51 / 97
51:
しおりを挟む
「お、おはよう、ソディア」
「お、おはよう、レイジくん」
以後、沈黙が続く。
昨夜から意識しっぱなしだな、俺。
だいたいソディアみたいな美人が、俺みたいなどこにでもいるような普通の高校生を相手にしてくれる訳ないじゃないか。
ちらりと見た彼女と目が合う。
慌てて逸らす。
けど、また見てしまう。
すると彼女と目が合う。
あれ?
ソディアって、思いっきり俺を見てる?
そういや、彼女の方を見たときって、だいたい目が合ってたような?
え……俺のこと……見てくれてる?
いやいやいや、まさかな。
きっと異世界からやって来た俺を心配して、それで見てくれてるんだよ。
そうだよ。
きっと……。
なんか、自分でここまで否定するかってぐらい否定してると、虚しいものがあるな。
けど、だからって期待するような目で見て、後で実は違いましたってなるほうが痛々しい。
ここは何もないんだって言い聞かせて過ごした方が良いに決まっている。
そう。何も無いんだ。
出発の準備も整いいざ王都に向けて――という場面で、ソディアは馬車には乗り込まず御者台に座るという。
御者台に座れるのは二人だけ。なんせコラッダが甲冑だからな。それだけで若干幅を取る。
手綱はコラッダが握るし……じゃあ俺が馬車?
『じゃあボクは馬を借りますね。親衛隊さ~ん』
と言ってコラッダが御者台から降りる。
いやいやいや。誰が手綱握るんだよ。
え? ソディアさん、やれるんですか?
あ、そうですか。
じゃあ……。
ソディアと二人で御者台!?
『気が利く若造じゃのぉ』
『空気を読めない奴は出世できないって、先輩によく言われましたから』
なんの空気だよ!
ドレスティンを出発して暫く。俺とソディアは一言も発しないまま時間だけが過ぎていく。
途中、田園風景の広がる景色を眺めて思った。
「今は……秋?」
「えぇ、そう。でも収穫の時期にはもう少し早いかしらね」
その一言がきっかけで、ずっと続いていた沈黙も終わった。
ソディアと話していたわかったのは、この世界でも新芽が芽吹くような時期は春であること。
暖かくなり始めて、過ごしやすくなってくる季節だ。
その春が終われば暑い夏が始まり、そして次に秋がやってくる。作物の収穫が行われる季節だ。
そして冬。寒くなり、地域によっては雪が降る、と。
この春夏秋冬も、大陸の南北では随分と変わってくる。
北は平均的に気温が低く、南はやや暖かい。
地球と似たような環境だなと小さく漏らすと、ソディアは「そう」と笑顔で応えた。
「環境の変化で体が馴染めず病気がちに……なんてのも少し心配していたんだけど、大丈夫そうね」
「え、そんなことまで心配してくれてたのか?」
優しいんだな、ソディアって。
そう言うと、彼女は顔を真っ赤にさせてあたふたしはじめる。
「え、あの……その……」
視線を逸らして縮こまる彼女。
その時、風が吹いて彼女の短いスカートが……捲れた!
「はぁっ」
「ど、どうしたの?」
「な、なんでもないっ」
はっとなって周囲を見渡すと、鼻の下を伸ばした親衛隊と目があった。
っく。見せてなるものか!
俺はマントを外し、彼女の眩いばかりの太ももへと掛ける。
「風邪、引くといけないから」
本当はその太ももを――更にその上を隠すため。なんて言える訳もなく。
横目でちらりと見た彼女の顔は、昨夜風呂場で見た湯だった時と同じく、真っ赤だった。
う、うぅん。これだとまた沈黙が続くぞ。
何か話題は……話題は……あ、そうだ。
「昨日さ、こいつらに屋敷の見張りをさせたんだけどさ」
小声でそう言って自分の足元を指さす。
ソディアはそれを見てすぐに、アンデッドだと理解した。
「で、どうだったの?」
「明け方全員戻ってきたが、特に何も」
「諦めたのかしら……あの奴隷商が独断で王女の誘拐を計画したわけじゃないだろうし」
「あぁ。奴も依頼されたって言ってたしな」
誰に依頼されたのか、あの奴隷商自身も本当に知らないんだろう。
金さえもらえればそれでいい……ってことなんだろうな。
ただ、素性を明かさないのは身分の高い奴だからとも言っていた。
「身分の高い奴……か」
「私ね、思うんだけど……」
馬車を引く馬の手綱を握ったまま、ソディアが俺の方に顔を寄せてくる。
馬車の中にいる三人や、周囲の親衛隊には聞こえないよう、小声で会話はしていたが、より警戒するべき内容なのだろう。
「王女とキャスバル王子の関係を快く思っていない何者かが、その関係を崩すためか、もしくは逆に公にしてお二人の立場を追い込もうとして計画したんじゃないかしらって」
「でもアリアン王女の話だと、二人の関係を知っているのは侍女のシリルさんだけっぽいし」
となると、キャスバル王子がいるニライナ王国のほうか。
確かに死んだ奴隷商は、王女をニライナに運ぶのが仕事だったみたいなことを言っていたし。
実際、王女は国境を越えてニライナに……ん?
