上 下
39 / 42

39:お尻マッサージ

しおりを挟む
『優しい英雄の物語』
 英雄は困っている人のために、毎日モンスターと戦った。
 ある日英雄は、人の言葉を話すモンスターと出会う。
 みんなは言葉を話すモンスターを気味悪がって、早く退治してくれと英雄に頼んだ。
 
 だけど英雄は──

「にゃ! 大きな街が見えてきたにゃよっ」

 やっと!
 やっとか!

 幌馬車じゃないから大丈夫だと思っていた。
 でも大丈夫じゃなかった。
 買った絵本を読んで気を紛らわそうとしたけど、長時間読んでいると気分が悪くなるし。
 結局この二日間で、冒頭の数ページしか読めていない。

 そして何が大丈夫じゃないかって言うと──

 お尻だ!!

「早く……早く到着してくれ!!」
「街についたらすぐに宿を取りましょう。もう私……」
「ルナも!? ルナもずっと我慢していたのか!?」
「くっ」

 彼女は顔を背けて頬を赤らめた。

「お尻が痛むのでしょう?」
「「ひゃっ!?」」
「おっと、驚かせてしまってすみません。どうやら旅慣れしていないご様子ですが、乗合馬車に乗る際には、クッションを持参なさったほうがよいですよ」
「ク、クッションですか?」

 後ろの座席に座っている男は、商人だって昨日言っていた。
 そのお尻には確かにクッションが敷かれていた。

「街に行ったら、あれ買いましょう」
「うん、そうしよう」

 そうこう話す間も馬車は着実に進み、俺たちの願いが叶ってレゾの町へと到着した。





「ここから歩きなんでしょ?」

 ベッドにうつ伏せになったルナがそう尋ねて来た。
 俺もうつ伏せだ。

「ブレンダの故郷ムジークの町は、小さくて乗合馬車が通ってないからね。早朝に出れば、ギリギリ夕方には到着するって聞いたんだけど」
「早朝かぁ……明日までに痛みが引くといいんだけど」

 まったく同じ気持ちだ。
 もちろんお尻の痛みのこと。

 宿に向かう途中、何としてでもクッションだけは買うんだと強く決意して雑貨屋には寄って来た。
 でもよく考えたらムジークの町で買っても良かったんだよな。
 ムジークの町で用を済ませたら、再び徒歩で別の町へと移動。そこから乗合馬車で次の町へ。
 コポトの故郷はまた小さな町で、再寄りの起きな町からは徒歩になる。

 馬車、徒歩、徒歩、馬車、徒歩。
 こういう流れだ。

「引くといいなぁ」
「いいわねぇ」

 お互いベッドにうつ伏せになって、大きなため息を吐いた。

「にゃびは痛くないのか?」
「平気にゃよ~。もみもみするにゃか?」
「え?」

 肉球? それって、効くのか?

「ちょ、ちょっとだけやってみてくれ」
「ん? どうしたのロイド」
「うん。にゃびが、ほあぁっ!」
「ちょ、変な声出さないでよ」

 痛い。でも気持ちいい?
 にゃびが肉球でお尻を揉み解し始めた。
 
「え、それスキルのアレ?」
「う、うんんんんー」
「だから変な声ださないでよっ」

 そう言われても……イタ気持ちいいんだよ。
 そうか。肉球もみもみは疲労回復だもんな。この痛みはお尻の疲労って訳か。

「お客さーん。凝ってるにゃよぉ」
「お前、そんなのどこで覚えてくるんだよ。ああぁぁ……そこそこ。はあぁぁ」
「もう、何やってるのよ二人とも」
「いや、これほんと効くって。ルナもあとでやって貰いなよ」

 段々とお尻の痛みも和らいできた。
 これなら今夜は無事に仰向けで寝れそうだな。

「にゃ、にゃびにお尻を触って貰うってことでしょ?」
「そりゃあ、もみも……」

 そう。お尻をもみもみして貰うんだ。
 ルナは女の子だし、恥ずかしいに決まってるか。

「ルナ。出発は明後日にしよう。明日一日ゆっくり休めば、痛みも治まるだろうし」
「この宿にもう一泊するってこと? でも……」
「お金の心配はいらないから」

 ルナはとにかく節約したがる。
 だけどお金は十分過ぎるほど持っているのだから、一日ぐらい、なんだったら一週間ぐらい泊まったって構わないんだ。
 
「んー……にゃび、私もお願い」
「ルナ、無理はしなくても」
「む、無理じゃないわっ。こ、この程度で宿に二泊するなんて、勿体ないだけよ」
「にゃー、もみもみするにゃー」

