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元魔王は聖職者になる

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 ぼくのスローライフ計画の邪魔をする者がいる。

 それを知ってからというもの、ぼくはより一層努力を惜しまなかった。
 下級魔法は完全スルー。
 中級以上の神聖魔法を片っ端から習得し、十日掛かってようやく全て身に着けた。

 だが習得しただけだ。
 これを実用レベルにまで鍛えなければならない。

「クリフドー師匠! ぼくを鍛えてください!!」
「よう分からんが……お前、なんかいろいろ大きくなっておらんか?」
「? あぁ、そういえば最近、背の伸びが良くなってますね」
「いや、体の事では無くて……まぁよい。邪悪な意思は感じられぬし、心身共に鍛えてやろう」

 全ての神聖魔法を習得して分かったことは、攻撃に使える物が非常に少ないという事。
 まぁ神聖魔法は回復や戦闘補助が主な役割だから、仕方ないか。

 だからこそ、ぼくの戦い方に合った神聖魔法を極めるっ。
 
 拳に属性を付与し、直接殴る!

 師匠の指導で地下墓地でアンデッドどもを殴った時も、森の中で盗賊らに正義の鉄槌を下した時も、気持ちよかった!
 殴り最高!

 魔法一発で敵を消し飛ばすのもいいが、直接殴って再起不能にするのもなかなか楽しい。

 だが師匠が課した修行は厳しいもので――

「まずは落差三十メートルの滝行じゃ」
「はい!」

 大神殿と隣接する小さな森に滝があった。
 見習い神官も利用する、心を無にする修行に使うという、落差二十メートルの滝だ。
 この滝に打たれて心身を鍛えると言う。

 これに半日打たれたところで、

「もういい! もういいわ! 次!!」
「はい師匠!!」

 平日は神殿での授業もあるので、修行は週末のみ行われる。
 次の週末には神殿から馬車で二時間ほどの場所にある、

「落差五十メートルの滝行じゃ!」
「はい!」

 これに半日打たれたところで。

「も、もういい! 寄宿舎には儂から外泊許可を取っておる。次行くぞ!!」
「はい師匠!」

 そうして暗くなる前に次の滝へと移動。

「落差百メートルじゃ! ここなら……ここから貴様も根を上げるじゃろうて。ひっひっひ」
「はい!」

 これに翌朝まで徹夜で打たれたところで、師匠が根を上げた。

「お、お前の体はどうなっておる? 限界というものは無いのか?」
「限界? ……さぁ?」
「さぁって……あー……この先に落差三百メートルの滝があるんじゃが……」
「行きましょう!」

 馬車は通れず、徒歩で二時間掛け山を登った。師匠を背負って。
 そうして到着した滝は巨大なもので、幅が数百メートルに渡って広がっていた。
 
 三百メートルの高さから落下する水量は、相当なものだろう。
 水面から十数メートルは水しぶきが上がり、滝つぼは真っ白で見えない。

「見事な絶景ですね」
「うむ。まぁ流石にあれに打たれては、生きて帰って来れぬからな。ほれ、あっちのちっこいのに――ってどこに行っとるんじゃ! おい! 帰って来い!」

 さて、どこに立とう。
 泳いで滝つぼまでやって来たが、水底へと落下する水と、吹き上がる水しぶきとでぼくの体はもみくちゃにされる。
 師匠の声が遠くで聞こえるが、滝の音で何を言っているのか……。
 あぁ、手を振ってくれているな。頑張れということなのだろう。

 よし、頑張るか。
 ふふ。頑張れという声援も、人の身に転生してから送って貰えるようになったものだ。
 有難い。

 師匠の声援に応えるためにも、ぼくは立派に滝行を行って見せる!

 水に潜って立てそうな場所を探していると、大きな岩が転がっているのが見えた。
 僅かだが水面からも出ているようだ。そそこに立とう。

 落下する水をかき分け岩の上へと立ち、そして祈りのポーズを作る。
 くっ。さすがに落差三百メートルの滝だ!
 肩に打ち付ける水が、まるで巨漢大男の拳で肩叩きされているようだ。
 肩こりをほぐすにはちょっと過剰過ぎる。
 なかなかに辛いぞ。

「し、師匠! こ、これが修行なのですね!!」

 岸辺のクリフドー師匠を見ると、項垂れた彼の姿が目に入った。

 この日からぼくは週末になるとここへやって来て、一日滝に打たれるのが日課となった。
 更に裸足で山を歩き、火山地帯を駆け、毒の沼地を渡る。
 心身を鍛えることで、魔力は磨かれ、魔法の威力も底上げされる。

 そうして一年半が過ぎ――

 僕《・》は遂に神官としての称号を得た。
 つまりこれで、ようやく聖職者となったのだ!
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