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6:恨めしい魚
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「井戸が使えるのは助かる」
翌朝、勝手口から外に出てすぐ右手側には井戸がある。
「私が到着した時には、当然濁った水が溜まってたわ。何度も何度も濁った水を汲み上げたんだから」
「それは……ご苦労様ですっ」
そう言ってお辞儀をすると、セリスはくすくすと笑った。
井戸には滑車もなく、そこにあったのは桶でもない。
鍋だ。
「お、桶はね。使おうとしたら直ぐに壊れちゃったの。ずっと長いこと使ってないから、留め具が錆びてて」
「あぁ、あの残骸がそうか」
井戸の脇に板切れと、Cの形をした鉄のわっかが二つ落ちていた。
それで鍋か。しかも鍋に括りつけてるのはロープではなく、布だ。
「あの布は?」
「一階のベッドがたくさんあった部屋のシーツよ。ロープもぶちんって切れちゃったから」
鍋の持ち手の左右に布を巻きつけ、バランスを取っているんだな。
水を汲み上げたら、まずは顔を洗う。
それからお湯を沸かすために別の鍋へと移し替えた。
「竈に火を入れて沸かしておいて。私は食べられる草を摘み取ってくるから」
「この辺に生えているのかい?」
「少しだけね。お腹いっぱいにはならないけど、何も食べないよりはマシよ」
鍋を俺に預けてセリスが少しだけ下った先へと向かった。
朝食は草か。調味料もなさそうだしなぁ。
そうだ。昨日の魚!
食卓にはお頭が上がってなかった。骨もだ。
厨房に残っているのかな?
竈に薪をくべ、火をつけてから辺りを確認する。
するとテーブルの上におかしなものが置いてあった。
薪だ。しかも四角く積み上げている。
中に何かあるのか?
と思って薪を上から取っていくと、魚の骨とお頭があった。
「何かの呪い?」
どうしよう……調理してもいいものだろうか?
セリスが戻って来るのを待って、彼女に確認してからにしよう。
「み、見つけてしまったのね」
「まずかった?」
左手に何本もの草を握ったセリスが、戻って早々嫌そうな顔でテーブルの上を睨んだ。
「まずいっていうか……その……目が……怖いじゃない? 恨めしそうにこっちを見るのよ」
「……あぁ、それで薪で囲っていたのか」
「あ、あとで捨てるつもりだったのよっ」
「えぇ!? す、捨てるなんて勿体ないっ。お頭には身だってついてるし、骨の周りにだってまだ残ってるじゃないか! それにいい出汁が出るだろうっ」
前世で特に料理をしていたという訳じゃないが、このぐらいは常識だ。
だけどセリスは明らかに嫌そうな顔になる。
「もしかして魚のお頭が食べられるって……知らない?」
「し、知ってるわよっ! でも気持ち悪いものは気持ち悪いんだから仕方ないじゃない」
「ちゃんと身だけ解してやるよ。それならいいだろ?」
もとより俺も目玉を食べようとは思わない。
目玉も美味しいとは聞くけど、さすがにちょっと抵抗はある。
「ほ、本当? 目玉を入れたりしない?」
「しないしない。俺も目玉は食べないから」
「ぜ、絶対よ。身だけ解してね?」
「分かってる分かってる。じゃあこの二つ、スープの具材にするよ。葉っぱは?」
「ん、刻んでから一緒に入れて」
よしよし。任せなさい。
魚と目を合わせたくない彼女が二階気と上がっていくと、その隙にステータスボードを開いて料理スキルを獲得。
レベルにしてっと。
お頭と骨を沸騰したお湯の中に投入して、それからセリスが持って来た草を──
【まだです】
と吹き出しが現れる。
まだですって、草を入れるのは早いってことか。
何度か投入しようとしては【まだです】と出て、先にお頭の身が解れてきてしまった。
薪を細く切っただけの菜箸で身を解し、ぷかぁーっと浮いた目玉はつまんで窓からぽい捨てに。