 なんでもみもみってスキル名なんだろうな……。

 スキル……

「あっ」
「ひゃうっ。ななな、なに?」
「あ、いやごめん。スタンピードのあとは疲れ切ってたし、落ち着く前にすぐ出発したから忘れてたんだけど」

 ステータスボード、地下八階で弄ってからずっと見ていなかった。
 スタンピート中に結構レベルも上がっていたし、チェックしておかなきゃな。
 あの時、勢いでスキルも取ってるし。

「ステータスボードをチェックするから、何か上げたいものがあったら言って」
「そういえばしばらく見ていなかったわね」
「おいにゃどうするかにゃ~」

 ステータスボードを開き、いくつレベルが上がっているのか確認する。
 ずっとプチ魔術師だったけど、記憶にあるのはレベル33だ。
 それが今は39になっていた。

 ルナとにゃびも、それぞれ5ずつ上がっている。

「ん? ルナの職業欄……あれ?」
「んー、どうしたのぉ。ぁふ……にゃび、そこ、そこぉ」

 ちょ。ルナだって変な声出してるじゃないか!?

「い、いや。君の職業欄のところに──」

 俺と同じような十字マークがついている。
 よく見るとにゃびにもだ!

 もしかして転職が可能になったのか!?
 
 
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~

夢・風魔
ファンタジー
大学へと登校中に事故に巻き込まれて溺死したタクミは輪廻転生を司る神より「EXPが1になる」という、ハズレボーナスを貰って異世界に転移した。 が、このボーナス。実は「獲得経験値が1になる」のと同時に、「次のLVupに必要な経験値も1になる」という代物だった。 それを知ったタクミは激弱モンスターでレベルを上げ、あっさりダンジョンを突破。地上に出たが、そこは小さな小さな小島だった。 漂流していた美少女魔族のルーシェを救出し、彼女を連れてダンジョン攻略に乗り出す。そしてボスモンスターを倒して得たのは「フィールドダンジョン生成」スキルだった。 生成ダンジョンでスローライフ。既存ダンジョンで異世界冒険。 タクミが第二の人生を謳歌する、そんな物語。 *カクヨム先行公開

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!(改訂版)

IXA
ファンタジー
凡そ三十年前、この世界は一変した。 世界各地に次々と現れた天を突く蒼の塔、それとほぼ同時期に発見されたのが、『ダンジョン』と呼ばれる奇妙な空間だ。 不気味で異質、しかしながらダンジョン内で手に入る資源は欲望を刺激し、ダンジョン内で戦い続ける『探索者』と呼ばれる職業すら生まれた。そしていつしか人類は拒否感を拭いきれずも、ダンジョンに依存する生活へ移行していく。 そんなある日、ちっぽけな少女が探索者協会の扉を叩いた。 諸事情により金欠な彼女が探索者となった時、世界の流れは大きく変わっていくこととなる…… 人との出会い、無数に折り重なる悪意、そして隠された真実と絶望。 夢見る少女の戦いの果て、ちっぽけな彼女は一体何を選ぶ? 絶望に、立ち向かえ。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜

夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。 不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。 その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。 彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。 異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!? *小説家になろうでも公開しております。

どこかで見たような異世界物語

PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。 飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。 互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。 これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。

無能スキルと言われ追放されたが実は防御無視の最強スキルだった

さくらはい
ファンタジー
 主人公の不動颯太は勇者としてクラスメイト達と共に異世界に召喚された。だが、【アスポート】という使えないスキルを獲得してしまったばかりに、一人だけ城を追放されてしまった。この【アスポート】は対象物を1mだけ瞬間移動させるという単純な効果を持つが、実はどんな物質でも一撃で破壊できる攻撃特化超火力スキルだったのだ―― 【不定期更新】 1話あたり2000~3000文字くらいで短めです。 性的な表現はありませんが、ややグロテスクな表現や過激な思想が含まれます。 良ければ感想ください。誤字脱字誤用報告も歓迎です。

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

処理中です...