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元魔王は食堂を光で包む。

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 お昼の食堂にて――

「ルインさま、お隣いいですか?」
「やぁルイン。隣いい?」
「構わないぞ」

 ぼくの右隣にフィリアが、左隣にラフィが座る。
 二人が座ると同時に、周囲がざわめいた。
 うむ。フィリア派、ラフィ派から嫉妬の炎がひしひしと伝わって来るな。
 なんとも心地よい。

 さて本日の給食は。

・ふわとろ卵のオムライス。
・大神殿裏の畑で採れた新鮮野菜の生サラダ。
・一本角ラビットのピカタ。

 ここに来て一年以上になるが、相変わらず昼から豪華だ。
 村でもこれぐらいの食事が出来るようになれば、みな幸せになれるのだろうな。

「いただきます」
「「いただきます」」

 ぼくが手を合わせそう言うと、フィリアとラフィも同じように手を合わる。
 が、食事に手を付ける前に、それを妨害する輩が現れた。

「そこ。邪魔ですわ」
「ふにゃっ!?」

 左隣のラフィの椅子が突然引かれる。その拍子に彼女は後ろに倒れ――そうになるのを、ぼくが自分の方へと引き支えてやる。

「大丈夫かラフィ」
「う、うん。平気。あ、ありがとうルイン」

 引かれた椅子を見ると、それを持っていたのはデリントン!
 彼はぼくと目を合わせたくないのか、不自然なまでに明後日の方角を見ている。

「そこは私の席でしてやラフィさん」
「は? 食堂は誰が何処に座るかなんて、決まってないし」
「お黙りなさい。私が何処へ座るかは決まっていますの」
「……ルインの隣に座りたいなら、そう言えばいいじゃんか!」
「まぁ! 私がこの男の隣に座りたいですって? 違いますわよ。この男が私の隣に座りたがっているのです!」

 何故そうなる?

「ふ、二人とも喧嘩は止めようよ。ラフィ、私の席に座って。ね? 私はルインさまのお向いに座るから」
「でもフィリア……」
「ね? せっかくルインさまとのお食事なのに、五月蠅くしたらルインさまに申し訳ないもの」
「賑やかなのは好きだが、確かに五月蠅いのは嫌だ。あとぼくはお前の隣に座りたいなんて一言も言ってない」

 マリアロゼに反論したが、この女は聞いていないようだ。
 何食わぬ顔でぼくの隣に腰を下ろし、デリントンが甲斐甲斐しく椅子を押す。
 それから逃げるようにして食堂を出て行った。
 彼の額に冷や汗が大量に浮かんでいたのは、ぼくに対する恐怖心が残っているからだろう。
 だが思ったほど軽度のようだ。

「ふふふん。ルイン・アルファート。お前は南の辺境領主、アルファート男爵の次男でしたわね」
「それがどうした?」
「あなた。聖職者を目指しているのですって?」
「最強のスローライフを実現するためにな」
「さ、さいきょう? スローライフというのは、のんびりド田舎で暮らす的なものでしょう? え? どうして最強?」

 ふん。その程度の事も分からないのか。
 スローライフを送る為に邪魔になるもの共を、根こそぎ駆除するためだ。

「よ、よく分かりませんが、とにかく私の力で直ぐにでも聖職者にして差し上げてよ」
「は? お前の力?」
「えぇ。私、次期聖女に決まっていますもの」

 椅子から立ち上がり、右手は口元、左手は腰に。そして高らかに笑いだす。
 いつの間にやら出てきたデリントンが、女の座る椅子をタイミングよく引いたのは見事だと言ってやろう。
 マリアロゼが高笑いを終えると、さっと椅子を差し出し、そして押す。
 で、脱兎のごとく逃げる――と。
 なんなんだあの男は。

 が、それはそれ。

「お前、聖女にはなれないぞ」
「は? 何を仰っていますの。私、聖属性3ですわよ」
「本気でそう思っているのか?」

 俺はマリアロゼの黒い瞳を正面から見つめ問う。

「なっ……なんですの? 何を言っているのかしら」
「ふん……しらばっくれるならそれでもいい。後々惨めな思いをするのは貴様だからな」
「そ、それはどうかしらね。だいたい貴方のほうこそ、治癒魔法すら使えないんじゃなかったかしら? 落ちこぼれ――そうなのでしょう?」
「な!? 何故それを――デリントンか!!」

 得意げににやりと笑ったマリアロゼは、オムライスを一口ぱくり。

「あら。美味しいですわね。ま、それはそれとして。治癒魔法すら使えない貴方が、誰の後ろ盾も無しに聖職者――神官になれるとお思い?」

 勝ち誇ったような顔。
 何故だろう。
 ぼく――私の下にやって来た勇者一行も、だいたいあんな顔をしていた。
 そしてワンパンで私にやられていたわけだが。

 流石にここでワンパンはしないが……ならば。

「ふっ。ぼくをいつまでも治癒魔法の使えない落ちこぼれと思いなよ」
「なんですってっ」

 下級魔法は使えない。
 だがぼくは下級ではない治癒魔法を知っている。
 先ほど見たばかりだ。

「"善き者を癒し――」

 クリフドー師匠から学んだのは攻撃系とサポート系のみ。
 闇が聖を妨害する。

「邪悪を退ける白き――」

 ここで失敗するのは恰好が付かないな。
 ならばしっかり魔力を練ろう。
 しっかり――がっつり――くくく。くははははははは。

「――聖域《サンクチュアリ》"」

 椅子に座ったまま手を掲げ、光が収束して行くのを感じる。
 集まった光を解放し、床に展開――

「まぶっ」
「きゃぁっ何!?」
「目があぁぁ、目があぁぁっ!」
「うわあぁっ」
「またなのおぉ!?」

 食堂内に光が満ち、床一面に聖域を示す魔法陣が描かれた。

 ふむ。ちょっと魔力を練り過ぎたか?
 これでは食堂のある建物をすっぽり覆う範囲だな。
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