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43:大剣を盛大に振り上げたコウが

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 翌朝目を覚ますと、久しぶりに倦怠感が。
 これも魔力を封印したせいなのだろうか。

「おはよう」

 のそのそとテントから這い出ると、既に朝食の支度を整え終えたソディアがにこやかに挨拶を返してくる。

「おはようレイジくん。体、どこか変な所とかはない?」
「あー、うん。体がダルいような気がするけど、元の世界に住んでいた時にはいつものことだったから……まぁこれが普通なんだろうな」
「そう……異変を感じたらすぐに教えてね」
「分かった」

 ソディアは真剣に俺のことを心配してくれる。
 そういえば、倦怠感があるということは、化け物染みた再生能力も無くなったのだろうか?
 あれは生存率を極端に上げてくれる要素だったし、モンスターも存在するこの世界では有難い能力だったんだけどなぁ。

「どうしたのレイジくん? 朝ごはん、食べないの?」
「あ、いやゴメン。魔力を封印したことで、自己再生能力も無くなったのかなぁって気になって」

 それを聞いたソディアもハっとなって俺の頭上を見る。

「古代竜っ、どうなの!?」
「あれ? ソディア、アブソディラスが見えてる?」
「見えないわ。見えないけどいるのは分かってるの。だってレイジくんに憑りついているんですもの。離れられないんでしょ?」

 その通り。
 見えてないけど、そこにいることが確定しているから、いるつもりで話しかけているだけなのか。
 問われたアブソディラスも首を傾げ『どうじゃろう?』と分からない様子だ。

『確かめるしかありやせんね。今後のことも考えて、ちゃんと把握していたほうがいいですぜレイジ様』
『はぁ……僕が神聖魔法を使えれば、レイジ様が怪我をしても回復して差し上げられるのに』
「回復魔法なら、私の精霊魔法でも出来るから大丈夫だけど……でも心配ね」
「あぁ、ありがとうなトレント、それにソディアも。でもまぁ、確かに確認しておいた方がいいだろうな」

 ということで、食後、俺の腕をちょっとだけ切ってくれ――と、竜牙兵に命令する。
 この山道を文句のひとつも言わず荷物を運んでくれた竜牙兵。
 だがここに来て首を左右に振る。

 え、命令無視?

「ちょっとだけでいいんだ。その剣の切っ先でちょんっと、な?」

 それでも嫌々と首を振る。
 そんな竜牙兵の横から、大剣を盛大に振り上げたコウが――。

『ひゃっはーっ。行くっすよ!』
「ああああぁぁぁぁっ、俺を殺す気かあぁあぁぁぁっ!」

 振り下ろされた大剣が左腕に触れ、極小さな傷をつける。
 痛っー。
 じんわりと血が滲み出てきたが、超回復していた時だって痛みはあったし血も出ていた。
 さて、今はどうだ?

 ……十秒経過。
 以前ならとっくに傷が塞がっている頃だ。
 血を拭き取ってみる。
 あ、まだ滲み出てるな。

 更に十秒経過……もう十秒……塞がってる!?

「以前より傷の治りが遅いけど、それでも自己再生は健在っぽいな」
「よかった。さっきは私も回復魔法あるから大丈夫なんて言ったけど、戦闘中だと魔法が間に合わないなんてことも起こりうるし……。レイジくんにはちゃんと生きてて欲しいもの」
「はは。ありがとう、ソディア。君のためにも死なないよ」
「え!? わ、私のために?」

 俺は彼女に頷いて応える。
 俺が死んだら、ほんと、死人ばかりの一行だもんな。
 俺だってソディアが死んだら嫌だ。だからこそ、全力で彼女のことは守りたい。

 守りたいんだけど、今の俺は非力だ。
 あぁあ。魔力の封印なんか、しなきゃよかった。
 いや、しなかったらしなかったらで、魔法が暴発してソディアを危険な目に合わせてしまう可能性だってあったんだろう。

 やっぱり、真面目に魔法の勉強でもするか。





 朝食を終え、山道でもない斜面を下りきると、今度は谷間を歩く。
 この谷間が山越えの本来の道であり、ヴェルジャスへと伸びている。
 谷間の出口の先に、国境の検問所らしき建物が見える。
 山の斜面を適当に下りていたら、違法入国だと思われて国境警備隊に追われることになる――と、先日ソディアに聞いた。
 もっとも、検問所に繋がる谷間の道以外だと、斜面ではなく、断崖絶壁になっているのでどっちにしろ通れない。

「じゃあみんな、影の中で大人しくしていてくれ」
『分かりやした』
『あのぉ、ボクも入らなきゃダメですか?』

 甲冑を来たコラッダが不安そうに言う。
 彼と同じ、エスクェード王国の騎士たちとは、まだ合流出来ていない。
 待ってやりたかったが、ヴェルジャス帝国からの暗殺者が追って来ているかもしれないというこの状況では、一か所に留まってもいられない。
 せめてドーラム王国に入ってからなら、待つ時間も作れるかもしれない。

「コラッダ。ドーラムに入ったら、どこかの町で滞在しよう。そこで彼らを待てばいい」
『……いえでも、レイジ様の命を狙っている輩がいるのかもしれませんから。出来るだけ帝国から離れましょう』

 コラッダは騎士らしく、今は主となった俺のことを優先してくれる。
 それはそれとて――。

「コラッダ、影の中で待機してくれ。国境を通るとき、入国税を払わないといけないからさ……」
『おぉ、そういうことですか! わっかりましたっ。無賃通行ですね!』

 そこだけ聞くと、まるで俺が悪い奴みたいに聞こえるじゃないか。
 そもそも、死人に通行税が必要なのかって話だ。
 もし必要だったら……。

 現在の人口。俺やソディア、背後霊のアブソディラスも含めて六十八名。
 この人数全ての通行税って言ったら、結構行くだろう。
 どんだけ稼いでも、国を跨ぐといっきに貧乏とか、そんなの嫌だ。

 影の中に全員が入り、竜牙兵だけを荷物持ちとして連れ歩き山道へと出る。
 さっきは俺の命令を無視して剣で腕を切ることを拒絶し続けた竜牙兵。

 元が人間であり、心のあるコウは嬉々として剣を振るった。
 心がない、魔法で生み出された竜牙兵は、俺を傷つけることを拒んだ。

 なんだろう……竜牙兵、マジ可愛い。

 なんて思っていると、足元の影から甲冑がにゅっと出てくる。

「どうした?」
『レイジ様、馬車の音です。他にも馬が数頭いるようで。それもかなり急いでいる感じで……こんな道の悪い谷間の道を馬車で移動なんて、不自然じゃないですかね?』

 コラッダの言葉が終わる前には、その馬車の音とやらが俺の耳にも届いた。
 確かにのんびり走っているようには聞こえないな。
 
 地面はでこぼこした道だ。下手にスピードを出しても、脱輪するかもしれないだろう。
 その馬車を囲むように、馬が数頭見える。もちろん騎手付きで。
 
 土埃を上げ、御者が激しく馬に鞭を振るうのが見えた。

 俺とソディアは咄嗟に山道を外れ、馬車に道を譲り通り過ぎるのを待つ。
 砂を吸い込まないようマントで口元を抑えると同時に俺は警戒する。

『出ますかい? レイジ様』
「いや、ダメだ」

 ただの取り越し苦労かもしれない。
 こんな所でアンデッドを出すわけにはいかない。
 だけど――。

 その馬車は俺たちの横を通り過ぎ、そして……止まった。
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