上 下
48 / 50

48デリントン再び──からの~

しおりを挟む
 エヴァがパーティーに加わって二カ月が過ぎた。
 痩せ細っていた体には、すっかり栄養が行きわたって健康的になり、それに比例して彼女の体力も増えた。
 そうなると当然、パーティーの戦力もアップし、次々に仕事をこなせる様になった。

 そんなある日、ラフィが持ってきた仕事は、胡散臭そうな集団の調査というもの。
 ここ最近、子供や若者が行方不明になる事件が相次いでいる。その事件現場でたびたび赤いフードの集団が目撃されていて、彼らが事件と関係があるのかないのか、その調査だ。

「しかし赤いフードという目立つ格好で、人攫いなどするものだろうか?」
「アタシもそう思うんだけどさ、不明者の消息が途絶えた付近で確実にその赤い集団が目撃されてるから、疑わないのも変だろ?」
「赤い……派手……わざと目立とうとしてる、のかも?」
「わざと……」

 エヴァの言葉に引っかかる物がある。
 かどわかしとは悪党のすることだ。その悪党が目立とうとしている?
 いや、有り得ないだろう。
 そう僕は思うのだが、今回はエヴァの予想が当たっていた。

 最近行方不明者が数人出た町へと向かい、町中にうすーく伸ばした僕の魔力を垂れ流しにして監視していると、それに引っかかる者が現れた。
 時刻は真夜中。悪党どもが好む時間帯だ。
 微弱な魔力の変動元へと向かうと、そこには案の定、真っ赤はフード付きローブを守った集団がいた。
 10人ほどのそいつらの中には、眠っているのか眠らされているのは、幼い子供を担いだ者がいる。

「あんたたちが人攫いの犯人ね! 覚悟なさいっ」
「ん? 殺すのか?」
「ダ、ダメよルインッ。こいつらは捕まえるの! 他に仲間がいるかもしれないし、アジトも聞きださなきゃけないもの」

 あぁそうか。よし分かった。生かして捕まえよう。
 そう思ったのだが、派手な集団のひとりがフードを脱ぎ、その顔を見た瞬間に気分が変わった。

「ふ。久しいな、ルイン・アルファート。うぐっ。貴様を思い出すといつも胸やけがする……貴様と再会したのも運命だろう。ここで……死ねっ!」

 そう言って剣を振りかざし挑んで来たのは青い髪の男――

「デリトリン!」
「デリントンだ! 人の名前を勝手に改変するなっ」

 あぁそうだった。デリントンだったな。まぁそんなことは些細なものだからどうでもいい。
 問題は何故彼がここにいるかだ。

「デリントン。君は何故ここにいる? 一応念のために聞いておこうと思ってね」
「ふん、知れたこと。俺はあの方のために動いているに過ぎない。あの方が求めるモノの為に……その邪魔をするお前は、生かしておかん!」
「あの方……それが誰なのかは教えてくれないという訳か」
「当然! あのお方の名を、貴様の耳になど入れて堪るか!」

 そうか。まぁ聞きだす方法は幾らでもある。
 血の色に光る魔法剣を振りかざし、デリントンが目前に迫った。
 この魔法剣の源……デリントンが扱うには随分と上等な魔法が込められているな。
 神クラスの魔法が。

 その剣が振り下ろされたが、僕は指先でそれを受け止める。
 ふむふむ。これは狂気の女神の魔力か。なるほどねぇ。

 大神殿の地下深くに眠るアレの封印が弱まっているのだろう。
 その封印を解くための生贄に子供や若者を集めているのか。それとも他の理由か。
 とにかくデリントンは僕の邪魔をした。

「いいよね、殺っても」

 僕の問いはこの場に居る者に向けてはいない。

「殺られるのは貴様だ! ぐぎぎぎっ」

 どんなに力を込めようと、親指と人差し指で挟んだ剣は引き抜けないぞデリントン。
 逆に僕がほんの少し力を込め、刃をポッキリと折ってやった。

「な、なっ。マリアロゼ様から頂いた剣が!」
「マリアロゼ!? ル、ルイン、どういうこと?」
「ふむ。どうやら彼女は聖女に選ばれなかったことで、闇への道を進んだらしいね」

 折れた刃を見つめ愕然とするデリントン。

「僕は言ったはずだ。次はないからねと。思い出してくれるかなぁ」
「つ……ぎ……」

 折れた刃を抱きしめるように竦んだデリントンへ、僕は最大の笑みを浮かべて見せた。

「じゃあ地獄に落ちてね」

 そう一言だけ言うと、僕は持てる魔力の全てを右手に収束し、そして唱えた。

「"爆裂聖光弾ホーリー・バースト

 無詠唱のそれは彼を浄化《・・》するには十分な力だった。それだけの魔力を込めたから。
 影すら残さず天へと召されたデリントン。

 あ……。
 天に召されてしまったら地獄に落とせないじゃないか!?

