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47元魔王は紳士
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「ほんっとうにありがとうございました」
牧場が光に包まれ、何事かとやって来た村長らに事情を説明。
爆裂聖光弾《ホーリー・バースト》は中心から離れれば離れる程効果が若干薄くなり、牧場内のゴブリンは死体も残すことなく消滅したが、離れた場所ではわずかにそれと分かる物が残っていた。
おかげで「ただ眩しいだけの迷惑行為」と間違われずに済んだ。
そして今、こうして感謝されている。
「なんとお礼をしたらよいか」
「礼ならこの子にもしてあげなよ。この子、真っ先に走ってゴブリンと戦ったんだからさ」
ラフィはそう言い、獣人娘の扱いを改善して貰おうと思ったのだろう。
だが村長はまったく感謝などしていないようだ。
「いえいえ、これは売れ残りを仕方なく商人から買ってやった奴なんですよ。わしが買わなんだら、酷い目にあっていたでしょうに。むしろ感謝されるのはわしのほうで、それが当然なのです」
「ほぉ。仕方なくというが、いくらで買ったのだ?」
人というのはどのくらいの価値なのか。
単純に知りたいと思っただけだった。
「はい、金貨2枚でございます」
金貨2枚――確か僕が育てた苺が10ケースで銀貨1枚だったか。金貨2枚だと200ケース分。
一日の収穫でそのぐらいは取れるが、果たしてこれは高いのか安いのか。まだその辺りが僕には分からない。
元々ド貧乏だったからお金を持たなかったし、持ったところで使う場所がない。
大神殿にいたことはそれこそお金を使う機会などなかったし。実家に帰ってからは、お金の管理は兄がしっかりしていたので僕はノータッチだ。
苺の価格もポッソに任せていたから……うむ、お金の価値観が未だに疎いではないか!
「いやぁ、もし今回家畜がダメになっていたら、そんな金額では済みませんでした。本当にありがとうございます。なんとお礼を言ったらいいか。いや、ぜひお礼をさせてください。今回の依頼料……そうですね、こいつの買取金額ほど、上乗せしましょう」
そう言って村長は獣人の娘の背中をドンと叩く。叩かれた娘は咳込みならがよろめく。
先ほどまではあれほどまでに勇敢な姿だったのに、あれでは見る影もない。
しっかり食べ、肉と体力をつけさせれば、優秀な人材になるだろう。
だから僕は――
「金はいらん。その娘を寄越せ」
と、笑顔でそう言った。
「あんの村長!」
ラフィは怒っていた。
その後ろを怯えた獣人の娘が歩く。
空間転移の魔法で家畜と村長の息子を運び、そして空になっら荷車と村長の息子を村へ送り届けて今王都だ。
護衛の依頼料は――ない。
獣人の娘を寄越せと言ったあと、なんだかんだとごねて、結局は護衛代も無しということでやっと折れた。
ちょっとだけ脅しも込めてみたんだが、あの村長はなかなかどうして。
冷や汗を垂らしながらも、ここまで交渉するとは。
うん、見事だった。僕も脅しには屈しないよう、見習おう。
「ラフィにはすまないことをした。僕がうっかりその子を寄越せと言ったばかりに、タダ働きすることになって」
「そ、そんなこといいんだよ。アタイだって、この子のこと、可哀そうだって思ったし……それで、この子どうすんの?」
「そうだな。ひとまず、名前を聞こうか」
「あぁ、アタイら初歩的なこともすっかり忘れてたね。ふふ、アタイはラフィ。冒険者で、剣士だよ」
「僕はルイン・アルファート。聖職者だ。階級は神官。一応今は冒険者ではないな」
そうやって自己紹介すると、獣人の娘は「エヴァ」とだけ答えた。
僕らはこのエヴァの身綺麗にするため大聖堂へと向かった。
「まぁ、それならどこかの宿でお風呂に入れてあげるだけでも良かったのでは?」
「それがさー、聞いてよフィリア。宿の親父がこの子を見て、汚いから他所に行けって言うんだよ」
「まぁ! 綺麗にしてあげるためにお風呂に入れてあげたいだけなのに? ひどぉい」
「でしょー?」
「いいから、早くエヴァを風呂に」
久々の再会で二人は女子トークに花を咲かせようとするので、僕が急かす。
ここにはフィリア専門の湯あみ場がある。そこまでは廊下を少し歩く必要があるが、そこまでは僕の隠密魔法で姿を消し、こっそり移動した。
大神殿を出たラフィはもちろんだが、完全に部外者であるエヴァが見つかればお叱りを受けるからだ。
「じゃあルインさまはここで待っててくださいね」
「分かった。待ってよう」
「覗いちゃダメだかんね」
「僕は紳士だ。そんなハレンチなことはしない」
まったく、失敬な。
姿を隠した状態で待つこと小一時間。
いくらなんでも遅すぎやしないか?
