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 王都に到着したのはドレスティンを出発した翌々日の昼過ぎだ。
 この辺りを知る冒険者ゴーストによると、馬車での移動というのも考えると、昨日のうちに到着してもおかしくない距離だという。
 実際、アリアン王女も馬車の中で愚痴をこぼしていた。

「もっと早く走れませんの?」

 ――と。
 で、そのたびにジャスラン隊長が「移動を速めて馬が疲れたところを襲われれば、逃げ切ることも出来なくなりますよ」と諭しのろのろ走行に。
 その辺り、俺たちにはよくわからないので従うしかない。
 もちろん王女は不満タラタラだったけどな。

「まぁこうして無事到着したんだ。よしとしよう」
『うむ。あとは褒美とやらを貰って、さっさとリアラの住む町へ行くぞい』
「いや、リアラさんは……というか、褒美貰う気満々なんだな」

 アブソディラスが活躍した訳ではない。なのに我がごとのように、何が貰えるかのぉとさっきから五月蠅い。
 ドラゴンなんだから、そういうのに興味なさそうなんだけどなぁ。

 アリアン王女と親衛隊隊長ジャスランは先に王へと謁見し、俺たちはその後ということに。
 応接室というか客室というか豪華なホテルのスイートルーム?
 そんな部屋で待つこと数十分。

「遅いなぁ」
「そ、そうね。で、でも王様と会うんですもの。一介の冒険者が、そうそう会えるような方じゃないんだから、仕方ないわよ」

 と、一番そわそわしているソディアがそう話す。

「緊張してる?」

 と尋ねると、真っ赤な顔で「してないもんっ」と。
 してる。もの凄く緊張してるだろ。
 唇を尖らせて「してないもん」と言い張るのも、なんとも可愛らしい。
 普段はキリっとしているけど、たまにこういう表情をするからなぁ。

 っと、緊張している訳じゃないけど、便所に行きたくなった。
 謁見中に行きたくなるのはまずいよな。

「お、俺……ちょっとトイレに」

 そう言って部屋を出ようとすると、ソディアが――。

「待って。私も行くっ」

 ――と。

『僕は……留守番してますね』

 うん、まぁコラッダは便所なんて行く必要ないもんな。
 しかし、まさか女の子と一緒にトイレとは。もちろん日本のトイレみたく、男女別々の造りではあるけれど。

 客間の外にいた兵士にトイレの場所を聞き、二人でお城観光をしつつ目的のトイレへと向かう。

「俺、本物のお城に入ったのは初めてだ」
「偽物ならあるの?」

 というソディアの質問に、そもそも偽物が何なのか悩んだ。
 某テーマパークのあれは、偽物に入るのだろうか?
 いや、行ったことないんだけどさ。

 トイレに到着して別れた後、案の定先に出てきて彼女を待つことに。
 それにしても……長い。
 女のトイレは長いって聞くけど、本当に長い。
 十分以上経ったんじゃないか?

 あ、もしかして。
 王様に会う前に、気合入れてめかしこんでいる、とか?
 じゃ、じゃあ、俺もちょっと……寝ぐせでもないか確認しておこう。

 そう思って再びトイレへと入ろうとしたとき――。

『――誰か……私の声が……聞こえぬか』

 どこからか風に乗ってそんな声が聞こえてきた。
 その声がこの世ならざる者の声であることは、直ぐにわかった。

 それほど近くではないが、遠くでもない。
 若い男の声だ。

『どうした、主よ』
「幽霊だ」
『ぬ? どこにも見当たらぬようじゃが』
「近くではない。でも遠くって訳でもない。誰かに話を聞いて欲しそうな、そんな感じだ」

 聞きに行くのかと尋ねられたが、憑りつかれても困る。
 それに――。

「お、お待たせ。ごめんなさい、待たせちゃって」

 と、ほのかな石鹸の香りを漂わせたソディアが戻って来た。
 うん。やっぱりおめかししていたようだ。
 案外女の子らしいよな――と、思わず笑みが零れる。

「な、なによ。どうして笑うの? な、なにか変?」
「いや。あぁ、髪も整えていたんだな」
「そ、そりゃあ王様に会うのよ? 失礼のないように、身だしなみぐらい整えないと」

 そう言って彼女が俺の髪を弄る。

「寝ぐせ?」
「う、うん。ここ、ね。ちょっと……うん、よし」
「ありがとう」
「ふふ。じゃあ行きましょ」

『――誰か……私の声を……どうか、誰か聞いて欲しい』

 悲痛な声が風に運ばれてくる。
 その声に耳を貸さないよう心掛けながら、元いた客間へと向かって歩き出す。
 通路の先、前方からジャスラン隊長と部下がやってくる。
 俺たちの姿を見て、部下の方が踵を返し、ジャスラン隊長だけがやって来た。

「どうかしたかい、お客人」
「あぁー、謁見する前にその……」

 俺は後ろの通路を指さすと、その先に見えるトイレで察したようだ。
 ジャスラン隊長は笑顔で頷くと、謁見はもうすぐだからと客間に急いで戻るよう促された。

 もうすぐ……一国の王様と対面する。

 うん。そう思ったらちょっと緊張してきたぞ。
 部屋に戻ってすぐ、遂にその時は来た。

「お待たせしましたみなさま。謁見の準備が出来ましたので、ご案内します」
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