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第二十話
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燃えてる……
どうして……どうしてうちが燃えてるの?
どうして村のみんなは……逃げてるの?
隣のおばちゃんがこっち見てる。
でもおばちゃん……体はどこにいったの?
どうして頭しかないの?
おじちゃん……おじちゃん……冷たくなってる。
誰。
誰がこんなことを?
お父さん――お母さん――みんな――。
「ここにもいたぞ、耳付きが」
「やぁお嬢ちゃん、こんにちは」
誰?
「怖がらなくてもいいんだよ。おじさんたちはねぇ、悪い人だけど、いい人でもあるんだよ」
「げひゃひゃ。なんだよそりゃ」
怖い――この人たちからは、怖い匂いがする。
怖い……怖い!
お父さん、お母さん! フェルト!
怖くて駆け出して、直ぐに何かに躓いて……。
それがお父さんだとわかるのに少し時間がかかった。
「ぅあ……お父さん……」
「んん? なんだお嬢ちゃん、その人がお父さんかい?」
「じゃああっちのはお母さんかな?」
「え?」
嫌な臭いのするおじさんが指差す方向に、全然動こうとしない、裸のお母さんが倒れていた。
「お母さん……」
「君のお母さんはねぇ、とてもイイお母さんだったよ」
「あぁ。やっぱ獣人は締め付けがよくて、何度でも犯りたくなるぜ」
「おい、ガキには手を出すな。ガキは子爵様が買い取ってくださるんだからな。汚れ物は買い取ってくださらねーんだ。犯すなよ」
「っち。わかってるよ。ったく、てめーがあの母ちゃんをさっさと殺しちまったから、こっちは犯り足りねーんだろうがっ」
お父さん……お母さんが動かないの。
助けてあげて……。
お母さん……お父さんの体が無いの。
探してアゲテ……。
オトウサン、オカアサン。
フェルトガイナイヨ。
一緒ニサガソウヨ。
ネェ。
ネェ。
「さて、捕まえるか」
ネェ。
「さぁ、大人しくしやがれ」
「いい子にしていれば可愛がって貰えるからな」
「食う物にも困らなくなるんだ。こんな辺境で暮らさなくてもよくなるんだよ。有難く思え」
イヤ。
コナイデ。
「あぁ――あぁ――あああぁぁああぁぁぁっ」
それから、どこをどう走ったのかもう覚えていない。
ひとりでずっと走って、ずっと――ずっと――。
森の中を走り回り、お腹が空いて木の実を探したけどどこにもなくって草を食べた。
もっとお腹が空いて、虫を捕まえて食べた。
どのくらいひとりで走っていたのだろう。
どのくらい人を見ていなかっただろう。
あの日着ていた服は、小さくなってボロボロだった。
たくさんの月と太陽の巡りを見た気がする。
たくさんたくさん見た気がする。
お腹が空いた。
ううん。ずっとお腹が空いてる。
ご飯を食べたい。
ご飯を食べたい。
お母さんの作ったご飯を……もう食べられない。
「ぅあ……うあぁぁ……あぁぁぁ」
泣いて泣いて、ずっと泣いて。
気づいたら森を抜け、大きな道に出た。
そこに馬車がやって来て――。
「ほぉ。獣人のガキじゃねえか。雌か?」
あの日――大切な人がいなくなったあの日に見た、嫌な臭いのする人間。あれと同じ臭いのする、別の人間に――。
ボクは捕まった。
嫌な臭いのする人間だけど、ご飯をくれる。
だから……もう……逃げなくてもいいか……。
そう思っていたの。
「きっさん俺の大事なもん奪っちょって、ただで済むと思うなや!」
そう叫んでボクを抱きしめた男の人。
大事……ボクのことを大事にしてくれるの?
その人はとてもいい匂いがして、とても暖かくて……。
ちょっとへんてこな恰好をしているけど、その人はとても強かった。
ボクを助けてくれた。
ご飯もくれたし、綺麗に洗ってもくれた。
離れたくない。
離したくない。
嫌われないように……捨てられないように……そしてボクを置いて死なないように……。
ボク、
頑張る。
どうして……どうしてうちが燃えてるの?
