。 ※短編予定でしたが、長編に変更します。

勇者アレクはリザ姫がお好き ~わたくし、姫は姫でもトロルの姫でございますのに~

ハマハマ
恋愛
 魔王を倒した勇者アレクはリザ姫に恋をしました。  アレクは姫に想いを告げます。 「貴方のその長く美しい紅髪! 紅髪によく映える肌理細かな緑色の肌! 僕の倍はありそうな肩幅! なんでも噛み砕けそうな逞しい顎! 力強い筋肉! その全てが愛おしい!」  そう。  彼女は筋肉《バルク》たっぷり、なんと姫は姫でもトロルの姫だったのでございます。 ◇◆◇◆◇ R3.9.18完結致しました! R3.9.26、番外編も済んでホントに完結!

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています

平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。 生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。 絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。 しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?

転生領主の辺境開拓~転移魔法で屋敷を追放されましたが、自由にスキルリセット出来る『リカバリー』で案外元気に暮らしています~

夢・風魔
ファンタジー
転生者であるディオンは、同じく転生者だった祖父から「スキルポイント」を受け継いだ。 そして祖父の死後、後夫であり婿養子である義父によって、ディオンは辺境の砦へと魔法で飛ばされてしまった。 険しい山奥の砦で帰り道も分からず、とにかく砦の中へと入ると──そこにはハーフエルフの少女が暮らしていた。 ディオンはハーフエルフの少女セリスと協力し、これから訪れる雪の季節に備え食料調達に励む。 転生者特典である自由にスキルを獲得出来るポイントは、祖父から大量に貰ってある。 更にディオンの転生者特典のユニークスキルは、八時間以内に獲得したスキルであれば 何度でもリセットが可能という『リカバリー』。 転生者特典をフル活用して、過酷な環境もぬるぬる開拓!

処理中です...