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10:テイミング

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「これでよしっと。帰り道に薬草があって良かったわ」
『ンメェ』

 砦に戻る途中、火傷か、せめて怪我に効く薬草がないか探して鑑定しまくってやっと見つけたのは化膿止めに使える薬草だ。
 すりつぶして少量の水と混ぜ合わせてペースト状に。それを傷口に塗るだけ。
 包帯でもあればいいけど、ここにあるのは未洗濯の百年もののシーツだしなぁ。

「いいか。薬を舐めるんじゃないぞ」
『ンメ』

 クラッシュゴートは頷くが、こいつは人の言葉をどこまで理解できるのだろうか。
 モンスターだから動物よりは知能が高い。
 けどモンスターだって人の言葉を理解できない奴らも多いからなぁ。

 それに……こいつはモンスターだ。
 今はまだ子供のようだから中立、なのかな?
 でもいつ本能に目覚めるかも分からない。
 可愛いけど……自然に還す方がいいんだろうな。

「はぁ……」

 撫でてくれ──と頭を突き出すクラッシュゴートを見ると、ため息が出てしまう。
 モンスターじゃなくって、動物の山羊だったら良かったのになぁ。

「どうしたの、ディオン」
「ん、いやさ。こいつも一応モンスターだし、いつ本能に目覚めて俺たちを襲うかも分からないよなぁって考えてたらさ」
「そうねぇ……クラッシュゴートはそこまで狂暴なモンスターではないけれど、だからと言って友好的ではないし」

 友好的なモンスターというのは、非情に稀な存在だ。
 温厚なドラゴンは人との対話も可能だって聞くけど、そんなの……伝説級のドラゴンだけだ。
 
 モンスターと仲良くなるなんて、まず無理なんだよ。

「火傷が治ったら、元の場所に戻さなきゃなぁ」
「うぅん……でもこの子、親はどこにいるのかしら? 逸れただけなら親元に帰ればいいけど。でももし親がいないなら……」
「いないと、なにかマズい?」
「そりゃあ……この子、一匹だけじゃ生きていけないわよ。他のモンスターに捕食されるだけよきっと」

 捕食……食べられるってこと!?
 そ、そりゃそうか。
 まだ小さく、角も生えていない。
 クラッシュゴートは『クラッシュ』というだけ、頭の角を使った頭突きでなんでもかんでも破壊してしまう。
 その攻撃手段を、こいつはまだ持てていない。

 他のモンスターに食わせるために、自然に還すなんて……そんなの、嫌だな。

「テイミングスキルでもあれば違うんでしょうけど」
「……え。テイミング……テイミングか!」

 テイミング。モンスターを従属させるスキルのことだ。
 このスキルを使ってモンスターを使役する人の事を『モンスターテイマー』と呼ぶけど、職業限定スキルという訳じゃない。
 この世界のスキルは、職業ありきじゃないところがミソだ。

「な、なに? え? まさか、それも持ってるの!?」

 あ、やばっ。ど、どうしよう……。
 
 こそこそとステータスボードを開いて確認すると、獲得可能スキル一覧にテイミングはちゃんとあった。
 レベル1獲得に必要なポイントは20。

 スキルとしても、テイミングは難しい類に入る。
 その辺りも関係しているんだろうな。

 どうする……。このクラッシュゴートをテイミングしても、リカバリーでリセットすれば、テイミングも解除されるだろう。
 ってことはリカバリーは出来ない。
 テイミングスキルをゲットして、八時間以上経てばリセット事故もなくなるけど……。

 必要ポイント20か……。
 レベル1ではテイミングの成功率も低い。少なくも10ぐらい必要だろう。

「ディオン? もしかしてレベルが1か2しかないとか?」
「え、あ……」
「でもきっと大丈夫よ」
「え? 大丈夫って?」

 モンスターを手懐けるのは簡単なことじゃない。テイミングスキルを使って従属させようとしても、スキル自体に抵抗されるからだ。
 スキルの成功率はレベルと、術者とモンスターの力の差が関係していると言われている。

「まだ子供だから……とか?」
「いいえ。この子がもう既にディオンに懐いているからよ」
「俺に? 懐かれていたら、成功しやすいものなのかな」
「私の知り合いにテイマーがいたけど、そう聞いてるわ」

 本職の言葉か。
 なら……

「お前、俺のテイミングモンスターになるか? ここで一緒に暮らすために、俺のスキルを受け入れてくれるか?」

 そう尋ねると、仔クラッシュゴートは尻尾をぷりぷりしながら『メェー』っと鳴いた。

 消費ポイント20。リセットは出来ない。
 一度今の状態をリセットして──それから「スキルの使い方をおさらいするから待っててくれ」と言って、こっそりテイミングスキルをレベル1だけ取る。

 今夜は内職もなし。鑑定は──収穫したものは全部済んでいるから大丈夫だな。

 よし。

「えぇっと……"汝、我と契約したまえ"」

 その後の呪文は、目的によって自由に変えられるようだ。
 ならこれだな。

「"我の友として、我が魔力を受け入れよ"」
『ンメェー』

 突き出した右手の先から、赤い光がぽぉっと浮かぶ。
 その光を、仔クラッシュゴートは頭突きをするようにして跳ねて取り込んだ。

「友達、なのね」
「うん。なんか無理やり従わせたり、そういうのはね」
「ふふ。優しいのね、ディオンは」
「いやいや。敵対心剥き出しのモンスターなら、躊躇せず切り捨てるよ」

 そうじゃない相手だと、殺すことに躊躇いはあるかもしれないけど。

『メェーッ。メェメェー』
「え、な、なんだよ。なんだって」

 突然仔クラッシュゴートがすり寄って、何かせがむように鼻を擦りつけてくる。
 お腹空いたのか?

「名前じゃないかしら? テイミングスキルでモンスターを従属したら、直ぐに名前を付けてやるんだって聞いたわよ」
「名前? ふぅーん、名前かぁ。名前ねぇ……」
『メェーッ』

 ……クラッシュゴート……クラッシュ……クラ……クララ!?

「お前、女の子か?」
『ンン』

 違う、というように首を振る。

「男の子かしら?」
『メッ』

 尻尾ぷりぷり。

 男の子かぁ。

 男の子っぽい名前ねぇ……ゴー……ゴ……

「よし、ゴン! でどうだ?」
「え……ゴ、ゴン?」
『ンメェ』
「うんうん、気に入ってくれたか」

 ゴンは尻尾をぷりぷりして頭を擦りつけてきた。

「ゴン……も、もう少し何かないの?」
「強そうな名前だろ?」
『ンメェェ』
「……ま、まぁ本人がいいなら、それでいいんだけど」

 こういうのは直感で付けるべきなんだよ。

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