どうして村のみんなは……逃げてるの?
隣のおばちゃんがこっち見てる。
でもおばちゃん……体はどこにいったの?
どうして頭しかないの?
おじちゃん……おじちゃん……冷たくなってる。
誰。
誰がこんなことを?
お父さん――お母さん――みんな――。
「ここにもいたぞ、耳付きが」
「やぁお嬢ちゃん、こんにちは」
誰?
「怖がらなくてもいいんだよ。おじさんたちはねぇ、悪い人だけど、いい人でもあるんだよ」
「げひゃひゃ。なんだよそりゃ」
怖い――この人たちからは、怖い匂いがする。
怖い……怖い!
お父さん、お母さん! フェルト!
怖くて駆け出して、直ぐに何かに躓いて……。
それがお父さんだとわかるのに少し時間がかかった。
「ぅあ……お父さん……」
「んん? なんだお嬢ちゃん、その人がお父さんかい?」
「じゃああっちのはお母さんかな?」
「え?」
嫌な臭いのするおじさんが指差す方向に、全然動こうとしない、裸のお母さんが倒れていた。
「お母さん……」
「君のお母さんはねぇ、とてもイイお母さんだったよ」
「あぁ。やっぱ獣人は締め付けがよくて、何度でも犯りたくなるぜ」
「おい、ガキには手を出すな。ガキは子爵様が買い取ってくださるんだからな。汚れ物は買い取ってくださらねーんだ。犯すなよ」
「っち。わかってるよ。ったく、てめーがあの母ちゃんをさっさと殺しちまったから、こっちは犯り足りねーんだろうがっ」
お父さん……お母さんが動かないの。
助けてあげて……。
お母さん……お父さんの体が無いの。
探してアゲテ……。
オトウサン、オカアサン。
フェルトガイナイヨ。
一緒ニサガソウヨ。
ネェ。
ネェ。
「さて、捕まえるか」
ネェ。
「さぁ、大人しくしやがれ」
「いい子にしていれば可愛がって貰えるからな」
「食う物にも困らなくなるんだ。こんな辺境で暮らさなくてもよくなるんだよ。有難く思え」
イヤ。
コナイデ。
「あぁ――あぁ――あああぁぁああぁぁぁっ」
それから、どこをどう走ったのかもう覚えていない。
ひとりでずっと走って、ずっと――ずっと――。
森の中を走り回り、お腹が空いて木の実を探したけどどこにもなくって草を食べた。
もっとお腹が空いて、虫を捕まえて食べた。
どのくらいひとりで走っていたのだろう。
どのくらい人を見ていなかっただろう。
あの日着ていた服は、小さくなってボロボロだった。
たくさんの月と太陽の巡りを見た気がする。
たくさんたくさん見た気がする。
お腹が空いた。
ううん。ずっとお腹が空いてる。
ご飯を食べたい。
ご飯を食べたい。
お母さんの作ったご飯を……もう食べられない。
「ぅあ……うあぁぁ……あぁぁぁ」
泣いて泣いて、ずっと泣いて。
気づいたら森を抜け、大きな道に出た。
そこに馬車がやって来て――。
「ほぉ。獣人のガキじゃねえか。雌か?」
あの日――大切な人がいなくなったあの日に見た、嫌な臭いのする人間。あれと同じ臭いのする、別の人間に――。
ボクは捕まった。
嫌な臭いのする人間だけど、ご飯をくれる。
だから……もう……逃げなくてもいいか……。
そう思っていたの。
「きっさん俺の大事なもん奪っちょって、ただで済むと思うなや!」
そう叫んでボクを抱きしめた男の人。
大事……ボクのことを大事にしてくれるの?
その人はとてもいい匂いがして、とても暖かくて……。
ちょっとへんてこな恰好をしているけど、その人はとても強かった。
ボクを助けてくれた。
ご飯もくれたし、綺麗に洗ってもくれた。
離れたくない。
離したくない。
嫌われないように……捨てられないように……そしてボクを置いて死なないように……。
ボク、
頑張る。
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