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『冥府の女神……デストラ……』
『ソディアよ、ミタマの後ろに隠れておれ』
魔王とアブソディラスの、僅かに震えたような声が聞こえる。
その声に反応してか、祭壇前に佇む幼い少女がピクリと動く。
見た目は5、6歳の、少女というよりは幼女だ。
真っ直ぐ伸びた銀色の髪、そして血を思わせる真っ赤な瞳を持つその子は、不敵な笑みを浮かべてこちらを見ていた。
『ミタマよ、容姿に惑わされてはいかん。フルパワーで魔法をぶっ放すんじゃ』
『ミタマ君。さきほどの魔法を、もう一度……今度はもっと魔力を練り込んで唱えるんだよ。大丈夫。私も全魂を使い切る覚悟で防御結界を張るから』
「お、おい魅霊。本当にあのチビが女神なのか?」
樫田の問いに俺は黙って頷く。
疑心暗鬼ではあるけれど、樫田だって分かっているはずだ。
目の前の幼い子供が持つ、底知れない魔力を。
アンデッドたちにも感じているのだろう。
誰もが縮こまり、スケルトンの骨はカタカタと音を鳴らしている。
恐怖しているのだ。
それが相手にも伝わったのだろう。
女神デストラは口元を吊り上げ、白い歯を覗かせる。
白くて細い腕を腰にやり、やや仰け反ってから口を開いた。
「妾は――えぇっと……冥府の女神ぃ、デストラじゃ!」
・ ・ ・ 。
「妾をぉ……なんだっけ?」
・ ・ ・ 。
「あ、そうだ! 妾をぉ、ふっかちゅしゃせてくれたのはぁ、誰じゃ?」
そう言って、幼女はこてんっと頭を傾ける。
なんだ……これ……思ってたんとかなり違う。
こんなの……こんなの……倒せるわけがない!
『ミ、ミタマよ、惑わされるなっ』
『そ、そうです。可愛いお子様と見せかけ、油断させる作戦かもしれません!』
「二人とも、声が裏返ってるじゃないか!」
「やだ、可愛い……レイジ君、この子が本当に?」
「そうとしか言えない状況だろ」
そう返事をしたものの、俺もちょっと不安になってきた。
幼女は幼女で「ねぇ誰? だーれ?」と大きな瞳を更に大きくして、期待したような眼差しを向けてきている。
誰と言われても……復活させようとした奴はここには居ない訳で。
すると幼女神デストラが、何かを思い出したかのように「あっ」と声を上げた。
「妾を復活させてくりぇたから、願い事をひとつかなえてあげりゅよ?」
と、再びこてんと頭を傾ける。
だ、だめだ。幼女、破壊力強すぎる。
全員が同じ衝動なのか、幼女神デストラから視線を背け、何かに必死に耐えているようだ。
そしてふと気づくと、祭壇前にデストラが居ない!?
どこだ! まさかアブソディラスの言う通り、罠だったのか!?
と思った瞬間、服をくいくいと引っ張る者がいた。
「どうしたの?」
見下ろすと、幼女が足元に居た。
「デストラ!?」
「はい!」
思わず叫んだ俺の声に、幼女神は元気よく返事をして、ついでに右手まで上げている。
もう、無理……これ絶対倒せない。
それに、この子から邪な気配はまったく感じられない。
邪神だなんて思えないよ。
『あぁぁ、私の可愛いデストラ』
唐突に聞こえた女性の声。そして眩い光は、ひとりの女性を形どった。
「女神リトラ様!?」
「姉さまぁーっ」
祭壇から駆け出した幼女が、ぽてっとこける。
『デ、デストラちゃん!?』
「……ふぇ……ふえぇ~、姉さまぁぁぁ」
泣いた!?
リトラ様も駆け出し、膝をついて泣くデストラを抱き起したよ。
『さぁさぁ泣かないで。痛くない魔法のおまじない、しましょうねぇ』
「ぇぐ……あぃ」
どこからどう見ても、「痛い痛いの飛んでいけ~」なことをしている女神リトラ様。
いったいぜんたい、どうなっているんだ?
