上 下
50 / 50

完)元魔王は勇者

しおりを挟む
 ちょっとやり過ぎたかもしれない。
 というのも、この上は墓地だ。
 今のホーリー・バーストで墓地に暮らすアンデットが全て浄化してしまったからだ。
 罪なき亡者もいただろう。
 僕反省。

 あともう少し言うと、大聖堂周辺──もっち言うとこの国全土のアンデッドや彷徨える魂全てを浄化したかもしれない。
 なんとなくそんな気がする。

 アンデッドはこの国から消滅してしまうと、冒険者の方々にも迷惑をかけてしまうな。
 仕方がない。今度アンデッドが生息していた地に出向いて、疑似アンデッドを作ってやろう。

「ル、ルイン……な、なんなのよ今も。規格外なんてものじゃないでしょ……」
「ルイン様は……神のお使い?」
「ん? 僕がかい? いやいや、神なんて、あんなものと一緒にしないで欲しいな」

 今のお仕置きで地の底にいる狂気の女神は縮こまってしまったようだ。
 それでいい。
 念のため封印しておこうか。

「消滅させてやってもいいんだけど、それだと世界の均衡が崩れてしまう……歯がゆいけど、僕の本能がそれを知っているからね」
「ルインの本能?」
「ん。僕は──数百年前に滅ぼされた魔王、なんだ。僕の役目は光と闇のバランスを保つこと。そのために勇者の相手をさせられていたんだ」
「な、なにを言ってるのルイン」
「まぁ気にしないで。今の僕は魔王ではなく、ルイン・アルファートだから」

 粛々と女神を封印する魔法陣を作成していく。
 僕の血をもって。

 時折地面が小さく震えるように揺れるのは、恐怖によるものだろうか?

「さぁ。地の底で眠れ。どうせだから地獄の一歩手前でね。ふふ、ふふふふふふふふ」

 異界の門の直前に女神の魂を追いやり、そこで封印っと。

「ひぃっ。女神ロザンヌ様がっ」
「マリアロゼ。僕のスローライフ計画を邪魔したね」
「ひっ。ル、ルイン様……」
「ロザンヌもひとりでは寂しいだろうし、話し相手になってやるといい」

 青ざめるマリアロゼの額に、ロザンヌを封印したのと同じ魔法陣を押し当てた。
 その瞬間、マリアロゼが倒れる。
 魂を抜いて、それだけをロザンヌの下へ届けたからだ。

「さて。じゃあ帰ろうか。ギルドにも報告しなきゃならないが、まずは風呂に入りたいな。ここはかび臭くていけない」

 二人の手を掴み、空間転移の魔法を唱えた。





 スローライフ計画は着々と進行──していない。
 どうしてこうなったのか。

 僕は今、オークの群れを相手にしている。
 いや、させられている。

「勇者さま! 来ましたぜっ」
「僕は勇者じゃない」

 憤然として地を蹴ると、周りの冒険者たちが肩を竦めた。

「あぁ、そういや勇者って呼ばれるのが嫌いでしたっけ?」
「でも仕方ないですよ。ルインさまは光の勇者なんですから」
「ぐぬぬぬ」

 ロザンヌの一件以来、何故か僕は勇者と呼ばれるようになった。
 
 幼馴染が聖女。
 これがイケナナ。とてもイケナイ。
 
 さらにフィリアが聖女に選ばれる直前に、光の神アポロノスが近々勇者が出現すると信託を下したって言うから余計にイケナイ。

 勇者の存在のせいで僕は──私は魔王城に監禁されていたんだ。
 その私が今や勇者だと!

 くっ
 なんたる屈辱。

「さぁさぁ勇者さま。老後のスローライフのために」
「今は目の前のオークどもを倒しましょう」
「ほら、ルイン。行くわよ!」
「老後……老後のためだな……くそっ」

 全ては最強のスローライフのために!
 なら甘んじて勇者と呼ばれてやろうではないか!

「"神の祝福を我が下に。聖なる光よ我が手に宿れ――聖なる拳セイント・ナックル"」

 僕の最強スローライフ計画を邪魔する奴らは、みんなまとめでぶん殴る!
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

Conanlove
2019.11.26 Conanlove

面白過ぎwww(笑)楽しくて堪りません〜😆次の更新楽しみに待っています〜頑張って下さいねぇ〜😆

夢・風魔
2019.11.26 夢・風魔

ありがとうございます(*´ω`*)

解除

あなたにおすすめの小説

【完結】狼と神官と銀のカギ 〜見た目だけは超完璧な聖神官様の(夜の)ペットとして飼いならされました。〜

上原
恋愛
「貴女の愛おしすぎる従属の姿勢を見るのが楽しすぎて、つい毎晩」 狼族の少女ラウは、見た目だけは超完璧、いつもニコニコ腹黒な聖神官アリストラム様の(夜の)ペットとして飼いならされる日々。 だがある事件を境に、二人の主従関係は完全に入れ替わって。 ●自サイト、なろうムーンライトにてR18版完結済み。 ●カクヨムにてR15版完結済み。 ●ノベルアップにてR15版掲載中。←こちらの転載になります。 ライトシリアス・ケモ耳・ケモしっぽ・褐色肌色。異種族恋愛ハッピーエンド。キラキラなキラキラがキラキラと噴出するキラキラシーンをキラッキラに書いたかなり女性向けなケモふも性癖。 表紙素材はジュエルセイバー様からお借りしました!

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

公爵家の半端者~悪役令嬢なんてやるよりも、隣国で冒険する方がいい~

石動なつめ
ファンタジー
半端者の公爵令嬢ベリル・ミスリルハンドは、王立学院の休日を利用して隣国のダンジョンに潜ったりと冒険者生活を満喫していた。 しかしある日、王様から『悪役令嬢役』を押し付けられる。何でも王妃様が最近悪役令嬢を主人公とした小説にはまっているのだとか。 冗談ではないと断りたいが権力には逆らえず、残念な演技力と棒読みで悪役令嬢役をこなしていく。 自分からは率先して何もする気はないベリルだったが、その『役』のせいでだんだんとおかしな状況になっていき……。 ※小説家になろうにも掲載しています。

【完結】忌み子と呼ばれた公爵令嬢

美原風香
恋愛
「ティアフレア・ローズ・フィーン嬢に使節団への同行を命じる」  かつて、忌み子と呼ばれた公爵令嬢がいた。  誰からも嫌われ、疎まれ、生まれてきたことすら祝福されなかった1人の令嬢が、王国から追放され帝国に行った。  そこで彼女はある1人の人物と出会う。  彼のおかげで冷え切った心は温められて、彼女は生まれて初めて心の底から笑みを浮かべた。  ーー蜂蜜みたい。  これは金色の瞳に魅せられた令嬢が幸せになる、そんなお話。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。