「ソディア。俺たちが馬車と遭遇したあの山道って、ニライナの領地だったか?」
「え? あそこはヴァルジャスだけど」
「ニライナに王女を運ぼうとしていたのに、ヴァルジャス?」
遠回りしてかく乱させるのが目的だったとも言えなくはないが。
いや、そもそも国境警備隊が詰める検問所も近くにあったんだ。
あの馬車はどうやってあそこを通過したんだ?
もちろん、検問所を通らず山道に入ることも出来る。でもそんなことをすれば、それこそすぐにでも国境警備隊が駆けつけて来ただろう。
それが無かった。
無かったうえに、王女が登場するとみんな驚いていたし。
馬車は検問所を通った。
だが王女が中にいたことには気づかなかった……とか?
普通に後部座席で眠らされていたのに?
なんだこれ。
なんなんだこれ?
俺……推理小説とかまったく読まないんだけど!
「お、おはよう、レイジくん」
以後、沈黙が続く。
昨夜から意識しっぱなしだな、俺。
だいたいソディアみたいな美人が、俺みたいなどこにでもいるような普通の高校生を相手にしてくれる訳ないじゃないか。
ちらりと見た彼女と目が合う。
慌てて逸らす。
けど、また見てしまう。
すると彼女と目が合う。
あれ?
ソディアって、思いっきり俺を見てる?
そういや、彼女の方を見たときって、だいたい目が合ってたような?
え……俺のこと……見てくれてる?
いやいやいや、まさかな。
きっと異世界からやって来た俺を心配して、それで見てくれてるんだよ。
そうだよ。
きっと……。
なんか、自分でここまで否定するかってぐらい否定してると、虚しいものがあるな。
けど、だからって期待するような目で見て、後で実は違いましたってなるほうが痛々しい。
ここは何もないんだって言い聞かせて過ごした方が良いに決まっている。
そう。何も無いんだ。
出発の準備も整いいざ王都に向けて――という場面で、ソディアは馬車には乗り込まず御者台に座るという。
御者台に座れるのは二人だけ。なんせコラッダが甲冑だからな。それだけで若干幅を取る。
手綱はコラッダが握るし……じゃあ俺が馬車?
『じゃあボクは馬を借りますね。親衛隊さ~ん』
と言ってコラッダが御者台から降りる。
いやいやいや。誰が手綱握るんだよ。
え? ソディアさん、やれるんですか?
あ、そうですか。
じゃあ……。
ソディアと二人で御者台!?
『気が利く若造じゃのぉ』
『空気を読めない奴は出世できないって、先輩によく言われましたから』
なんの空気だよ!
ドレスティンを出発して暫く。俺とソディアは一言も発しないまま時間だけが過ぎていく。
途中、田園風景の広がる景色を眺めて思った。
「今は……秋?」
「えぇ、そう。でも収穫の時期にはもう少し早いかしらね」
その一言がきっかけで、ずっと続いていた沈黙も終わった。
ソディアと話していたわかったのは、この世界でも新芽が芽吹くような時期は春であること。
暖かくなり始めて、過ごしやすくなってくる季節だ。
その春が終われば暑い夏が始まり、そして次に秋がやってくる。作物の収穫が行われる季節だ。
そして冬。寒くなり、地域によっては雪が降る、と。
この春夏秋冬も、大陸の南北では随分と変わってくる。
北は平均的に気温が低く、南はやや暖かい。
地球と似たような環境だなと小さく漏らすと、ソディアは「そう」と笑顔で応えた。
「環境の変化で体が馴染めず病気がちに……なんてのも少し心配していたんだけど、大丈夫そうね」
「え、そんなことまで心配してくれてたのか?」
優しいんだな、ソディアって。
そう言うと、彼女は顔を真っ赤にさせてあたふたしはじめる。
「え、あの……その……」
視線を逸らして縮こまる彼女。
その時、風が吹いて彼女の短いスカートが……捲れた!
「はぁっ」
「ど、どうしたの?」
「な、なんでもないっ」
はっとなって周囲を見渡すと、鼻の下を伸ばした親衛隊と目があった。
っく。見せてなるものか!