『ミタマ様、ありがとうございます』
「え? いや、なんでお礼を?」
『この子が受肉した時、一番傍に居たのは貴方様です。故にこの子は貴方様の影響を受け、本来の姿を取り戻すことが出来ました。ちょっと……いえ、かなり幼児化していますか』
「妾ねぇー、じゅっとお願いしてたのぉー」
デストラは俺を見つめ、にっこり笑って話をした。
邪な神々に誑かされ、闇の陣営に墜ちた後――心のどこかでは後悔の念があったようだ。
「姉さまはねぇ、たくさんの人からねぇ、信仰されてたのぉ。それが妾はぁ、うらのやまがしいってねぇ、思ってて」
裏の山がしい?
『あ、今のは羨ましいですわ』
「そ、そうですか」
にこにこ顔の女神リトラ様の通訳で、デストラの言わんとすることは分かった。
姉を羨ましがる気持ちに付け込まれたというのもあったようだ。その上人間たちが彼女を不吉な女神と思い込むようになったから、余計に彼女の心は荒んでいき――。
闇の陣営に加わった彼女は、結果として光の陣営に敗北し、迷宮深くに封印された――と。
「でも……妾は……妾は……ずっと姉さまにごめんねしたかったのぉ。ふぇぇ~ん」
『まぁまぁデストラ』
「姉さまにぃー、ごめんねする勇気なかったしぃー、ここから出れなかったからずっとお願いしたのぉ」
自分を復活させる者が、善人でありますように――と。
彼女は二面性を持つ女神だ。だからこそ、復活させた際に傍に居る者に影響を受けて降臨する。
ヴァン王子や相田が傍に居れば、今この世界の人々が恐れる冥府の女神デストラとして復活していただろう。
だけど俺たちだけがここに居たから、世界の平和を望む者だけだったから、彼女は死者の魂を見守る女神デストラとして復活できたと語る。
「だからねぇー、お礼に願い事を叶えてあげりゅのー」
『ソディアよ、ミタマの後ろに隠れておれ』
魔王とアブソディラスの、僅かに震えたような声が聞こえる。
その声に反応してか、祭壇前に佇む幼い少女がピクリと動く。
見た目は5、6歳の、少女というよりは幼女だ。
真っ直ぐ伸びた銀色の髪、そして血を思わせる真っ赤な瞳を持つその子は、不敵な笑みを浮かべてこちらを見ていた。
『ミタマよ、容姿に惑わされてはいかん。フルパワーで魔法をぶっ放すんじゃ』
『ミタマ君。さきほどの魔法を、もう一度……今度はもっと魔力を練り込んで唱えるんだよ。大丈夫。私も全魂を使い切る覚悟で防御結界を張るから』
「お、おい魅霊。本当にあのチビが女神なのか?」
樫田の問いに俺は黙って頷く。
疑心暗鬼ではあるけれど、樫田だって分かっているはずだ。
目の前の幼い子供が持つ、底知れない魔力を。
アンデッドたちにも感じているのだろう。
誰もが縮こまり、スケルトンの骨はカタカタと音を鳴らしている。
恐怖しているのだ。
それが相手にも伝わったのだろう。
女神デストラは口元を吊り上げ、白い歯を覗かせる。
白くて細い腕を腰にやり、やや仰け反ってから口を開いた。
「妾は――えぇっと……冥府の女神ぃ、デストラじゃ!」
・ ・ ・ 。
「妾をぉ……なんだっけ?」
・ ・ ・ 。
「あ、そうだ! 妾をぉ、ふっかちゅしゃせてくれたのはぁ、誰じゃ?」
そう言って、幼女はこてんっと頭を傾ける。
なんだ……これ……思ってたんとかなり違う。
こんなの……こんなの……倒せるわけがない!