「まぁいいや。よし。じゃあ次は誰にしようかな?」

 残った赤い集団に笑みを浮かべ振り向くと、その場で全員が失禁して降伏した。
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ひだまりを求めて

空野セピ
ファンタジー
惑星「フォルン」 星の誕生と共に精霊が宿り、精霊が世界を創り上げたと言い伝えられている。 精霊達は、世界中の万物に宿り、人間を見守っていると言われている。 しかし、その人間達が長年争い、精霊達は傷付いていき、世界は天変地異と異常気象に包まれていく──。 平凡で長閑な村でいつも通りの生活をするマッドとティミー。 ある日、謎の男「レン」により村が襲撃され、村は甚大な被害が出てしまう。 その男は、ティミーの持つ「あるもの」を狙っていた。 このままだと再びレンが村を襲ってくると考えたマッドとティミーは、レンを追う為に旅に出る決意をする。 世界が天変地異によって、崩壊していく事を知らずに───。

御者のお仕事。

月芝
ファンタジー
大陸中を巻き込んだ戦争がようやく終わった。 十三あった国のうち四つが地図より消えた。 大地のいたるところに戦争の傷跡が深く刻まれ、人心は荒廃し、文明もずいぶんと退化する。 狂った環境に乱れた生態系。戦時中にバラ撒かれた生体兵器「慮骸」の脅威がそこいらに充ち、 問題山積につき夢にまでみた平和とはほど遠いのが実情。 それでも人々はたくましく、復興へと向けて歩き出す。 これはそんな歪んだ世界で人流と物流の担い手として奮闘する御者の男の物語である。

黄金の魔族姫

風和ふわ
恋愛
「エレナ・フィンスターニス! お前との婚約を今ここで破棄する! そして今から僕の婚約者はこの現聖女のレイナ・リュミエミルだ!」 「エレナ様、婚約者と神の寵愛をもらっちゃってごめんね? 譲ってくれて本当にありがとう!」  とある出来事をきっかけに聖女の恩恵を受けれなくなったエレナは「罪人の元聖女」として婚約者の王太子にも婚約破棄され、処刑された──はずだった!  ──え!? どうして魔王が私を助けてくれるの!? しかも娘になれだって!?  これは、婚約破棄された元聖女が人外魔王(※実はとっても優しい)の娘になって、チートな治癒魔法を極めたり、地味で落ちこぼれと馬鹿にされていたはずの王太子(※実は超絶美形)と恋に落ちたりして、周りに愛されながら幸せになっていくお話です。  ──え? 婚約破棄を取り消したい? もう一度やり直そう? もう想い人がいるので無理です!   ※拙作「皆さん、紹介します。こちら私を溺愛するパパの“魔王”です!」のリメイク版。 ※表紙は自作ではありません。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

死んで生まれ変わったわけですが、神様はちょっとうっかりが過ぎる。

石動なつめ
ファンタジー
売れない音楽家のフィガロ・ヴァイツは、ある日突然弟子に刺されて死んだ。 不幸続きの二十五年の生に幕を下ろしたフィガロだったが、音楽の女神から憐れまれ、新たな人生を与えられる。 ――ただし人間ではなく『妖精』としてだが。 「人間だった頃に、親戚に騙されて全財産奪い取られたり、同僚に横領の罪を被せられたり、拾って面倒を見ていた弟子に刺されて死んじゃったりしたからね、この子」 「え、ひど……」 そんな人生を歩んできたフィガロが転生した事で、世の中にちょっとした変化が起こる。 これはそんな変化の中にいる人々の物語。 ※小説家になろう様にも投稿しています。

生贄公爵と蛇の王

荒瀬ヤヒロ
ファンタジー
 妹に婚約者を奪われ、歳の離れた女好きに嫁がされそうになったことに反発し家を捨てたレイチェル。彼女が向かったのは「蛇に呪われた公爵」が住む離宮だった。 「お願いします、私と結婚してください!」 「はあ?」  幼い頃に蛇に呪われたと言われ「生贄公爵」と呼ばれて人目に触れないように離宮で暮らしていた青年ヴェンディグ。  そこへ飛び込んできた侯爵令嬢にいきなり求婚され、成り行きで婚約することに。  しかし、「蛇に呪われた生贄公爵」には、誰も知らない秘密があった。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

群青の軌跡

花影
ファンタジー
ルークとオリガを主人公とした「群青の空の下で」の外伝。2人の過去や本編のその後……基本ほのぼのとした日常プラスちょっとした事件を描いていきます。 『第1章ルークの物語』後にタランテラの悪夢と呼ばれる内乱が終結し、ルークは恋人のオリガを伴い故郷のアジュガで10日間の休暇を過ごすことになった。家族や幼馴染に歓迎されるも、町長のクラインにはあからさまな敵意を向けられる。軋轢の発端となったルークの過去の物語。 『第2章オリガの物語』即位式を半月後に控え、忙しくも充実した毎日を送っていたオリガは2カ月ぶりに恋人のルークと再会する。小さな恋を育みだしたコリンシアとティムに複雑な思いを抱いていたが、ルークの一言で見守っていこうと決意する。 『第3章2人の物語』内乱終結から2年。平和を謳歌する中、カルネイロ商会の残党による陰謀が発覚する。狙われたゲオルグの身代わりで敵地に乗り込んだルークはそこで思わぬ再会をする。 『第4章夫婦の物語』ルークとオリガが結婚して1年。忙しいながらも公私共に充実した生活を送っていた2人がアジュガに帰郷すると驚きの事実が判明する。一方、ルークの領主就任で発展していくアジュガとミステル。それを羨む者により、喜びに沸くビレア家に思いがけない不幸が降りかかる。 『第5章家族の物語』皇子誕生の祝賀に沸く皇都で開催された夏至祭でティムが華々しく活躍した一方で、そんな彼に嫉妬したレオナルトが事件を起こしてミムラス家から勘当さる。そんな彼を雷光隊で預かることになったが、激化したミムラス家でのお家騒動にルーク達も否応なしに巻き込まれていく。「小さな恋の行方」のネタバレを含みますので、未読の方はご注意下さい。 『第6章親子の物語』エルニアの内乱鎮圧に助力して無事に帰国したルークは、穏やかな生活を取り戻していた。しかし、ミムラス家からあらぬ疑いで訴えられてしまう。 小説家になろう、カクヨムでも掲載

処理中です...