骨にこびりついている身もしっかりこそぎ落して……お、やっと草投入の許可が出た。
ふぅん。料理スキルってアシスト機能みたいなものか。
まぁ料理らしい料理でもないしな。真価は発揮しないか。
そうだ。今のうちにスカーフの糸を解いておこう。
スキルをセットしてしゅるるっと一気にひぱって解いて行く。
解いた所でスープが完成。
歯ごたえを残すためなのか、草は完成直前投入がお勧めだったんだな。
「セリス、出来たぞー」
「分かったわ」
彼女が二階から下りてくる音が聞こえたが、厨房の前でその音が止まる。
振り返ると、じぃーっとこちらを見つめる彼女の姿が。
「お頭も目玉ももうないから」
「そ、そう」
ゆっくり、怯えるように厨房へと入って来ると、木のお皿に盛ったスープを見て安堵の表情を浮かべた。
よっぽど怖いんだな……。
それでよく魚なんて獲ってくる気になったもんだ。
「いただきます」
「はい、どうぞ」
魚は大きくはなかったが、身は結構残っていた。
骨も一緒に煮込んだし、出汁が少し出ていたので薄味のスープとしては十分だ。
草は少し苦みがあったけど、不味いほどでもない。
空腹を満たすことを優先にし、全部ぺろりと平らげた。
「はぁ、美味しかった。ディオンは料理上手なのね」
「え、いや……そんなことないさ。ただ鍋にぶちこんだだけだしね。それより今日も魚を獲りに行くんだろ?」
「えぇ。弓でもあればたまに見る兎を仕留めるんだけど……それもないからまだ確実に獲れそうな魚を狙うしかないの」
それで目が怖い魚も、仕方なしに獲りに行くのか。
ブローチは釣り針状にしたまま。糸は三等分にし、裁縫スキルを思い切って40まで上げてささっとよりよりする。
出来上がった糸は絡まないよう、剣の鞘にぐるぐる巻きにした。
針はブローチと一緒に、残りのスカーフに包んでズボンのポケットだ。
いつの間にか自分の服に着替えていたセリスに、俺の上着はそのまま使って貰う。
俺は壁に掛けてあった外套を手に外へ出て、埃を払ってから──す、少し破れたけどまぁいいか。
それを羽織って、いざ決戦の舞台へ出発だ!
翌朝、勝手口から外に出てすぐ右手側には井戸がある。
「私が到着した時には、当然濁った水が溜まってたわ。何度も何度も濁った水を汲み上げたんだから」
「それは……ご苦労様ですっ」
そう言ってお辞儀をすると、セリスはくすくすと笑った。
井戸には滑車もなく、そこにあったのは桶でもない。
鍋だ。
「お、桶はね。使おうとしたら直ぐに壊れちゃったの。ずっと長いこと使ってないから、留め具が錆びてて」
「あぁ、あの残骸がそうか」
井戸の脇に板切れと、Cの形をした鉄のわっかが二つ落ちていた。
それで鍋か。しかも鍋に括りつけてるのはロープではなく、布だ。
「あの布は?」
「一階のベッドがたくさんあった部屋のシーツよ。ロープもぶちんって切れちゃったから」
鍋の持ち手の左右に布を巻きつけ、バランスを取っているんだな。
水を汲み上げたら、まずは顔を洗う。
それからお湯を沸かすために別の鍋へと移し替えた。
「竈に火を入れて沸かしておいて。私は食べられる草を摘み取ってくるから」
「この辺に生えているのかい?」
「少しだけね。お腹いっぱいにはならないけど、何も食べないよりはマシよ」
鍋を俺に預けてセリスが少しだけ下った先へと向かった。
朝食は草か。調味料もなさそうだしなぁ。
そうだ。昨日の魚!
食卓にはお頭が上がってなかった。骨もだ。
厨房に残っているのかな?
竈に薪をくべ、火をつけてから辺りを確認する。
するとテーブルの上におかしなものが置いてあった。
薪だ。しかも四角く積み上げている。
中に何かあるのか?
と思って薪を上から取っていくと、魚の骨とお頭があった。
「何かの呪い?」
どうしよう……調理してもいいものだろうか?