『ミ、ミタマよ、惑わされるなっ』
『そ、そうです。可愛いお子様と見せかけ、油断させる作戦かもしれません!』
「二人とも、声が裏返ってるじゃないか!」
「やだ、可愛い……レイジ君、この子が本当に?」
「そうとしか言えない状況だろ」
そう返事をしたものの、俺もちょっと不安になってきた。
幼女は幼女で「ねぇ誰? だーれ?」と大きな瞳を更に大きくして、期待したような眼差しを向けてきている。
誰と言われても……復活させようとした奴はここには居ない訳で。
すると幼女神デストラが、何かを思い出したかのように「あっ」と声を上げた。
「妾を復活させてくりぇたから、願い事をひとつかなえてあげりゅよ?」
と、再びこてんと頭を傾ける。
だ、だめだ。幼女、破壊力強すぎる。
全員が同じ衝動なのか、幼女神デストラから視線を背け、何かに必死に耐えているようだ。
そしてふと気づくと、祭壇前にデストラが居ない!?
どこだ! まさかアブソディラスの言う通り、罠だったのか!?
と思った瞬間、服をくいくいと引っ張る者がいた。
「どうしたの?」
見下ろすと、幼女が足元に居た。
「デストラ!?」
「はい!」
思わず叫んだ俺の声に、幼女神は元気よく返事をして、ついでに右手まで上げている。
もう、無理……これ絶対倒せない。
それに、この子から邪な気配はまったく感じられない。
邪神だなんて思えないよ。
『あぁぁ、私の可愛いデストラ』
唐突に聞こえた女性の声。そして眩い光は、ひとりの女性を形どった。
「女神リトラ様!?」
「姉さまぁーっ」
祭壇から駆け出した幼女が、ぽてっとこける。
『デ、デストラちゃん!?』
「……ふぇ……ふえぇ~、姉さまぁぁぁ」
泣いた!?
リトラ様も駆け出し、膝をついて泣くデストラを抱き起したよ。
『さぁさぁ泣かないで。痛くない魔法のおまじない、しましょうねぇ』
「ぇぐ……あぃ」
どこからどう見ても、「痛い痛いの飛んでいけ~」なことをしている女神リトラ様。
いったいぜんたい、どうなっているんだ?
『ミタマ様、ありがとうございます』
「え? いや、なんでお礼を?」
『この子が受肉した時、一番傍に居たのは貴方様です。故にこの子は貴方様の影響を受け、本来の姿を取り戻すことが出来ました。ちょっと……いえ、かなり幼児化していますか』
「妾ねぇー、じゅっとお願いしてたのぉー」
デストラは俺を見つめ、にっこり笑って話をした。
邪な神々に誑かされ、闇の陣営に墜ちた後――心のどこかでは後悔の念があったようだ。
「姉さまはねぇ、たくさんの人からねぇ、信仰されてたのぉ。それが妾はぁ、うらのやまがしいってねぇ、思ってて」
裏の山がしい?
『あ、今のは羨ましいですわ』
「そ、そうですか」
にこにこ顔の女神リトラ様の通訳で、デストラの言わんとすることは分かった。
姉を羨ましがる気持ちに付け込まれたというのもあったようだ。その上人間たちが彼女を不吉な女神と思い込むようになったから、余計に彼女の心は荒んでいき――。
闇の陣営に加わった彼女は、結果として光の陣営に敗北し、迷宮深くに封印された――と。
「でも……妾は……妾は……ずっと姉さまにごめんねしたかったのぉ。ふぇぇ~ん」
『まぁまぁデストラ』
「姉さまにぃー、ごめんねする勇気なかったしぃー、ここから出れなかったからずっとお願いしたのぉ」
自分を復活させる者が、善人でありますように――と。
彼女は二面性を持つ女神だ。だからこそ、復活させた際に傍に居る者に影響を受けて降臨する。
ヴァン王子や相田が傍に居れば、今この世界の人々が恐れる冥府の女神デストラとして復活していただろう。
だけど俺たちだけがここに居たから、世界の平和を望む者だけだったから、彼女は死者の魂を見守る女神デストラとして復活できたと語る。
「だからねぇー、お礼に願い事を叶えてあげりゅのー」
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