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46元魔王は感心する。

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 人よりも動物のほうが優れていることもある。
 聴覚、嗅覚、視力。動物の種類にもよるが、どれかが人より優れているというのは、極々当たり前のようにある。
 そして家畜小屋の豚や牛たちにしてもそうだ。

『ブピイィィィッ』
『モオオォォォォォォォッ』

 魔物はまだ家畜小屋へと到着はしていない。その前から豚や牛たちは騒ぎ始めた。

「ルインッ」
「倒すのか? それは冒険者として君の仕事になるのか?」
「し、仕事とかそんなんじゃなくって! ここの家畜が殺されたら、村の人が困るだろっ」

 困っている人は助けたい。もちろん手が届く範囲で。
 そうラフィは言う。
 そうか。なら僕も手伝おう。

「牧場……」

 そう言って獣人の少女が駆け出す。

「あ、待って! ひとりじゃ危ないってっ」

 それをラフィが追いかけるので、僕も後を追った。
 家畜小屋の後ろは柵がしてあって、牛を放牧するための牧場になっていた。
 広い敷地を、牛が狂ったように駆けまわっている。魔物の気配を感じてだろう。

「牛、落ち着かせる」
「無理無理無理っ。危ないからっ」
「落ち着かないと、地獄送りにするぞおぉぉっ!」
「ってルインも叫んだからって、牛が落ち着くわけ――あれ?」

 目を血走らせて走って来た牛たちは、僕の一声でピタリと足を止めた。

「よしよし、良い子だ。幼い頃、こうやって村の牛たちを宥めていたんだ」
「……地獄送り……ルイン、時々怖いこと言うよね」
「ん? そうか?」

 牛は大人しくなったんだから、それでいいじゃないか。
 あとは森から出てくる魔物を一掃すれば終わる。

「す……凄い……」

 獣人の少女はそう呟いて、僕を見上げていた。
 だがすぐにはっとなって森の方を見る。
 くくく。どうやら出てきたようだ。
 だが僕は出て来たソレを見て興ざめした。

「ゴブリンだ……うわぁ」
「あ、あんなにいっぱい!? くっ。そこの君、アタイの後ろに隠れてっ」
「がうっ」
「あ、ちょっと!」

 野性味をあらわにした獣人の少女は、森から出て来たゴブリンらの下へと駆けだす。
 まだ距離は十分ある。今から走っては疲れてしまうだろうに。
 それを追いかけラフィまで走り出した。
 まったく、仕方ない。
 ささっと追いついて二人を抱え、牧場の端まで走った。

「ふにゅううぅぅぅっ、は、早いぃー」
「ぅが!?」
「まったく、ゴブリン相手にそんな張り切らなくてもいいだろう」

 神経が磨り減るほど気を使ってデコピンしなきゃ、直ぐに死んでしまうような、治癒の練習台にもならない奴らだ。
 焦る必要なんかないだろう。
 のんびりと柵を跨ぎ、屈伸運動を終えるころ、ようやくゴブリンらがやってきた。

「"我が剣に宿れ、聖なる灯――聖付与《ホーリー・ソード》"」

 ラフィは自身の剣に属性を付与。
 牙を剥いた獣人の少女は既に飛び出していった。

「ルイン、あの子のことお願いっ」
「分かった。安心しろ、二人ともちゃんと面倒を見てやるから」
「ア、アタイはいいんだって!」

 頬を染め駆け出すラフィ。
 そうは言っても、僕の支援魔法はほとんどが範囲魔法だからなぁ。
 集中すれば掛ける相手を選別できるが、それは面倒くさい。

「"善き者、我が神の……ぷっ……加護を分け与えん――祝福《ブレッシング》」

 まずは身体能力を向上させる魔法だ。
 次に不可視の盾によって、その身をを護る聖光の盾ホーリー・シールドを展開する。
 どちらも僕にとっては不要な魔法だが、二人にも必要だろう。

 しかしラフィは立派になったな。
 一撃で確実にゴブリンの息の根を止めている。流石だ。
 そうかと思えばあの獣人の子は、まるで猛獣のようだな。
 落ちていた石を拾い、それをゴブリンの脳天へと力任せに叩きつけている。
 いや、たかが石だろうと、勢いよく急所を突けば殺せなくもない。
 少女は素早く、そして確実にゴブリンの脳へダメージを与えられる位置を狙っていた。
 一撃で倒せないものの、石で殴られたゴブリンは等しく地に転がっている。
 短剣のひとつでも持っていれば、確実に仕留められる実力を持っていそうだ。

 ふむ。では与えてやるか。

 手近なゴブリンが持つ質の悪い短剣を鷲掴みし、持ち主にはパンチをくれてやる。
 おっと。力加減を失敗したせいで、顔だけ吹っ飛んでしまった。
 グロい。

 ラフィが倒したゴブリンの短剣も拾い、これと僕の血を混ぜ錬金魔法を用いる。
 純度が高く、僕の血が混ざることで魔力を帯びた鉄の塊が完成すると、これを更に形成しなおして――
 よし、赤く光る刀身の短剣が完成したぞ。
 欲を居れば装飾の類も欲しかった。

「獣人の少女よ、これを使うがいい」
「うが?」

 野生化しているのか、人語ではなく獣のように返事をする少女。
 投げた短剣を空中で一回転しながら受け取ると、瞳をぎらつかせゴブリンへと迫った。

 喉を裂き、頭を一突きにし、次々とゴブリンを屠っていく。

「良い腕だ。家畜の世話で終わらせるには勿体ない」
「ほんと。冒険者になればいいのにねっと、ルインも関心してないで、手伝ってよ!」
「君だって今関心していただろう。まったく仕方ない――"神の祝福を我が下に。聖なる光よ我が手に宿れ――聖なる拳セイント・ナックル"」

 僕の拳が聖なる輝きを放つ。
 正義を掴めと疼く!

「地獄に落ちろ」

 拳を掲げ、僕はゴブリンの群れへと一歩近づく。

『ギ、ギギィッ!?』
『ゲッギャ、ゲギィッ』

 ん? このゴブリンども――

『ギギャギャーッ(こ、こいつ! 王様を倒したあの人間ギャ)』
『ゴブゴブブギャッ!? (な、なぜここに居る!?)』
『ゴブリャーッ(逃げろーっ)』

 どうやらアルファート領の森にいたゴブリンの生き残りのようだ。
 ゴブリンが人の顔を覚えられるほどの知能があったとは、驚きだ。

「な、なんなの? なんかゴブリンの様子がおかしくない?」
「そうだな。逃げるようだ」
「え? いやそれマズいよ。もっと仲間を呼んで報復なんてされたら……」

 なるほど。では皆殺しが一番いいのか。
 なら――

「"全ての闇を消し去り、世界を光に見たせ――邪悪なる者よ、滅びよ! 爆裂聖光弾《ホーリー・バースト》」

 頭上に巨大な光の玉が現れる。
 それはどんどん膨らんでいき――

「ル、ルインそれ大丈夫!?」
「心配ない。邪悪な者にしかダメージを与えないから」
「が、がぅ」
「お前も大丈夫だ、安心しろ」

 大丈夫じゃないのはゴブリンだがな。

 光を地面にぽいすると、辺りを閃光が包む。
 光が消えた後、残ったのは僕ら三人と牛たち。

「やはり一撃で片付くのは効率的にもいいな。無駄な時間を費やさずに済む。そう思わないか?」

 振り向いたそこには、ぽっかりと口を開けたラフィと獣人の少女が居た。
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