そう思っていると、ようやく三人が出て来た。
エヴァはどことなく、疲弊しきっているように見える。
かなり激しく洗われたのだろう。
だがそのおかげで髪の毛の一本一本まで綺麗になっていた。
「あとはお洋服ですね」
「フィリアの服は法衣ばっかだし、アタイのはサイズ合わないし。やっぱり町に戻って買おう!」
「私も行きたい……でもこの後すぐ、次のお祈りの時間だし」
肩を落とすフィリアを横目に、僕らは再び王都へと戻った。
そこでエヴァは更に疲弊する。
「これもいいね! あー、これも可愛い!! ね、ね、これなんかどう?」
「ううぅぅぅ」
エヴァは完全に、ラフィの着せ替え人形と化していた。
牧場が光に包まれ、何事かとやって来た村長らに事情を説明。
爆裂聖光弾《ホーリー・バースト》は中心から離れれば離れる程効果が若干薄くなり、牧場内のゴブリンは死体も残すことなく消滅したが、離れた場所ではわずかにそれと分かる物が残っていた。
おかげで「ただ眩しいだけの迷惑行為」と間違われずに済んだ。
そして今、こうして感謝されている。
「なんとお礼をしたらよいか」
「礼ならこの子にもしてあげなよ。この子、真っ先に走ってゴブリンと戦ったんだからさ」
ラフィはそう言い、獣人娘の扱いを改善して貰おうと思ったのだろう。
だが村長はまったく感謝などしていないようだ。
「いえいえ、これは売れ残りを仕方なく商人から買ってやった奴なんですよ。わしが買わなんだら、酷い目にあっていたでしょうに。むしろ感謝されるのはわしのほうで、それが当然なのです」
「ほぉ。仕方なくというが、いくらで買ったのだ?」
人というのはどのくらいの価値なのか。
単純に知りたいと思っただけだった。
「はい、金貨2枚でございます」
金貨2枚――確か僕が育てた苺が10ケースで銀貨1枚だったか。金貨2枚だと200ケース分。
一日の収穫でそのぐらいは取れるが、果たしてこれは高いのか安いのか。まだその辺りが僕には分からない。
元々ド貧乏だったからお金を持たなかったし、持ったところで使う場所がない。
大神殿にいたことはそれこそお金を使う機会などなかったし。実家に帰ってからは、お金の管理は兄がしっかりしていたので僕はノータッチだ。
苺の価格もポッソに任せていたから……うむ、お金の価値観が未だに疎いではないか!
「いやぁ、もし今回家畜がダメになっていたら、そんな金額では済みませんでした。本当にありがとうございます。なんとお礼を言ったらいいか。いや、ぜひお礼をさせてください。今回の依頼料……そうですね、こいつの買取金額ほど、上乗せしましょう」
そう言って村長は獣人の娘の背中をドンと叩く。叩かれた娘は咳込みならがよろめく。
先ほどまではあれほどまでに勇敢な姿だったのに、あれでは見る影もない。
しっかり食べ、肉と体力をつけさせれば、優秀な人材になるだろう。
だから僕は――
「金はいらん。その娘を寄越せ」
と、笑顔でそう言った。
「あんの村長!」
ラフィは怒っていた。
その後ろを怯えた獣人の娘が歩く。
空間転移の魔法で家畜と村長の息子を運び、そして空になっら荷車と村長の息子を村へ送り届けて今王都だ。
護衛の依頼料は――ない。
獣人の娘を寄越せと言ったあと、なんだかんだとごねて、結局は護衛代も無しということでやっと折れた。
ちょっとだけ脅しも込めてみたんだが、あの村長はなかなかどうして。
冷や汗を垂らしながらも、ここまで交渉するとは。
うん、見事だった。僕も脅しには屈しないよう、見習おう。
「ラフィにはすまないことをした。僕がうっかりその子を寄越せと言ったばかりに、タダ働きすることになって」
「そ、そんなこといいんだよ。アタイだって、この子のこと、可哀そうだって思ったし……それで、この子どうすんの?」
「そうだな。ひとまず、名前を聞こうか」
「あぁ、アタイら初歩的なこともすっかり忘れてたね。ふふ、アタイはラフィ。冒険者で、剣士だよ」
「僕はルイン・アルファート。聖職者だ。階級は神官。一応今は冒険者ではないな」
そうやって自己紹介すると、獣人の娘は「エヴァ」とだけ答えた。
僕らはこのエヴァの身綺麗にするため大聖堂へと向かった。
「まぁ、それならどこかの宿でお風呂に入れてあげるだけでも良かったのでは?」
「それがさー、聞いてよフィリア。宿の親父がこの子を見て、汚いから他所に行けって言うんだよ」
「まぁ! 綺麗にしてあげるためにお風呂に入れてあげたいだけなのに? ひどぉい」
「でしょー?」
「いいから、早くエヴァを風呂に」
久々の再会で二人は女子トークに花を咲かせようとするので、僕が急かす。
ここにはフィリア専門の湯あみ場がある。そこまでは廊下を少し歩く必要があるが、そこまでは僕の隠密魔法で姿を消し、こっそり移動した。
大神殿を出たラフィはもちろんだが、完全に部外者であるエヴァが見つかればお叱りを受けるからだ。
「じゃあルインさまはここで待っててくださいね」
「分かった。待ってよう」
「覗いちゃダメだかんね」
「僕は紳士だ。そんなハレンチなことはしない」
まったく、失敬な。
姿を隠した状態で待つこと小一時間。
いくらなんでも遅すぎやしないか?
そう思っていると、ようやく三人が出て来た。
エヴァはどことなく、疲弊しきっているように見える。
かなり激しく洗われたのだろう。
だがそのおかげで髪の毛の一本一本まで綺麗になっていた。
「あとはお洋服ですね」
「フィリアの服は法衣ばっかだし、アタイのはサイズ合わないし。やっぱり町に戻って買おう!」
「私も行きたい……でもこの後すぐ、次のお祈りの時間だし」
肩を落とすフィリアを横目に、僕らは再び王都へと戻った。
そこでエヴァは更に疲弊する。
「これもいいね! あー、これも可愛い!! ね、ね、これなんかどう?」
「ううぅぅぅ」
エヴァは完全に、ラフィの着せ替え人形と化していた。
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