俺はマントを外し、彼女の眩いばかりの太ももへと掛ける。
「風邪、引くといけないから」
本当はその太ももを――更にその上を隠すため。なんて言える訳もなく。
横目でちらりと見た彼女の顔は、昨夜風呂場で見た湯だった時と同じく、真っ赤だった。
う、うぅん。これだとまた沈黙が続くぞ。
何か話題は……話題は……あ、そうだ。
「昨日さ、こいつらに屋敷の見張りをさせたんだけどさ」
小声でそう言って自分の足元を指さす。
ソディアはそれを見てすぐに、アンデッドだと理解した。
「で、どうだったの?」
「明け方全員戻ってきたが、特に何も」
「諦めたのかしら……あの奴隷商が独断で王女の誘拐を計画したわけじゃないだろうし」
「あぁ。奴も依頼されたって言ってたしな」
誰に依頼されたのか、あの奴隷商自身も本当に知らないんだろう。
金さえもらえればそれでいい……ってことなんだろうな。
ただ、素性を明かさないのは身分の高い奴だからとも言っていた。
「身分の高い奴……か」
「私ね、思うんだけど……」
馬車を引く馬の手綱を握ったまま、ソディアが俺の方に顔を寄せてくる。
馬車の中にいる三人や、周囲の親衛隊には聞こえないよう、小声で会話はしていたが、より警戒するべき内容なのだろう。
「王女とキャスバル王子の関係を快く思っていない何者かが、その関係を崩すためか、もしくは逆に公にしてお二人の立場を追い込もうとして計画したんじゃないかしらって」
「でもアリアン王女の話だと、二人の関係を知っているのは侍女のシリルさんだけっぽいし」
となると、キャスバル王子がいるニライナ王国のほうか。
確かに死んだ奴隷商は、王女をニライナに運ぶのが仕事だったみたいなことを言っていたし。
実際、王女は国境を越えてニライナに……ん?
「ソディア。俺たちが馬車と遭遇したあの山道って、ニライナの領地だったか?」
「え? あそこはヴァルジャスだけど」
「ニライナに王女を運ぼうとしていたのに、ヴァルジャス?」
遠回りしてかく乱させるのが目的だったとも言えなくはないが。
いや、そもそも国境警備隊が詰める検問所も近くにあったんだ。
あの馬車はどうやってあそこを通過したんだ?
もちろん、検問所を通らず山道に入ることも出来る。でもそんなことをすれば、それこそすぐにでも国境警備隊が駆けつけて来ただろう。
それが無かった。
無かったうえに、王女が登場するとみんな驚いていたし。
馬車は検問所を通った。
だが王女が中にいたことには気づかなかった……とか?
普通に後部座席で眠らされていたのに?
なんだこれ。
なんなんだこれ?
俺……推理小説とかまったく読まないんだけど!
0
お気に入りに追加
679
あなたにおすすめの小説
巻き込まれ召喚された上、性別を間違えられたのでそのまま生活することにしました。
蒼霧雪枷
恋愛
勇者として異世界に召喚されチート無双、からのハーレム落ち。ここ最近はそんな話ばっか読んでるきがする引きこもりな俺、18歳。
此度どうやら、件の異世界召喚とやらに"巻き込まれた"らしい。
召喚した彼らは「男の勇者」に用があるらしいので、俺は巻き込まれた一般人だと確信する。
だって俺、一応女だもの。
勿論元の世界に帰れないお約束も聞き、やはり性別を間違われているようなので…
ならば男として新たな人生片道切符を切ってやろうじゃねぇの?
って、ちょっと待て。俺は一般人Aでいいんだ、そんなオマケが実はチート持ってました展開は望んでねぇ!!
ついでに、恋愛フラグも要りません!!!
性別を間違われた男勝りな男装少女が、王弟殿下と友人になり、とある俺様何様騎士様を引っ掻き回し、勇者から全力逃走する話。
──────────
突発的に書きたくなって書いた産物。
会話文の量が極端だったりする。読みにくかったらすみません。
他の小説の更新まだかよこの野郎って方がいたら言ってくださいその通りですごめんなさい。
4/1 お気に入り登録数50突破記念ssを投稿してすぐに100越えるもんだからそっと笑ってる。ありがたい限りです。
4/4 通知先輩が仕事してくれずに感想来てたの知りませんでした(死滅)とても嬉しくて語彙力が消えた。突破記念はもうワケわかんなくなってる。
4/20 無事完結いたしました!気まぐれにオマケを投げることもあるかも知れませんが、ここまでお付き合いくださりありがとうございました!
4/25 オマケ、始めました。え、早い?投稿頻度は少ないからいいかなってさっき思い立ちました。突発的に始めたから、オマケも突発的でいいよね。
21.8/30 完全完結しました。今後更新することはございません。ありがとうございました!
【完結】 魔王討伐のために勇者召喚されたんだが、チートスキル【未来予知】は戦闘向きではない件〜城から追放されて始まる異世界生活〜
金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
町中高校二年B組の生徒十人は勇者召喚の対象者として、異世界に転移させられた。
生徒たちはそれぞれに異なるスキルを有した状態になり、召喚の儀を行った王様に魔王討伐を懇願される。
しかし、そこで魔王の襲撃を受けて生徒たちは散り散りになる。
生徒の一人、吉永海斗は危機的状況を予測する魔眼で難を逃れるが、魔王を倒すに値しないスキルと見なされて城から放り出される。
右も左も分からない状況でギルドを頼るものの、門前払いになって途方に暮れる。
そんな彼がたどり着いたのは、深紅の旅団と呼ばれる多種族の集まりだった。
旅団の創設にはある目的があり、やがて海斗は協力するか否かを迫られる。
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉
まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。
貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
神様との賭けに勝ったので異世界で無双したいと思います。
猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。
突然足元に魔法陣が現れる。
そして、気付けば神様が異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。
もっとスキルが欲しいと欲をかいた悠斗は神様に賭けをしないかと提案した。
神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―――
※チートな主人公が異世界無双する話です。小説家になろう、ノベルバの方にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる