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魔族の都は国名と同じディストレト。
ニライナに向かっていた商人一行から馬を一頭買い、馬で移動すること六日目。
ようやく都に到着はしたけれど……。
「あちこち帝国兵だらけだな」
「他人の国に土足で踏み込んできて、未だに居ついているなんて。許せないわっ!」
都の人々もほとんどが逃げたようだ。
それでも僅かには残っているようだけど……あまり良い扱いはされていないように見える。
『帝国兵を追い払いますか?』
ギャデラックは簡単そうに言うけど、帝国兵だって数百いるだろう……あぁ、うん。この前の平原での戦闘を見れば、わりと簡単かも?
「じゃあこの国の住人に被害が出ないよう、気を付けてやってくれる?」
『お任せください』
『弱気者を救済するのも騎士の務め』
『彼らはおよそ騎士とは思えぬ非道さ。決して許せるものではありませんっ』
そう言うと、エスクェード騎士団が俺の影からどっと踊りでる。
『レイジ様は魔王殿をお探しください』
「え……でも倒されたって」
『ボクたちみたいになってると思いますよ』
とコラッダ。
……また地縛霊か……。
帝国兵以外は少ない。
なのでアンデッド軍団は影から出てきて我が物顔で闊歩しはじめた。
まぁいいか。
「じゃあソディア。魔王の所まで案内してくれる?」
「魔王様というか、お城の位置は知っているからそこまでなら案内できるわ」
「よし、行こう」
都を歩きながらふとあることに気づいた。
敵国に侵略されたら、建物が壊されたりって普通なんじゃないかな。
この都は特に壁で囲われている訳でもなく、街並みも至って綺麗なままだ。
暫く歩いて、やっぱりどこもこれといって破壊された様子もなく王城へと到着。
もちろん、出会う帝国兵たちは、行進するアンデッド軍団に蹂躙されたのは言うまでもない。あとソディアの逆鱗にもバッチリ触れているので――そこもまぁ……うん、ソディアは怒らせてはダメだと再認識したよ。
『問題はあ奴がどこにおるかじゃのう』
「討たれたんだし、王の間とかそんな所じゃないかな?」
『いやぁ、たぶんおらんのぉ』
「なんで?」
「魔王様は日頃から王城にはいらっしゃらないのよ」
と、アブソディラスとの会話を通訳して貰っていたソディアが言う。
なんでも彼は、王城に居ることを嫌う王様だったそうだ。
『じっとしておるのが嫌で、畑を耕すことを趣味にしておったからのぉ』
「なにその隠居生活……」
「国の祭りごとは、実質宰相様とかが行っていたの。魔王様はその絶対的なお力で、国を守り、緑豊かな大地を維持していただけにすぎないわ」
「緑を維持……」
橋を一本渡ったニライナやドーラムは痩せた土地だった。
もちろん国の内陸に行けば緑も豊かであったけれど。
――こっちだよ。
「どっちだ?」
「え? どうしたの?」
『なんじゃ?』
「え?」
「『え?』」
――こっちこっち。上に上がってきてくれるかな?
……なんの声だこれ!?
物静かな、おっとりした感じの男の声が聞こえる。
でも聞こえているのは俺だけ。アブソディラスにすら聞こえていないって、どういうこと?
それに、何故か無性に上に上りたい衝動が。
ついふらふら~っと誘われるように城へと入り、階段を上っていく。
「え、レイジくん!? ちょっと、どこ行くの?」
『なんじゃ、来たことでもあるのかの?』
『帝国兵っす! おらぁーっ』
「ひっ。なんだこいつ――げふぁ」
初めて来たはずなのに、何故か迷うことなく城の屋上へ。
そこは――何故か森だった。
「なんで城の上に森が?」
『土を敷いておりますなぁ。森と言うても、草木を栽培しているだけでしょう』
ヨサクじいさんはそう言うけれど、お城の屋上全部が植物だらけなんだ。木だってしっかり生えているし。
『レイジ様~。奥のほうにお家がありますよぉ』
「あっちのほう?」
正面を指差すと、チェルシーがニッコリ笑って頷く。
――そうそうこっち。遠慮せずどうぞ。あ、紫色の花を咲かせた蔓には触らないようにね。かぶれるから。
「――だそうだ」
「知ってるわそれ。汁が手に付くと、すっごく痒いのよ」
そんな会話をしながら奥へと進む。
屋上に出る扉の前にアンデッド数人と竜牙兵を残して。
草木を掻き分け進んだ先に、チェルシーの言う家はあった。
家というよりは小屋?
――さぁさぁ入って入って。ここにお客様を招くのは、久しぶりだぁ。
……じゃあこの声は魔王なんだろうか。
魔王――世界を支配しようとする、ゲームではラスボス確定。
だけど聞こえてくる声は、どこかうきうきしているような、そんなのが伝わってくる。
というか死んでるんですよね!?
「は、入ります」
「どうぞ」
あれ?