セリスが戻って来るのを待って、彼女に確認してからにしよう。
「み、見つけてしまったのね」
「まずかった?」
左手に何本もの草を握ったセリスが、戻って早々嫌そうな顔でテーブルの上を睨んだ。
「まずいっていうか……その……目が……怖いじゃない? 恨めしそうにこっちを見るのよ」
「……あぁ、それで薪で囲っていたのか」
「あ、あとで捨てるつもりだったのよっ」
「えぇ!? す、捨てるなんて勿体ないっ。お頭には身だってついてるし、骨の周りにだってまだ残ってるじゃないか! それにいい出汁が出るだろうっ」
前世で特に料理をしていたという訳じゃないが、このぐらいは常識だ。
だけどセリスは明らかに嫌そうな顔になる。
「もしかして魚のお頭が食べられるって……知らない?」
「し、知ってるわよっ! でも気持ち悪いものは気持ち悪いんだから仕方ないじゃない」
「ちゃんと身だけ解してやるよ。それならいいだろ?」
もとより俺も目玉を食べようとは思わない。
目玉も美味しいとは聞くけど、さすがにちょっと抵抗はある。
「ほ、本当? 目玉を入れたりしない?」
「しないしない。俺も目玉は食べないから」
「ぜ、絶対よ。身だけ解してね?」
「分かってる分かってる。じゃあこの二つ、スープの具材にするよ。葉っぱは?」
「ん、刻んでから一緒に入れて」
よしよし。任せなさい。
魚と目を合わせたくない彼女が二階気と上がっていくと、その隙にステータスボードを開いて料理スキルを獲得。
レベルにしてっと。
お頭と骨を沸騰したお湯の中に投入して、それからセリスが持って来た草を──
【まだです】
と吹き出しが現れる。
まだですって、草を入れるのは早いってことか。
何度か投入しようとしては【まだです】と出て、先にお頭の身が解れてきてしまった。
薪を細く切っただけの菜箸で身を解し、ぷかぁーっと浮いた目玉はつまんで窓からぽい捨てに。
骨にこびりついている身もしっかりこそぎ落して……お、やっと草投入の許可が出た。
ふぅん。料理スキルってアシスト機能みたいなものか。
まぁ料理らしい料理でもないしな。真価は発揮しないか。
そうだ。今のうちにスカーフの糸を解いておこう。
スキルをセットしてしゅるるっと一気にひぱって解いて行く。
解いた所でスープが完成。
歯ごたえを残すためなのか、草は完成直前投入がお勧めだったんだな。
「セリス、出来たぞー」
「分かったわ」
彼女が二階から下りてくる音が聞こえたが、厨房の前でその音が止まる。
振り返ると、じぃーっとこちらを見つめる彼女の姿が。
「お頭も目玉ももうないから」
「そ、そう」
ゆっくり、怯えるように厨房へと入って来ると、木のお皿に盛ったスープを見て安堵の表情を浮かべた。
よっぽど怖いんだな……。
それでよく魚なんて獲ってくる気になったもんだ。
「いただきます」
「はい、どうぞ」
魚は大きくはなかったが、身は結構残っていた。
骨も一緒に煮込んだし、出汁が少し出ていたので薄味のスープとしては十分だ。
草は少し苦みがあったけど、不味いほどでもない。
空腹を満たすことを優先にし、全部ぺろりと平らげた。
「はぁ、美味しかった。ディオンは料理上手なのね」
「え、いや……そんなことないさ。ただ鍋にぶちこんだだけだしね。それより今日も魚を獲りに行くんだろ?」
「えぇ。弓でもあればたまに見る兎を仕留めるんだけど……それもないからまだ確実に獲れそうな魚を狙うしかないの」
それで目が怖い魚も、仕方なしに獲りに行くのか。
ブローチは釣り針状にしたまま。糸は三等分にし、裁縫スキルを思い切って40まで上げてささっとよりよりする。
出来上がった糸は絡まないよう、剣の鞘にぐるぐる巻きにした。
針はブローチと一緒に、残りのスカーフに包んでズボンのポケットだ。
いつの間にか自分の服に着替えていたセリスに、俺の上着はそのまま使って貰う。
俺は壁に掛けてあった外套を手に外へ出て、埃を払ってから──す、少し破れたけどまぁいいか。
それを羽織って、いざ決戦の舞台へ出発だ!
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