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7:ビギナーズラックじゃないラック

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 砦の北側を小一時間ほど歩くと渓谷に出た。
 砦の兵士もこの川で釣りをしていたのか、崖を削った階段がある。

「流れもそこそこあるし、結構深いようだから落ちないでね」
「了解。でも魚ってどうやって獲ってたんだい? 釣り竿だってないのに」
「あそこ」

 そう言ってセリスが指さしたのは、川沿いに点々とする大きな岩の一つだ。

「岩に川の水が当たって勢いよくしぶきを上げてるでしょ? 時々、その水と一緒に魚が跳ねるのよ」
「ふぅーん。その魚が岩場に打ち上げられているのを探してたってこと?」
「えぇ。それにこの辺りの川岸は石や岩だらけで、川沿いの隙間には水も流れているわ」

 隙間には小魚が体を休めるために入り込んだりしているそうだ。
 昨日の魚は隙間に入り込んだ魚だったと、彼女は言う。

「隙間によっては結構深さのある所もあって、大物も隠れていることがあるのよ」
「それで槍を?」
「そう。まぁ気づかれないように近づくのが難しから、じぃーっと待ってようかと思って」
「じゃあそっちはセリスに任せるよ。俺は釣りを試してみる」

 ポケットに入れていたピンを取り出し、糸の先に結ぶ。解けないようにしっかしろ結んで、あとは岩を捲って餌になる虫を探した。

「針なんてあったの?」
「あぁ、これブローチのピンだよ。だから針の返しもないだろ」
「ブローチを壊したの? 勿体ない」
「こんな場所では宝の持ち腐れだろ。お、いたいた……うぇ、キモチワル」

 釣り番組で、こんな風に石を捲って貝や虫を針に刺して釣りをするのを見たことあるけど。
 ダンゴムシを平たくしたような奴が何匹もいる。
 これを針に刺すのか……うえぇ。

 そうだ。スキルをセットしておこう。
 もちろん、『釣り』スキルだ。
 これもレベル20までの必要ポイントは1で、そこから2に増えるんだな。
 とりあえず釣りレベルを40まで上げて──すると、さっきまで気持ち悪いと思っていた虫が、ただの『魚の餌』にしか見えなくなった。
 これはいい。気持ち悪く感じないのなら触れる。

 針の先端を虫のどこに刺せばいいのか、それも赤いマーカーで教えてくれた。

「んー、これだと軽すぎて沈まないな」

 何故かそんなことも分かる。
 ブローチを重り代わりに使うか。

 石だけ取り外し、銀で出来た台座を糸に通して針の少し上で結ぶ。
 さて、どこに投げ込もうかな。

 川をぐるりと見渡すと、所々にピカピカと光るポイントが見えた。
 オンラインゲームなんかで採取場所が光るアレとそっくりだ。

「あそこか?」

 大きな岩陰が光っている。岸からも近いし、あそこを狙ってみよう。

「ほっ」

 釣りレベルのおかげだろうな。一発で狙い通りの場所に蜂を投げ込めた。
 流れが早い。糸も流されてしまう。
 すぅーっと流れていくと、どうしてか糸を上げなきゃいけない衝動に駆られる。
 で、巻き取って、また投げる。
 
 三投目。
 投げた瞬間にぐぃっと糸が引っ張られた。

「お!?」
「どうしたの?」
「かかったかも!」
「本当!?」

 セリスが駆けて来て隣に立つ。

「か、かかってる! 何かかかってるわよディオン! 頑張ってっ、頑張って!」
「ま、任せて! とはいえ、無理やり引っ張る訳にもいかないんだよね」

 針には返しがない。これがないと針が外れやすいんだ。
 マグロの一本釣りとかでは、返しのない針が使われる。理由は、釣りあげた時に外れやすくするため。
 
 一本釣りか……行けるかな?

 暴れる魚の動きに合わせて糸を少しづつ出していく。
 そして魚がくるりと方向を変えた瞬間──ここだ! と体が反応する。
 ぐんっと糸を引くと、バシャーンっと水面から魚が飛び出した。
 急いで糸を手繰り寄せるよ、魚は弧を描いて飛んで来た。

「大物だわ! 凄いっ。凄いわディオン!!」
「はは、やった! 今日はお腹いっぱい食えるぞ!」

 パシャパシャと跳ねる魚を、セリスが手にした槍で素早く止めを刺す。
 五〇センチオーバーの大物だ。昼と夜の分まであるだろう。
 出来ればもう二、三匹……いや、出来れば五匹は欲しい。
 魚を獲るために毎日ここまで通うのは大変だからな。

「セリス。魚の内臓とか……あー、頭だけ俺が切り落としたら、出来る?」
「顔を見なければ出来るわ! でも切り落としてくれたら手早くできるから、お願いしてもいい?」
「了解」

 剣を抜いて魚のエラの辺りで切り落とすと、頭だけ少し離れた場所に置いておく。もちろんこれも持って帰る。
 袋でも持って来れば良かったなぁ。





「大漁だったわねぇ。ディオンが釣りが得意で良かったわ」
「得意ってほどではないよ。たぶん誰も釣りをしないから、ここの魚たちが針に対して警戒しなかったんだろうね」

 スキルのおかげとは言いにくい。
 この世界の人はスキルポイントなんてないし、それを使ってスキルをいろいろ獲得できるんですなんて言っても理解されないだろう。
 しかも俺の場合、元々持ってるユニークスキルでセットとリセットがし放題なのだから。

 魚を六匹釣り上げ、口からエラに糸を通して俺が四、セリスが二、背負って帰る。
 砦に戻って来たのはお昼ごろだ。
 帰り道にセリスが言う『食べられる草』も十分採ってきた。

「これ、結構匂いがあるね。香草の類かな?」
「えぇ。高山に生えるハーブの類よ。良いものが見つかったわ。これを細かく切って、魚の身に挟んで焼くと香ばしくなるのよ」
「お、いいねぇ。それじゃあ俺は、残りの魚を干物にでも出来るように捌いておくよ」
「出来るの?」

 料理スキルを使うので出来ます。

「手伝いをしていたからね。まぁ素人に毛が生えた程度だけどさ」
「じゃあお昼用と夜用の仕込みは私がやっておくわ」

 めちゃくちゃご機嫌のセリスを見ていると、毎日本当にギリギリの食糧だったんだろうなぁと。

 さて、じゃあ三枚おろしにするか。
 ただ素人に毛が生えた程度と言ってしまったので、スキルレベルは10で止めておこう。

 釣った魚は最初の奴が一番の大物で、他は三〇から四〇センチ強。
 十分な大きさだ。
 
 まずはナイフの背で鱗を取って、それから腹を裂く。
 内臓を取ったら三枚おろしだ。
 スキルレベル10ってことで骨に結構身が残ったけど、このまま干して朝ごはん用のスープ具材にする。

 網もないし、直接天日干しするしかないな。
 日当たりのいい部屋にテーブルを運んで、綺麗に拭いてから魚を並べる。
 大きめの奴は三枚おろしに下のを更に半分にして、二人で二食分に。

「よしっと。これで四日分の食料は確保できたな。まぁ魚ばっかりってのもあれだけど」

 動物でもいればいいけど、セリスの話だとそっちは期待できそうにない。
 昼から周囲を探索してみよう。

 んー、さっきからいい匂いが漂ってるよなぁ。
 そう思っていると、

「ディオーン。お魚焼けたわよぉ」

 そう声がした。

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