今、普通に声がした。
ソディアを見ると、彼女にも聞こえたようで俺を見ている。
でも、聞こえてきた声は女性の物で。
かくして扉を開けそこに居たのは――。
「ようこそいらっしゃいました」
『やぁ、待っていたよ』
数人の男女と、半透明で頭に角のある優しく微笑む男の幽霊……だった。
ニライナに向かっていた商人一行から馬を一頭買い、馬で移動すること六日目。
ようやく都に到着はしたけれど……。
「あちこち帝国兵だらけだな」
「他人の国に土足で踏み込んできて、未だに居ついているなんて。許せないわっ!」
都の人々もほとんどが逃げたようだ。
それでも僅かには残っているようだけど……あまり良い扱いはされていないように見える。
『帝国兵を追い払いますか?』
ギャデラックは簡単そうに言うけど、帝国兵だって数百いるだろう……あぁ、うん。この前の平原での戦闘を見れば、わりと簡単かも?
「じゃあこの国の住人に被害が出ないよう、気を付けてやってくれる?」
『お任せください』
『弱気者を救済するのも騎士の務め』
『彼らはおよそ騎士とは思えぬ非道さ。決して許せるものではありませんっ』
そう言うと、エスクェード騎士団が俺の影からどっと踊りでる。
『レイジ様は魔王殿をお探しください』
「え……でも倒されたって」
『ボクたちみたいになってると思いますよ』
とコラッダ。
……また地縛霊か……。
帝国兵以外は少ない。
なのでアンデッド軍団は影から出てきて我が物顔で闊歩しはじめた。
まぁいいか。
「じゃあソディア。魔王の所まで案内してくれる?」
「魔王様というか、お城の位置は知っているからそこまでなら案内できるわ」
「よし、行こう」
都を歩きながらふとあることに気づいた。
敵国に侵略されたら、建物が壊されたりって普通なんじゃないかな。
この都は特に壁で囲われている訳でもなく、街並みも至って綺麗なままだ。
暫く歩いて、やっぱりどこもこれといって破壊された様子もなく王城へと到着。
もちろん、出会う帝国兵たちは、行進するアンデッド軍団に蹂躙されたのは言うまでもない。あとソディアの逆鱗にもバッチリ触れているので――そこもまぁ……うん、ソディアは怒らせてはダメだと再認識したよ。
『問題はあ奴がどこにおるかじゃのう』
「討たれたんだし、王の間とかそんな所じゃないかな?」
『いやぁ、たぶんおらんのぉ』
「なんで?」
「魔王様は日頃から王城にはいらっしゃらないのよ」
と、アブソディラスとの会話を通訳して貰っていたソディアが言う。
なんでも彼は、王城に居ることを嫌う王様だったそうだ。
『じっとしておるのが嫌で、畑を耕すことを趣味にしておったからのぉ』
「なにその隠居生活……」
「国の祭りごとは、実質宰相様とかが行っていたの。魔王様はその絶対的なお力で、国を守り、緑豊かな大地を維持していただけにすぎないわ」
「緑を維持……」
橋を一本渡ったニライナやドーラムは痩せた土地だった。
もちろん国の内陸に行けば緑も豊かであったけれど。
――こっちだよ。
「どっちだ?」
「え? どうしたの?」
『なんじゃ?』
「え?」
「『え?』」
――こっちこっち。上に上がってきてくれるかな?
……なんの声だこれ!?
物静かな、おっとりした感じの男の声が聞こえる。
でも聞こえているのは俺だけ。アブソディラスにすら聞こえていないって、どういうこと?
それに、何故か無性に上に上りたい衝動が。
ついふらふら~っと誘われるように城へと入り、階段を上っていく。
「え、レイジくん!? ちょっと、どこ行くの?」
『なんじゃ、来たことでもあるのかの?』
『帝国兵っす! おらぁーっ』
「ひっ。なんだこいつ――げふぁ」
初めて来たはずなのに、何故か迷うことなく城の屋上へ。
そこは――何故か森だった。
「なんで城の上に森が?」
『土を敷いておりますなぁ。森と言うても、草木を栽培しているだけでしょう』
ヨサクじいさんはそう言うけれど、お城の屋上全部が植物だらけなんだ。木だってしっかり生えているし。
『レイジ様~。奥のほうにお家がありますよぉ』
「あっちのほう?」
正面を指差すと、チェルシーがニッコリ笑って頷く。
――そうそうこっち。遠慮せずどうぞ。あ、紫色の花を咲かせた蔓には触らないようにね。かぶれるから。
「――だそうだ」
「知ってるわそれ。汁が手に付くと、すっごく痒いのよ」
そんな会話をしながら奥へと進む。
屋上に出る扉の前にアンデッド数人と竜牙兵を残して。
草木を掻き分け進んだ先に、チェルシーの言う家はあった。
家というよりは小屋?
――さぁさぁ入って入って。ここにお客様を招くのは、久しぶりだぁ。
……じゃあこの声は魔王なんだろうか。
魔王――世界を支配しようとする、ゲームではラスボス確定。
だけど聞こえてくる声は、どこかうきうきしているような、そんなのが伝わってくる。
というか死んでるんですよね!?
「は、入ります」
「どうぞ」
あれ?
今、普通に声がした。
ソディアを見ると、彼女にも聞こえたようで俺を見ている。
でも、聞こえてきた声は女性の物で。
かくして扉を開けそこに居たのは――。
「ようこそいらっしゃいました」
『やぁ、待っていたよ』
数人の男女と、半透明で頭に角のある優しく微笑む男の幽霊……だった。
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